竜焼きを食べる会を終えた後、ミナト達は神殿へと向かうことになった。
ギルドを出ると、レックスが言う。
「それじゃあ、俺はひとまず家に帰るよ」
「えー、レックスも神殿に来ればいいのに」
「俺には俺の仕事があるんだよ。なじみの店で色々仕入れたり、新製品を調べたりな」
「忙しいんだね?」「わふ?」
「ああ、他にも色々と仕事があるからな。面倒見ている奴らもいるし」
どうやら、レックスには氷竜ではない情報収集や仕入れを手伝わせている子分がいるらしい。
「レックスはBランク冒険者だものね?」「わふわふ」
Bランクは一流のランクだ。名前も売れるし、尊敬される。
子分ぐらいいても不思議ではない。
「最近は王の関係で忙しくてな、面倒見てやれてなかったし、会いに行かないといけないからな」
長いこと会っていなかったらもめ事だって起きるだろう。
「面倒だが仕方ない。もめ事や面倒を解決するのも、親分の勤めだからな」
レックスは面倒見もいいらしい。
「そっかー。ならしかたないね」「わふ~」
レックスはミナトとタロを優しく撫でたあと、コリンのことも撫でる。
「コリン。建築で人手がいるなら、いつでも言ってくれ。手伝いに行くからな」
「ありがとです!」
「ルクス。元気でな? ミナトの言うことをよく聞くんだぞ」
「りゃむ」
「レックス。用がなくても会いに来てね? ルクスもさみしがるし」
「言われなくても遊びに行くさ。ミナト達も暇ならうちに遊びに来いよ」
「うん! あ、そうだ! レックスの家ってどこなの?」
「あっちに青い屋根の家が見えるだろう? あれだ」
レックスが指さした家は、冒険者ギルドから徒歩一分ぐらいの距離にあり、かなり大きかった。
「でかいね?」
「この街における氷竜の拠点だからな? 仕入れた物を一時的に保管する場所でもあるし」
「なるほどー。倉庫みたいなものだね!」
「そうそう。魔法の鞄があるから、普段はガラガラなんだが、いざというときのためにな」
「いざというときって?」
「そりゃ、みんなでパーティしたりとかだよ。ちなみにタロ様も入れるぐらい広いからな?」
「ぁぅ!」
街中なので、タロは尻尾を振りつつ控えめに鳴いて、喜びを表明した。
「あ、寄っていくか? お茶ぐらいだすぞ」
「うーん、凄く行きたいけど……、コボルトのみんなを待たせているからね」
「そっか、そうだな。またいつでも来いよ! 絶対だからな!」
「うん、またねー」「ぁぅゎぅ」「ぴぴ」「ぴぎ」「りゃむ」
ミナト達に見送られて、レックスは自宅へと帰っていった。
その後、ミナト達は神殿に向かって早歩きで進んでいく。
早歩きなのは、アニエスやコボルト達が待たせているからだ
「ルクス。これが人の街だよー。あの屋台では焼きりんごを売っているよ」
早歩きで進みながらも、ミナトはルクスに街について説明していく。
「焼きリンゴっていうのはね、リンゴをくりぬいてチーズとかレーズンとか入れて――」
「……」
だが、ルクスは、ほとんど何も見ずに不安そうに顔をミナトのおなかに押しつけている。
まだ人が怖いのだ。レックスがいなくなったことで、余計に不安になったのかもしれない。
「あっちは八百屋さんで、野菜とか売ってるよ」
「……りゃむ」
ミナトは優しく撫でながら、ルクスに話しかけ続けた。
一方、コトラは元気に駆け回っている。
どうやら、ルクスとは違い、初めて訪れる人の街への興味が抑えきれないらしい。
「んにゃ~」
「コトラだめです! 離れて走り回ったら迷子になるです!」
駆け回るコトラを、一生懸命コリンが追いかけている。
「コトラは元気だねぇ。ね、ルクス」
「……りゃ」
「コトラは猫かぶってたのか? さっきは上品に歩いていたのに」
「そうかも? さっきはいろんな人にみつめられていたからね?」
聖女アニエスはとにかく注目を集める。だからコトラも気合いを入れていたのかもしれなかった。
「コトラ、止まるのです! そっちはドブなのです!」
「んな~ふぎゃ!」
コリンの忠告は間に合わなかった。コトラは見事にドブにはまった。
「あー、やっちゃったです」
「……んにゃ」
「仕方ないのです。下水じゃなくて、雨水を流すドブでよかったですよ」
コリンはコトラを抱き上げる。
「コトラ、だいじょうぶ?」「わふ?」
ミナトとタロが優しく声をかけると、コトラはコリンの腕の中からミナトへと飛び移る。
「……にゃ……ごろごろ」
コトラは「乾かして」といいながら、ミナトに甘えた。
「りゃむ?」「ぴ?」「ぴぎ」
ルクスとピッピ、フルフルも心配そうにコトラを見つめていた。
「大丈夫だよ、すぐ乾くからねー」
ミナトは歩きながら、コトラのことを乾かしていく。
「んにゃ~」
あっという間に乾くと「ありがと」と鳴いて、コトラはコリンの肩へとぴょんと飛び移る。
