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98 冒険者ギルドに報告しよう



 到着すると、ミナトはルクスを抱いたまま、扉を開いてギルドの建物の中へと入る。


「こんにちはー!」

「わふわふぅ~」「ぴぃぴぃ~」「ぴぎ~」

「……こんにちはです」「にゃ」


 ミナトが元気に挨拶すると、続いて入ったタロ達も元気に挨拶する。

 コリンは少し緊張気味に、コトラは堂々と挨拶した。


「うぉ、びっくりした! なんだ、ミナトとタロか。こんにちは」

「ミナトは元気だなぁ。こんにちは」


 時刻は昼時。中でご飯を食べていた冒険者達が驚いたあと、ミナト達に笑顔で挨拶してくれた。

 遅れて入ってきたジルベルトとレックスも、冒険者達と挨拶する。


「ほら、ルクスもみんなにご挨拶して」

「……り……りゃ」

「お、その子は?」

「えっとね、ルクスっていうの。従魔登録するために連れてきたの」

「ほー、あまり見ない魔物だな。まるで竜……いや、まさかな?」

「そして、この子はコトラ! 虎なんだよ」

「にゃー」

「おお、子供の虎か。末恐ろしいな!」


 話している間に、ジルベルトとレックスが受付に行って、幽霊騒動の解決を報告する。


「なんと! あの難事件を! さすが聖女様のパーティです」


 それを聞いて、冒険者達もざわめいた。


「おお、幽霊騒動を? どうやったんだ?」

「暴れている虎や熊もいただろう? 容易ではないはずだが……」


 ジルベルトが受付に説明する。冒険者達にも聞こえるように大きな声を出している。


「簡単に言うと大精霊が呪われた事件だったんだ」

「なんと! いや、それならば、容易に解決できないのも道理です」

「ですが、大精霊が呪われたというのに、よくぞ解決できましたね?」

「それが聖女パーティの仕事だ」


 ジルベルトがそう言うと、「おお~」と歓声が上がった。

 ミナトとタロが解決したというと、目立ちすぎて平穏な生活が難しくなる。

 だから、ジルベルトはアニエスの功績にした。


 王侯貴族と民に期待され、政治に巻き込まれるのは、大人の仕事だと考えているからだ。


「……ありがと」「……わふわふ」


 それをわかっているから、ミナトとタロは走って近寄り、小声でお礼を言う。


「ん、こちらこそ、手柄をとったみたいですまんな」


 そういって、ジルベルトはミナトとタロの頭をわしわしと撫でた。


「詳しいことはあとで書面で報告するよ。マルセルあたりが」

「それは助かります!」


 そのとき、受付の職員はミナトが抱いているルクスに気づいた。


「ミナトさん、その子は?」

「あ、この子はルクスっていうの。ルクスの従魔登録もしたいんだけど……」

「わかりました。えっと、ルクスさんの種族は一体?」

「…………奥の部屋を借りられないか。絶滅危惧種的なあれで。ちょっとな?」


 ジルベルトが適当なことを言うと職員は真面目な顔で頷いた。


「ではこちらへ……」

「じゃあ、ミナト、いくぞ。あ、コリンはコトラの従魔登録しておいてくれ」

「え? 僕の従魔としてです? ミナトじゃなくて?」


 従魔の主人が登録するのがきまりである。


「そだね、コトラはコリンと組んで戦ったし、その方がいいかも」


 ミナトもうんうんと頷いた。

 コリンとコトラは、一人と一頭だけで、呪神の導師を倒している。


「俺もそう思ったんだが、コリンとコトラが選んでいいぞ。……どうする?」

「僕は、もちろんうれしいですけど。コトラは?」

「にゃあ~」

「コトラもコリンがいいって」

「ありがとです。コトラよろしくです」

「んにゃ~」


 そうして、コトラはコリンの従魔として登録することに決まった。

 コトラの登録の補助をレックスに任せ、ミナトとジルベルトとルクスは別室へと移動していった。

 ミナト達を見送りながら冒険者の一人がぼそっとつぶやいた。


「……絶滅危惧種らしいぞ?」

「羽トカゲか?」


 そう言ったのは、入ってきたばかりの冒険者だ。


「羽トカゲ? なんだそれ?」

「なんか。さっき外で噂になっていた。聖女様が羽トカゲを連れているって」

「……そんな魔物、聞いたことないな」

「誰も聞いたことがないぐらい珍しいから絶滅危惧種なんだろ」

「それもそっか。別室で話すぐらいだものな。羽トカゲについては噂しないようにしよう」

「そうだな、珍しい魔物を誘拐する犯罪者の耳に入ったらことだ」


 冒険者達は互いに頷き合った。

