到着すると、ミナトはルクスを抱いたまま、扉を開いてギルドの建物の中へと入る。
「こんにちはー!」
「わふわふぅ~」「ぴぃぴぃ~」「ぴぎ~」
「……こんにちはです」「にゃ」
ミナトが元気に挨拶すると、続いて入ったタロ達も元気に挨拶する。
コリンは少し緊張気味に、コトラは堂々と挨拶した。
「うぉ、びっくりした! なんだ、ミナトとタロか。こんにちは」
「ミナトは元気だなぁ。こんにちは」
時刻は昼時。中でご飯を食べていた冒険者達が驚いたあと、ミナト達に笑顔で挨拶してくれた。
遅れて入ってきたジルベルトとレックスも、冒険者達と挨拶する。
「ほら、ルクスもみんなにご挨拶して」
「……り……りゃ」
「お、その子は?」
「えっとね、ルクスっていうの。従魔登録するために連れてきたの」
「ほー、あまり見ない魔物だな。まるで竜……いや、まさかな?」
「そして、この子はコトラ! 虎なんだよ」
「にゃー」
「おお、子供の虎か。末恐ろしいな!」
話している間に、ジルベルトとレックスが受付に行って、幽霊騒動の解決を報告する。
「なんと! あの難事件を! さすが聖女様のパーティです」
それを聞いて、冒険者達もざわめいた。
「おお、幽霊騒動を? どうやったんだ?」
「暴れている虎や熊もいただろう? 容易ではないはずだが……」
ジルベルトが受付に説明する。冒険者達にも聞こえるように大きな声を出している。
「簡単に言うと大精霊が呪われた事件だったんだ」
「なんと! いや、それならば、容易に解決できないのも道理です」
「ですが、大精霊が呪われたというのに、よくぞ解決できましたね?」
「それが聖女パーティの仕事だ」
ジルベルトがそう言うと、「おお~」と歓声が上がった。
ミナトとタロが解決したというと、目立ちすぎて平穏な生活が難しくなる。
だから、ジルベルトはアニエスの功績にした。
王侯貴族と民に期待され、政治に巻き込まれるのは、大人の仕事だと考えているからだ。
「……ありがと」「……わふわふ」
それをわかっているから、ミナトとタロは走って近寄り、小声でお礼を言う。
「ん、こちらこそ、手柄をとったみたいですまんな」
そういって、ジルベルトはミナトとタロの頭をわしわしと撫でた。
「詳しいことはあとで書面で報告するよ。マルセルあたりが」
「それは助かります!」
そのとき、受付の職員はミナトが抱いているルクスに気づいた。
「ミナトさん、その子は?」
「あ、この子はルクスっていうの。ルクスの従魔登録もしたいんだけど……」
「わかりました。えっと、ルクスさんの種族は一体?」
「…………奥の部屋を借りられないか。絶滅危惧種的なあれで。ちょっとな?」
ジルベルトが適当なことを言うと職員は真面目な顔で頷いた。
「ではこちらへ……」
「じゃあ、ミナト、いくぞ。あ、コリンはコトラの従魔登録しておいてくれ」
「え? 僕の従魔としてです? ミナトじゃなくて?」
従魔の主人が登録するのがきまりである。
「そだね、コトラはコリンと組んで戦ったし、その方がいいかも」
ミナトもうんうんと頷いた。
コリンとコトラは、一人と一頭だけで、呪神の導師を倒している。
「俺もそう思ったんだが、コリンとコトラが選んでいいぞ。……どうする?」
「僕は、もちろんうれしいですけど。コトラは?」
「にゃあ~」
「コトラもコリンがいいって」
「ありがとです。コトラよろしくです」
「んにゃ~」
そうして、コトラはコリンの従魔として登録することに決まった。
コトラの登録の補助をレックスに任せ、ミナトとジルベルトとルクスは別室へと移動していった。
ミナト達を見送りながら冒険者の一人がぼそっとつぶやいた。
「……絶滅危惧種らしいぞ?」
「羽トカゲか?」
そう言ったのは、入ってきたばかりの冒険者だ。
「羽トカゲ? なんだそれ?」
「なんか。さっき外で噂になっていた。聖女様が羽トカゲを連れているって」
「……そんな魔物、聞いたことないな」
「誰も聞いたことがないぐらい珍しいから絶滅危惧種なんだろ」
「それもそっか。別室で話すぐらいだものな。羽トカゲについては噂しないようにしよう」
「そうだな、珍しい魔物を誘拐する犯罪者の耳に入ったらことだ」
冒険者達は互いに頷き合った。
