目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

162 サラとスイの馬

 あたしがレオナルドの名付けに悩んでいる間、サラとスイは馬小屋の中にいた。

 トマスと一緒に自分の乗る馬を選ぶためである。


 名付け終わったあたしは、レオナルドに待ってもらって、馬小屋の中に入った。


「サラちゃん! スイちゃん! この子の名前、レオナルドにした!」

「おおー、レオナルド、かっこいいのである」

「え? それって、おばさまが……なんでもない。いい名前だね!」


 サラに言われて、「あ、レオナルドって母様が好きな名前だったか?」と思い出した。

 だが、まあ、いいだろう。大したことではない。


 あたしは馬小屋の中を見回した。


 大公家の馬小屋と構造は同じだ。

 真ん中に通路があって、その両脇に馬房がある。


 レオナルドがいたのは、通路である。


「うまたち、みんな落ちついてるね。もっとびっくりしてると思ってた」


 サラが、馬たちを観察しながら言う。


「レオナルドが急にはいってきたのにな?」


 人で言えば、自分の家に知らない巨大な人が入ってくるようなものだ。

 普通はおびえる。ただでさえ、馬は臆病な動物なのだ。


「レオナルドは怖くないって本能で理解しているのかもしれないね?」

「そうかも?」


 サラの言うとおり守護獣というのは、動物たちにとっても特別な存在なのだ。

 本能で、味方で頼りになる存在だと理解したのかもしれない。


 サラは慎重に馬を観察しながら、ミアと一緒に馬小屋の中を歩いて行く。


「……サラは……どの子にのろう」

「ぶるるる〜」


 一頭の馬が、歩くサラの服を口でくわえた。


「どしたの?」

「ぶるぶる」


 その馬は比較的大きめな尾花栗毛、体は栗色でたてがみが金色の美しい馬だった。


 サラが撫でると、嬉しそうにしているが、口を離そうとはしない。


「乗せてくれるの?」

「ぶるるる〜」

「サラはこの子にする!」


 すると厩務員は笑顔で言う。


「この子はサンダー号という名で、従順で大人しく、人が好きないい馬ですよ」

「それでいて、足も速いのです」


 厩務員達の自慢の馬らしい。


「サンダー。よろしくね?」

「ぶるるる」


 サンダー号もサラに選ばれて嬉しそうだ。


「じゃあ、スイはどの子にするであるかな?」

「…………」


 スイが馬房に近づくと、馬はさっとの奥に隠れる。


「ど、どうしたのであるか?」

「竜だからこわいんじゃないかな? うまはおくびょうな生き物だしな?」

「そ、そんな! スイは怖くないであるぞ〜。あ、おぬしにするのである!」


 スイは一頭だけ隠れなかった馬をつかんで、馬房から連れてくる。

 その馬は芦毛で体の大きな馬だ。


「おぬし、大人しいであるな?」

「……」


 本当に大人しい。おびえているようすも他の馬に比べたらあまりない。


「その子はスレイン号というこの群れのリーダーです。普段はやんちゃですが、人には従順です」

「そっかー。スレイン。いっしょにがんばるのである!」

「ぶるる」


 スレイン号は同意するかのように、一声鳴いた。


 その後、トマスも馬を選び、馬小屋の前にみんなで並んだ。

 トマスが選んだのは鹿毛の立派な馬だ。


 あたし以外は皆、引手綱をつかんでいる。


 守護獣の馬は、でかすぎてちょうどいい馬具がないので仕方がない。


「はっはっはっ!」


 ダーウも馬の列に並んでいる。そして、その背にはロアが乗っていた。


「うーん。ルリア様、最初は馬具を載せられる馬に乗りましょうか」

「ひぃん?」


 守護獣の馬が悲しそうな声を出す。


「えー、でもルリア、この子に乗ってあげたいからな?」

「ひぃぃん」

「ルリア様、馬具なしで乗るのは初心者でなくとも難しいのです」


 だから、まずは馬具のある普通の馬で練習すべきだとトマスは言う。


「でも……あ、やってみてダメだったら、別のうまで練習する」

「落馬でもしたら——」

「それはスイに任せるのだ! 落馬してもスイの魔法でどうとでもなるのだ!」

「スイ様がそうおしゃるのであれば……」


 あたしとスイが説得すると、トマスは渋々納得してくれた。


「スイ様。くれぐれも、ルリア様とサラ様が怪我しないよう、見守ってください」

「うむ、任せるのである!」「ばうばう!」


 ダーウも任せろと言っていた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?