あたしがレオナルドの名付けに悩んでいる間、サラとスイは馬小屋の中にいた。
トマスと一緒に自分の乗る馬を選ぶためである。
名付け終わったあたしは、レオナルドに待ってもらって、馬小屋の中に入った。
「サラちゃん! スイちゃん! この子の名前、レオナルドにした!」
「おおー、レオナルド、かっこいいのである」
「え? それって、おばさまが……なんでもない。いい名前だね!」
サラに言われて、「あ、レオナルドって母様が好きな名前だったか?」と思い出した。
だが、まあ、いいだろう。大したことではない。
あたしは馬小屋の中を見回した。
大公家の馬小屋と構造は同じだ。
真ん中に通路があって、その両脇に馬房がある。
レオナルドがいたのは、通路である。
「うまたち、みんな落ちついてるね。もっとびっくりしてると思ってた」
サラが、馬たちを観察しながら言う。
「レオナルドが急にはいってきたのにな?」
人で言えば、自分の家に知らない巨大な人が入ってくるようなものだ。
普通はおびえる。ただでさえ、馬は臆病な動物なのだ。
「レオナルドは怖くないって本能で理解しているのかもしれないね?」
「そうかも?」
サラの言うとおり守護獣というのは、動物たちにとっても特別な存在なのだ。
本能で、味方で頼りになる存在だと理解したのかもしれない。
サラは慎重に馬を観察しながら、ミアと一緒に馬小屋の中を歩いて行く。
「……サラは……どの子にのろう」
「ぶるるる〜」
一頭の馬が、歩くサラの服を口でくわえた。
「どしたの?」
「ぶるぶる」
その馬は比較的大きめな尾花栗毛、体は栗色でたてがみが金色の美しい馬だった。
サラが撫でると、嬉しそうにしているが、口を離そうとはしない。
「乗せてくれるの?」
「ぶるるる〜」
「サラはこの子にする!」
すると厩務員は笑顔で言う。
「この子はサンダー号という名で、従順で大人しく、人が好きないい馬ですよ」
「それでいて、足も速いのです」
厩務員達の自慢の馬らしい。
「サンダー。よろしくね?」
「ぶるるる」
サンダー号もサラに選ばれて嬉しそうだ。
「じゃあ、スイはどの子にするであるかな?」
「…………」
スイが馬房に近づくと、馬はさっとの奥に隠れる。
「ど、どうしたのであるか?」
「竜だからこわいんじゃないかな? うまはおくびょうな生き物だしな?」
「そ、そんな! スイは怖くないであるぞ〜。あ、おぬしにするのである!」
スイは一頭だけ隠れなかった馬をつかんで、馬房から連れてくる。
その馬は芦毛で体の大きな馬だ。
「おぬし、大人しいであるな?」
「……」
本当に大人しい。おびえているようすも他の馬に比べたらあまりない。
「その子はスレイン号というこの群れのリーダーです。普段はやんちゃですが、人には従順です」
「そっかー。スレイン。いっしょにがんばるのである!」
「ぶるる」
スレイン号は同意するかのように、一声鳴いた。
その後、トマスも馬を選び、馬小屋の前にみんなで並んだ。
トマスが選んだのは鹿毛の立派な馬だ。
あたし以外は皆、引手綱をつかんでいる。
守護獣の馬は、でかすぎてちょうどいい馬具がないので仕方がない。
「はっはっはっ!」
ダーウも馬の列に並んでいる。そして、その背にはロアが乗っていた。
「うーん。ルリア様、最初は馬具を載せられる馬に乗りましょうか」
「ひぃん?」
守護獣の馬が悲しそうな声を出す。
「えー、でもルリア、この子に乗ってあげたいからな?」
「ひぃぃん」
「ルリア様、馬具なしで乗るのは初心者でなくとも難しいのです」
だから、まずは馬具のある普通の馬で練習すべきだとトマスは言う。
「でも……あ、やってみてダメだったら、別のうまで練習する」
「落馬でもしたら——」
「それはスイに任せるのだ! 落馬してもスイの魔法でどうとでもなるのだ!」
「スイ様がそうおしゃるのであれば……」
あたしとスイが説得すると、トマスは渋々納得してくれた。
「スイ様。くれぐれも、ルリア様とサラ様が怪我しないよう、見守ってください」
「うむ、任せるのである!」「ばうばう!」
ダーウも任せろと言っていた。