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97 ノースエンドの街



 再会を祝う会を終えると、ミナト達はノースエンドの街へと向かう。


「みんな、またねー!」「ばうばう」「ぴぃ~」「ぴぎ」「りゃ~」

『ご武運をお祈りしております』「がぉう~」


 見えなくなるまで、モナカと虎3号と聖獣達は見送ってくれていた。


 モナカの住処からノースエンドまでは、歩いて二時間ほどかかる。


「わははははは」「りゃっりゃっ」「わふわふ~」

「待つです~」「にゃ~」


 ミナト達は、二時間の道中、ずっと走り回っていた。


「……子供達は体力が凄いな。ミナトはともかくコリンもなかなかだな」


 レックスがそうつぶやくと、ジルベルトがどこか自慢げに頷いた。


「そうだろうそうだろう。コリンは毎日走って鍛えているからな。成長著しいんだ」

「ほほう。それは末が楽しみだな」

「俺も剣を教えているからな。きっと強くなる」


 ジルベルトは優しい目で走り回るコリンを見つめていた。


 ミナト達がノースエンドの街に到着し、街の中に入ると、

「聖女様だ! お美しい」「ジルベルト様かっこいい」

「かわいい子と犬も一緒だ」

 初めて街に入ったときと同様に、たちまち住民達の注目を浴びる。


「めちゃくちゃ見られるじゃないか。……緊張する」


 緊張しているのはレックスだけだった。

 アニエス達は慣れたものだし、ミナトやタロは全く気にしていなかった。


「あ、猫がいる? いや、子虎? かわいい」

「……にゃ」


 住民の視線を意識して、コトラは堂々と尻尾を高く掲げて歩いて行く。


「コトラかっこいい。歩き方がかっこいい」「ばうばう」

「かっこいいです」


 ミナト達はコトラの歩き方を真似して歩く。

 もちろん、ミナトとコリンは二足歩行なので、そのままは真似できない。

 雰囲気を真似しているだけだ。


「でっかい犬はかわいいなぁ。目がかわいい」

「ちっちゃい男の子もかわいい。あんな子が産みたい」

「コボルトの子も賢そうだ」


 ミナトとタロ、コリンも大人気だ。


「……りゃむ」


 だが、沢山の人を見るのが初めてだったルクスは、緊張してミナトにぎゅっと抱きつく。


「ルクス、だいじょうぶだよ。怖くないからね」

「……りゃ」


 すると、ルクスに気づいた住民達が騒ぎ始めた。


「……かわいい」「羽が生えているし、羽トカゲかな? かわいい」

「聖女様が連れているのだから、子供の竜なのかも?」

「まさか、竜なんてそうそうみれるもんじゃないぞ。きっと羽トカゲだ」

 住民達はルクスを竜だとは思わなかったらしい。


「騒がれるよりはいい。竜は恐れられるからな」


 ぼそっとレックスがつぶやいた。


「そんなもんか?」

「ああ、ジルベルトだって、街に突然竜が現れたらびびるだろ」

「それは、……まあ、そうかもな?」

「そういうことだ。竜が賢くて温厚だと知っていたとしても、俺達は強すぎるからな」


 戯れに尻尾を振るだけで、簡単に数軒の家屋が吹き飛ぶ。それが竜だ。


「たとえ赤子でもな。いや、赤子の方が、親竜が駆けつけたら大変なことになりかねないだろ」

「たしかに、そうね。熊とかも山で会うなら成獣より子熊の方が危険っていうものね」


 狩人のサーニャがそう言ってうんうんと頷く。

 成獣の熊は、人を恐れるので、遭遇しても基本的に向こうが逃げていくことが多い。

 だが、子熊と出会った場合、近くにいる親熊は逃げずに、子熊を守ろうと襲いかかってくるのだ。


「まあ、そういうことだ。羽トカゲ? ってのが何かわからんが、竜と思われるよりずっといい」

 そういって、レックスは、ミナトに抱かれるルクスの頭を優しく撫でた。



 しばらく歩いて、レックスが言う。


「ミナト、ジルベルト。まずは冒険者ギルドで報告してくれないか?」

「ああ、幽霊騒ぎについてだな?」

「わかった! 報告する」「ばうばう」


 そして、ミナトとタロはジルベルトと一緒に、冒険者ギルドに向かうことになった。

 ミナトに同行するのは、ピッピ、フルフルとルクスである。


「コリンはどうする? 初めての報告だから一緒に来るか?」


 ジルベルトは気を遣ってコリンに尋ねる。

 コリンは先日冒険者として登録したばかりだ。初めての報告はわくわくするだろう。


 だが、コボルトのみんなに無事を報告することを優先すべきかもしれない。


「パーティ登録してあるから、同行しなくても大丈夫だ。村長達に挨拶を優先してもいいぞ」


 コリンもミナトも、今回はレックスもアニエスパーティの一員なのだ。

 幽霊退治はパーティとして受諾したクエストなので、報告者は一人でいい。


「えっと、コトラは登録しなくていいです?」

「んな?」

「おお、それもそうだな、じゃあ、一緒に行こう」


 魔物を連れ歩くには、従魔登録が必要なのだ。


「あ、ルクスも登録した方がいいね?」

「りゃむ~」

「そうだな。ただ登録種族名をどうするか……レックスはどうした方がいいと思う?」

「んー。竜でいいんじゃないか? 普通は認められないが聖女様の威光もあるし、大丈夫だろう」

「騒ぎにならないか?」

「口止めすればいいだろ」

「それもそうか。じゃあ、行こう」


 そして、アニエス達は、まっすぐ神殿に向かうことになった。

 神殿の皆や、コボルト達が心配しているから、早めに報告した方がいいということになったのだ。


「じゃあ、また後でね!」「わふわふ」

「ミナトもコリンも、早く帰ってくるのですよ」


 アニエス達と別れたあと、ミナト達は早歩きで冒険者ギルドに向かう。


「早く、帰らないとだもんね! いそがないと!」

「ぁぅぁぅ」

「あ、そういえば、コボルトさんたちの引っ越しは終わったのかな?」

「ばう~?」


 新しいコボルトの集落は、ノースエンドの街から少し離れた場所に作られる予定だ。

 コボルト達は、ノースエンドの神殿が所有する畑のうち、使われていない場所をもらっている。

 土地は広く、家を建てる余裕も充分あるとミナトは聞いていた。


「さすがにまだ家は建ってないんじゃないか?」

 ジルベルトがそういうと、コリンは首をかしげる。


「うーん、みんな手先が器用だから、家が建っていてもおかしくないです」

「おおー、さすがコボルトのみんなだね。完成していなかったら、僕もてつだおっかな?」


【細工者】や【剛力】のスキルがあるミナトは五歳児でも建築を手伝うことができるのだ。


「そのときは俺も手伝おう」

「レックスが手伝ったら、みんな喜ぶよ。力持ちだし」「ばうばう~」

「はい、みんな喜ぶです!」


 そして、ミナト達は冒険者ギルドに到着した。







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