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100 農地と魔獣



 コボルト達はノースエンド近くにある神殿領の土地を借りることになっていた。

 その土地は農地の中に住居が建っており、小さな村となっている。


 その村は十五年前に放棄され、今は廃村となっていた。

 だが、農地をそのままにしておくのはもったいない。


 だから、コボルト達が格安で借りることが出来たのだ。


「神殿長から廃村の場所を聞いて、みんなで向かったのですが……」


 コボルト達が廃村に向かったのは、ミナト達が山に向かって出発した日のお昼だった。


「廃村には魔獣がいたのです」

「ん? 魔獣はいるかもって話だったよな? だから冒険者を同行させるって」


 ジルベルトが首をかしげる。


「そうなの?」

「ああ、そもそも魔獣が出たから村は放棄されたんだ」


 今回、貸し出されるときに、冒険者を雇って魔獣を駆除することになっていたらしい。


「それがですね。神殿長がおっしゃっていたよりも、ずっと強い魔獣だったのです」

「どんな魔獣なの?」「わぅ?」

「とても大きな魔猪まちょ、それに魔鼠まそ魔狸まりですね。それに魔梟まきょうもいました」

「猪とネズミ、狸とフクロウ。ふむふむ。神殿が言っていた魔物はなんだったの?」「わふ~」

「普通の魔猪だけです」

「村が放棄されてからの十五年で、魔獣が増えたみたいで……」


 十五年は魔獣が住み着くには充分な長さである。

 村長達の話を聞いて、ジルベルトが「うーん」とうなった。


「猪は元々危険なんだ。魔獣でなくとも猪は危険だが、魔獣となると危険度は跳ね上がる」

「そんなに危ないの?」「わふ?」

「もちろん、ミナトやタロ様なら余裕だろうが、それこそ村が放棄されるぐらいには強い」


 魔猪は体高、つまり地面から背中までの高さが一メートルほどもある。

 体長、つまり胸からお尻までの長さは二メートル近い。

 そして、牙は長くて鋭いのだ。


「そんな奴に体当たりされたら、家は壊れるし、人は死ぬ」

「ほえー」「わふ~」

「魔鼠も厄介なのです。魔鼠は、ただのネズミより賢くて沢山食べるですから」


 コリンの言葉に、村長は頷いた。


「『魔猪がでたら冒険者を雇え。魔鼠が出たら畑を捨てろ』とまで言われているほどですぞ」


 農家にとって、魔鼠は魔猪以上に恐れられているらしい。


「狸の魔獣は?」

「魔狸か? あまり聞かないな。マイナーな魔物だ」

「そもそも、狸自体あまりみないですからね」


 魔狸の情報はあまりないらしかった。


「ん? 街にほど近い村が魔猪程度で放棄されているのか疑問だったんだが……まさか」

「……神殿長は、そんなことはないとおっしゃっていましたが……」


 ジルベルトが疑っているのは、魔鼠が出たから放棄されたのではないか、ということだ。

 放棄された後に魔鼠が来たならば、神殿も知らなかったかもしれない。

 だが、もし魔鼠がいることを知っていたならば、話は変わってくる。


「神殿長は、十五年前は、普通の大きさの魔猪が出ただけだったらしいです」

「だから、冒険者を雇えば、退治できると考えていたと」

「じゃあ、どうして放棄されたの?」「わぅ?」


 ミナトが尋ねると、タロも同じことを尋ねる。

 タロはミナトを真似したい年頃なのだ。


「丁度、近くで鉱脈が見つかって、そちらで稼いだ方がいいと言うことになったらしいです」

「冒険者の人手も、農業に従事する人手も足りなかったと」


 どうやら鉱山には魔物は出ないらしいが、鉱山と街の街道には魔物が出る。

 それで、沢山の腕のいい冒険者が護衛任務と魔物退治に従事することになった。


「なるほどー」「わふ~」


 そんなことを話していると、コトラが尻尾をピンと立てて堂々と鳴いた。


「んにゃ~!」

「コトラ、ありがと。そだね、コトラがいればネズミも安心かもです」


 虎は猫科なので、ネズミ退治は得意なのだ。


「え? コリンはコトラの言葉がわかるの?」「わぅ?」


 コリンとコトラが自然に会話していたので、ミナトとタロは驚いた。


「えっと、わからないですけど、なんとなくです」