そして、緊張気味のコリンは、レックスと一緒に受付でコトラの登録手続きを進める。
「まず、この書類に記入するんだ。コリンは字が書けるよな?」
「はいです! えっと、コトラは虎の子供で……」
「にゃ~」
「ふんふんふん。ゎぅ」
タロが心配そうに、コリンの上から書類をのぞき込んでいる。
タロは大きいので別室に入れなかったので、この場に残ったのだ。
「書けたです!」
コリンが書類を提出すると、受付の職員は困った表情で言う。
「えっと、魔獣の虎となりますと、たとえ子虎でもそれなりの力量が求められますが……」
従魔の主人には、万が一、従魔が暴れ出したときに押さえられる力量が求められるのだ。
「それなりってどのくらいだ?」
「レックスさんならご存じでしょう? 最低でもCはないと……」
Cランクはベテランで頼りにされる冒険者のランクである。
「Cですか……」「にゃむ……」
コリンは先日登録したばかりなので、冒険者ランクは最低のFだ。
「確かにコリンはFだが、聖女パーティだぞ? 問題ないだろ」
「ですが、レックスさんは聖女パーティではありませんし」
聖女パーティが責任を持ってくれるかどうか、レックスではわからないと受付は考えたらしい。
「そうだが……ジルベルトも先ほど、コリンが登録しろって言っていただろ?」
「……そうですね、うーん、ちょっと上に問い合わせます。お待ちください」
そして、コリンはコトラと一緒に椅子に座って、問い合わせの結果を待った。
「まあ、心配ないだろ。タロだって、ミナトの従魔として認められたわけだし」
人前なので、レックスはタロのことを呼び捨てにする。
「わふわふわふ」
タロは、慰めるためにコリンとコトラをベロベロ舐めていた。
一方、別室に案内されたミナトとジルベルト、ルクスは、ギルド長と面談していた。
「ギルド長、この子はここだけの話……竜だ」
「りゅ、竜? 竜って、あの伝説の竜ですか?」
「あの竜だ。山の頂上にいるというあの竜だ」
「な、なぜ、竜がここに?」
「聖女様ともなると、色々あってな?」
「な、なるほど……偉大なる氷竜王とのご関係でしょうか?」
「まあ、そのあたりは察してくれ」
誤魔化しながら話すジルベルトの横で、ミナトとピッピ、フルフルはおとなしくしていた。
「……りゃ」
そしてルクスは不安げにミナトにしがみついている。
「……聖女様のご関係ならば、登録を受け付けない訳にはいきませんな」
「ありがと!」
「ルクスさんの種族名は『竜』でよろしいですか?」
「うん! それでお願い!」
本当は古代竜と登録すべきだろうが、それはさすがに目立ちすぎるので、竜でいいのだ。
その後、魔導具でルクスの能力を測って登録を完了する。
そして、皆でコリン達の元へと戻った。
「お、まだ、終わってないのか?」
ジルベルトが尋ねると、しょんぼりした様子のコリンが言う。
「はい、僕がまだFランクなので……」「んなぁ」
「あー、魔獣の虎は基本的にCランク以上だったか?」
ジルベルトは、受付の職員と一緒に出てきたギルド長に言う。
「コトラについては聖女パーティが責任を持つから安心してくれ」
「……そういうことでしたら、登録いたしましょう」
ジルベルトが一言いうだけで、あっさり登録が認められた。
「さすがは聖女パーティだな?」
「聖女パーティというよりは、聖女アニエスのご威光だよ」
レックスとジルベルトがそんなことを話している間、ミナトとタロは、
「あ、竜焼きってのをもらったんだ! みんなも食べて!」
「ばうばう!」
竜焼きを、冒険者のみんなに配っていた。
「竜焼き? 聞いたことがないな?」
「えっとね、氷竜さんたちが作ったんだ!」
「おお、それは凄い。というか、あの山に住まうという氷竜に会ったのか?」
「会った! でかかったよ!」
「さすがは聖女パーティだな?」
聖女は凄いと褒めた後、冒険者達は竜焼きを食べる。
「お、これはうまい」
「ああ、甘さが丁度いいな!」
冒険者達にも竜焼きは大好評だった。
「そうかそうか! おいしいか!」
竜焼き製作を手伝ったレックスも誇らしげだ。
「なぜレックスが自慢げなんだ?」
「俺も竜焼きが好物だからな!」
「レックスも食べて」
「おお、ありがとう!」
そして、ミナトやコリン、ジルベルト、タロ達も一緒に竜焼きを食べたのだった。