 そして、緊張気味のコリンは、レックスと一緒に受付でコトラの登録手続きを進める。


「まず、この書類に記入するんだ。コリンは字が書けるよな?」

「はいです! えっと、コトラは虎の子供で……」

「にゃ~」

「ふんふんふん。ゎぅ」


 タロが心配そうに、コリンの上から書類をのぞき込んでいる。

 タロは大きいので別室に入れなかったので、この場に残ったのだ。


「書けたです!」


 コリンが書類を提出すると、受付の職員は困った表情で言う。


「えっと、魔獣の虎となりますと、たとえ子虎でもそれなりの力量が求められますが……」


 従魔の主人には、万が一、従魔が暴れ出したときに押さえられる力量が求められるのだ。


「それなりってどのくらいだ?」

「レックスさんならご存じでしょう? 最低でもCはないと……」


 Cランクはベテランで頼りにされる冒険者のランクである。


「Cですか……」「にゃむ……」


 コリンは先日登録したばかりなので、冒険者ランクは最低のFだ。


「確かにコリンはFだが、聖女パーティだぞ? 問題ないだろ」

「ですが、レックスさんは聖女パーティではありませんし」


 聖女パーティが責任を持ってくれるかどうか、レックスではわからないと受付は考えたらしい。


「そうだが……ジルベルトも先ほど、コリンが登録しろって言っていただろ?」

「……そうですね、うーん、ちょっと上に問い合わせます。お待ちください」


 そして、コリンはコトラと一緒に椅子に座って、問い合わせの結果を待った。


「まあ、心配ないだろ。タロだって、ミナトの従魔として認められたわけだし」


 人前なので、レックスはタロのことを呼び捨てにする。


「わふわふわふ」

 タロは、慰めるためにコリンとコトラをベロベロ舐めていた。



 一方、別室に案内されたミナトとジルベルト、ルクスは、ギルド長と面談していた。


「ギルド長、この子はここだけの話……竜だ」

「りゅ、竜? 竜って、あの伝説の竜ですか?」

「あの竜だ。山の頂上にいるというあの竜だ」

「な、なぜ、竜がここに?」

「聖女様ともなると、色々あってな?」

「な、なるほど……偉大なる氷竜王とのご関係でしょうか?」

「まあ、そのあたりは察してくれ」


 誤魔化しながら話すジルベルトの横で、ミナトとピッピ、フルフルはおとなしくしていた。


「……りゃ」

 そしてルクスは不安げにミナトにしがみついている。


「……聖女様のご関係ならば、登録を受け付けない訳にはいきませんな」

「ありがと!」

「ルクスさんの種族名は『竜』でよろしいですか?」

「うん! それでお願い!」


 本当は古代竜と登録すべきだろうが、それはさすがに目立ちすぎるので、竜でいいのだ。

 その後、魔導具でルクスの能力を測って登録を完了する。


 そして、皆でコリン達の元へと戻った。


「お、まだ、終わってないのか?」


 ジルベルトが尋ねると、しょんぼりした様子のコリンが言う。


「はい、僕がまだFランクなので……」「んなぁ」

「あー、魔獣の虎は基本的にCランク以上だったか?」


 ジルベルトは、受付の職員と一緒に出てきたギルド長に言う。


「コトラについては聖女パーティが責任を持つから安心してくれ」

「……そういうことでしたら、登録いたしましょう」


 ジルベルトが一言いうだけで、あっさり登録が認められた。


「さすがは聖女パーティだな?」

「聖女パーティというよりは、聖女アニエスのご威光だよ」


 レックスとジルベルトがそんなことを話している間、ミナトとタロは、

「あ、竜焼きってのをもらったんだ! みんなも食べて!」

「ばうばう!」

 竜焼きを、冒険者のみんなに配っていた。


「竜焼き? 聞いたことがないな?」

「えっとね、氷竜さんたちが作ったんだ!」

「おお、それは凄い。というか、あの山に住まうという氷竜に会ったのか?」

「会った! でかかったよ!」

「さすがは聖女パーティだな?」


 聖女は凄いと褒めた後、冒険者達は竜焼きを食べる。


「お、これはうまい」

「ああ、甘さが丁度いいな!」

 冒険者達にも竜焼きは大好評だった。


「そうかそうか! おいしいか!」

 竜焼き製作を手伝ったレックスも誇らしげだ。


「なぜレックスが自慢げなんだ?」

「俺も竜焼きが好物だからな!」

「レックスも食べて」

「おお、ありがとう!」


 そして、ミナトやコリン、ジルベルト、タロ達も一緒に竜焼きを食べたのだった。






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