「ごろごろごろ」
「くすぐったいのです!」
そして、喉を鳴らして、コリンの顔をペロリと舐めた。
コリンはコボルトなので、顔も毛皮で覆われている。
だから、ざらざらな舌で舐められても痛くないのだ。
「あ、神殿が見えてきたよ、ルクス。コトラ。今日はあの建物で泊まるんだよー」
「りゃ」「んにゃ」
神殿前にはコボルトのみんなが待っていた。
アニエス達から帰還を聞いて、ずっと待っていてくれたようだ。
「コリン!」
「よくぞ帰ってきた!」「心配していたよ!」
コボルト達はコリンを見つけると、一斉に駆けてきた。みんな尻尾をぶんぶんと振っている。
「帰ってきたですよ」
「うむうむ。聖女様から聞いたぞ。頑張ったそうだな」
「コリンは、我らの誇りだ!」
「そんな、僕はたいしたことなんて……」
照れながら謙遜するコリンだったが、
「いや、コリンは頑張っていたぞ。詳しい活躍は後で話すが……」
「んにゃ~~」
「コトラもコリンは凄いって言ってるよ。僕もコリンは頑張ったと思う」
ジルベルトとコトラとミナトが褒める。
「なんと、ありがとうございます。そう言っていただけると、とても嬉しく………」
村長は喜びのあまり涙ぐんでいる。
「ばうばーう」
「おお、タロ様まで……コリンを褒めていただけるとは」
タロがコリンを褒めるので、コボルト達はますます喜んだ。
その後、ミナト達はコボルト達と一緒に神殿に入る。
「アニエスたちは?」
「神殿長に報告しているところです。すぐに戻りますよ」
「そっかー」
「どうやら、神殿長が忙しいらしくて……」
「そっかー、神殿長って、大変なおしごとだものなー」「わふわふ~」
ミナト達はそのまま、前回寝泊まりした部屋へと入る。
ミナト達が使っている部屋は、タロも一緒に泊まれるぐらい広い部屋なのだ。
だから、コボルト達も一緒に入ることができた。
ミナトは、キョロキョロ周囲を見回すと、真剣な表情になる。
「みんな。ちょっと、集まって欲しいんだ」「わふわふ」
「……はい」
何事とかと緊張気味に近づいてきたコボルト達にミナトは小声で言う。
「あのね、この子を紹介するね」「ゎぅゎぅ」
「ありがとうございます。先ほどから気になっていました」
ミナトが小声なので、コボルト達も小声だ。
「名前はルクスっていうの。竜の赤ちゃん」「ぁぅ」
「竜? といいますと、あの竜ですか?」
「そう、あの竜」「ぁぅゎぅ」
「凄い。竜は恐ろしいものだと思っていましたが、かわいいですね」
「りゃむ~」
ルクスはコボルト達は怖くないらしく、じっとコボルト達を見つめている。
「それでね。竜ってのいうは、一応秘密ね?」
「わかりました。命に代えましても、秘密を守ります」
コボルト達が真剣な表情になるので、ジルベルトが言う。
「そこまで凄い秘密ではないぞ。ギルドには竜で登録してあるしな」
「そうそう、ジルベルトの言うとおり! 命をかけるほどじゃないよ?」
「わ~うわう」
「タロ様が命大事にとおっしゃるのでしたら……ですが、軽々しくは口にはしません」
「ありがと」
そして、ミナトはコトラのことも紹介する。
「それでこの子がコトラ。聖獣虎の子供なんだけど、コリンの従魔になったんだ」
「コトラは修行するために、ミナトとタロ様に同行するですよ!」
「おお、かわいい」「コリン、虎を従魔にするとは……立派になって」
それから、コボルト達はルクスとコトラに自己紹介して、撫でる許可をもらっていた。
「ルクスはかわいいですね~」
「りゃむ~」
「コトラもかわいい」
「ごろごろ」
ルクスもコトラも、コボルト達に撫でられて、ご満悦だった。
「あ、そうだ! みんな竜焼きがあるよ! 氷竜さん達とつくったんだよー」
そして、ミナトはいつものように、竜焼きを振る舞った。
「おお、これはおいしい」
「あんこを使っている点はあんパンと同じですが、味わいが違いますな」
「そうなんだ~レシピはー」
ミナトは氷竜達に教わったレシピを教える。
「あんパンと一緒に売ったらいいと思う! 氷竜さん達もそうして欲しいって」
「おお、ありがたい!」「助かります!」
コボルト達はミナトが思っていたよりも、喜んだ。
「畑の準備ができない状況ですからな。販売できる物が増えるのは助かります」
村長の言葉に、ジルベルトは引っかかるものを感じた。
「ん? ちょっと待ってくれ。準備もできないのか? 確か予定では……」
家の建築と並行して、植え付けの季節に向けて土作りなどの準備を始める予定だった。
ミナト達が山に向かってから、十日以上経っている。
計画通りならば、家の建築と、土作りが進んでいる頃合いだ。
「実は……困ったことがおきましてな」
「ほほう? 聞かせて聞かせて?」「ばうばう」
そして、村長はゆっくりと語り始めた。