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138 王太子救出作戦

 王太子を助けて、それから王を助けることに決まった。

 出発しようとすると、サラが真剣な表情で、コンラートに聞こえないぐらい小声で呟いた。

「ルリアちゃん、髪をかくそ?」

「ん?」

「目立たない方がいい。だって、呪者いるんでしょ? それに仮面もつけたほうがいいよ」

「そっか。確かに」

 あたしが解呪したり、呪者と魔法で戦ったら、目立ちすぎてしまう。

 それはとても良くない。

「準備しておいてよかったな?」

 あたしとサラはリュックから、フード付きローブと狐仮面を取り出して身につける。

「サラちゃん、ルリアの髪隠れてる?」

「うん、隠れてる。ばっちりだね。あ。サラも尻尾と耳隠しとこ」

「念のためにな? ……うん、ちゃんと隠れた」

 あたしとサラは互いに、ちゃんと隠れていることを確認した。

「……かっこいい」

 あたしとサラの変装を見てコンラートがぼそっと呟く。

「コンラートも頑張れば、いつか、こういう格好をできるようになる」

「うん。頑張る」

 あたしはかっこいい棒を腰に差し、木剣を右手に持った。

「コンラート。狐仮面の正体がルリアとサラちゃんと言うことは内緒だ」

「わ、わかった。でもなんで?」

「なんでもだ。わかったな?」

「わかんないけど、秘密にする」

「ならばよし」

 仮面をつけたかっこいいあたしにクロがいう。

『仕方ないこともあると思うのだけど、なるべく魔法を使わないで欲しいのだ』

「うん」

『なるべく、スイにまかせるのだ』

「まかされるのである」

 いざというとき以外、魔法は使わないようにしよう。

 背が伸びなくなるのは困るからだ。 

「サラ、コンラート、ダーウの背中に乗るといい。塔まで走る」

 この場に残しておくと人質にされかねないから連れていったほうがいいだろう。

「敵はどうするの?」

「基本はむしだ。でも、むしできないようなら、スイちゃんおねがい」

「まかせるのである!」

 ダーウの背中に、前からあたし、サラ、コンラートの順で乗る。

「ぎゅっと抱きつくといい。落ちないようにな?」

「わかった」「う、うん」

 サラがぎゅっとあたしに抱きつき、コンラートがサラに抱きつく。

「ロアはあたしと一緒にいくのである」

 スイがロアを抱っこする。

「キャロとコルコはついてきてな?」

「きゅ」「ここ」

「ダーウ、窓から出てはしるよ? 振動はすくなくな? 素人コンラートがのってるからね?」

「ばう」

 あたしが窓を開くと、ダーウが外に飛び出す。

 そして、そのまま高さ二・五メルトの柵を軽々と跳び越える。

 浮遊感に包まれて、「ふおぅ」とコンラートが小さく呻いた。

「コンラート。大きな声はださないでな?」

「わ、わかった」

 キャロは柵の隙間を通り、コルコはバサバサと飛んで柵を越える。

 コルコはにわとりだが、数メルト程度なら飛べるのだ。

 スイも片手で柵を掴んで、「ふんっ」と軽々と跳び越えた。

「さすがスイちゃん」

「当たり前なのである。スイは竜であるからなー?」

 人とは比べ物にならないほど、身体能力が高いのだ。

 あたし達を見張っていた偽侍従達も、柵を乗り越えられると思わなかったのだろう。

 全く気づかれなかった。

「このままいくよ!」

「ぁぅ!」

 ダーウはものすごい速さで、音も無く走る。

 上空には鳥の守護獣たちが沢山飛んでくれている。

「こころづよいなぁ」

 すぐに王太子宮が見えてきた。四十人ほど兵隊がいる。

 馬に乗った騎士も二名いた。

「ダーウ、むしして中につっこむよ。こうぞうは、わかってるな?」

 ダーウも光の模型を真剣な表情で見つめていたので、構造を把握しているのだ。

「ぁぅ」

 ダーウは任せてというと。そのまま走り抜ける。

「あ、嫡孫殿下だ! 止めろ!」

「なんだ、お前は」「怪しげな狐仮面が!」

 馬に乗った騎士が兵に指示を出し、あたしたちを止めようとするが、

「さがれ下郎」

「うわああああああ!」

 ダーウに並走するスイが、右手を振るうと、大量の水が現われて、兵士を押し流す。

「スイちゃん、すごいな?」

「スイにかかれば、この程度余裕であるからなー?」

 どや顔をするスイに向かって、

「化け物が! 矢を射かけよ!」

 王太子宮の二階にいて水から逃れた士が弓を構える。

「ピイイイイイイ!」

 そこに五十羽ほどの守護獣の鳥たちが襲い掛かった。

「なんだ、この鳥は! や、矢を……」

 兵士達は矢を射るどころではない。

 クチバシでつつかれ金属製の鎧に穴が開けられ、悲鳴を上げる。

 爪で掴まれて、宙に浮き、二階の高さから落とされる。

「このっ!」

 クチバシと爪を逃れた兵士が、弓に矢をつがえて、フクロウの守護獣を目がけて放つも、

「ぴぃ?」

 フクロウはやすやすと爪で矢を止める。

「ば、ばけもの……うわぁぁぁ」

 そこにコルコが羽をばたつかせて、二階の窓から飛び込んだ。

 コルコに続いて、キャロも素早く走って、壁を登り、二階に飛び込む。

「ここここっここここ!」「きゅきゅきゅきゅきゅ」

 コルコは爪とクチバシを振るって、兵士を追いかけ回す。

 キャロはその隙に二階から一階へと降りていき、

 ——ギィ

 王太子宮の扉が開かれた。

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