「にゃ~」

「そっかー、仲がいいものね」「わふ~」


 特殊なスキルが無くとも、犬や猫が言いたいことがわかることはある。

 おなかが減ってるとか、遊んで欲しいとか、散歩に行きたいとか。

 コリンとコトラはそういう状態なのかもしれなかった。


「だが、ミナトとタロ様と一緒に旅をする以上、コトラはずっと魔鼠を追い払えないよな」

「んな~」

「そだね、僕とタロは、旅をやめるわけにはいかないし」

「ゎぅ~」

「神殿長に言って、借りる土地を変えてもらう方がいいかもな?」

「それは、いまアニエス様が交渉してくださっています」

「だから、なかなか帰ってこないんだね」「わふわふ~」


 ミナトとタロは、報告をしているにしては長いなーと思っていたのだ。


「アニエス達が帰ってきてから、今後のことを相談するか」

「そだね! じゃあ、今のうちに神像をつくろっかな!」

「わふわふ!」

「コボルトさんの家の周りに置いたら、呪者よけになるからねー。はい、これがタロの分」


 ミナトはサラキアの鞄から粘土を取り出して、タロと自分の前に置いた。 


「わうわうー」

 そして、ミナトとタロは粘土をコネコネする。

 ミナトは両手を器用に使って、タロは鼻と前足を使って作っていった。


 一方、コリンはコボルト達に竜焼きのレシピについて説明していた。


「えっと、さっきミナトが説明したとおり、基本は小麦粉と卵と、砂糖を同量まぜるですよー」

「ほうほう? だが、先ほどいただいた竜焼きの生地は比率が違うように感じたが……」

「それはノースエンドでは甘い方がこのまれるっぽいから、氷竜さん達が工夫したです」

「ほうほう? 確かに、甘い方が好まれるかもしれないな?」


 以前食べた、ノースエンドで人気の焼きリンゴはかなり甘かった。


「寒いと甘い方が人気っぽいですからね」

「あと、体を動かした後は、甘い方がうまく感じる気がするぞ」


 ジルベルトがそう言うと、コボルト達は納得したようだった。


「確かに疲れていると、甘さが体にしみますからのう」

「なるほど。甘さは好みによって調節するのがいいかもしれませんな」

「あ、甘さ控えめの竜焼きもあるよ! あとであげるね!」


 手を泥だらけにしたミナトがそういった。


 一方、コトラは、ルクス相手にネズミ退治の手本を見せていた。

「にゃあ! にゃ?」


 コリンが使っていた枕をネズミに見立てて、暴れている。

 前足を使って猫パンチをしたあと、かみつくらしい。


「にゃにゃにゃにゃ」


 そして枕にかみついたまま、ぶんぶんと振り回す。


「りゃ! りゃあ~……りゃりゃりゃりゃりゃ!」


 それをみて、ルクスがミナトの枕を使って、真似をする。

 ルクスが首をぶんぶんと振ると、体の割に太い尻尾がぶんぶんと揺れた。


「にゃにゃ~~」

「りゃ~」


 コトラに、筋がいいと褒められて、ルクスはご機嫌に羽をパタパタさせた。

 そんなルクスとコトラを、ピッピとフルフルは優しい目で見つめている。

 その目は、まるで親鳥がひな鳥を見つめているかのようだった。


 コトラとルクスが三匹のネズミを退治したつもりになった頃、ミナトは神像を完成させた。

「よし、できた!」

 ミナトの作ったサラキアの像はかなり精巧な美少女の像だった。


「ばうばう!」

 ミナトに続いてすぐにタロも至高神像を完成させた。


「おおー、タロもうまくなったね」

「わふぅ~」

 タロの作った至高神の像も、少し進歩していた。


「表面がなめらかになってるね。前足の使い方がうまくなったんだね」

「わふ」

 ミナトに褒められて、タロは誇らしげに尻尾を振った。

 まだ、人型には見えないが、タロのうんこのようにも見えなくなった。


 例えるならば、ボーリングのピンのようだ。

「どんどん作って焼いていこう!」

「わふわふ~」


 ミナトとタロは、どんどん像を造って、魔法を使って焼成していく。


「ただいまもどりまし……おお?」


 アニエス達が戻ってきたときには、ミナトとタロは十体ずつ神像を完成させていたのだった。







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