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101 農地をどうするかの相談



 アニエス達が戻ってきたのは、日没間近になってからだった。


 戻ってきたアニエスにジルベルトが尋ねる。

「アニエス。農地の件はどうだった?」

「もう聞いたのですね。実は……」

「なにやら、替わりとなる農地がないようでしてな」

 言いよどむアニエスの代わりにヘクトルが答えた。


「……余っている農地が無いのか」

「そうじゃなくて、ノースエンドの神殿が持っている農地が、あそこだけみたいなの」

「元々、ノースエンドの神殿は農地をあまり持っていなかったうえ、今は鉱業がメインなようで」


 サーニャとマルセルが教えてくれる。


 どうやら、神殿は鉱山にも権利を持っているらしい。

 そして、今の神殿の収益の大半は、鉱山からもたらされるということだ。


「鉱山って儲かるんだねぇ」

「その儲かった金で、養護院やら病院の経営しておるのです。神殿事業の屋台骨ですな」


 神殿騎士で、神殿の経営にも詳しいヘクトルが優しく教えてくれる。

 神殿としても鉱山を重視せざるを得ないのだろう。


「だから、今、神殿が持っている農地は、コボルトさん達に貸したもので全部なようです」

 アニエスの表情は暗い。


「元々、農業事業は良くてトントン、赤字の年も多いぐらいだったらしく……」

 鉱山が軌道に乗った今は、神殿は農業事業は後回しにしがちなのだ。


「そうでしたか」

 村長達の表情も暗かった。


「俺の実家に行くか?」

「ジルベルトの実家は、農業が盛んな地域だから、それもいいかもしれませんね」

 ジルベルトの言葉にマルセルは賛成した。


「だけど、遠いでしょ? 冬までに間に合うの? 冬の移動は厳しいわよ?」

「サーニャの言うとおり。年をとると冬季の移動は厳しいですからな」

 ヘクトルが遠い目をする。


 今でこそ、ヘクトルは至高神の奇跡によって腰痛や関節痛から無縁になった。

 だが、先日までは、加齢による衰えに苦しんでいたのだ。


「寒くなると、特に関節やら腰やらが痛みますからな」

「ご心配なく。我らには至高神様に与えられた毛皮がありますゆえ」


 村長はそう言うが、寒い時期が辛いのは間違いない。

 いや、寒くなくともコボルト達には高齢者も多いのだ。暖かくても長距離移動は楽ではない。


 そのとき、真剣な表情で考えていたミナトが元気に言った。


「わかった! とりあえず、魔獣さんたちと話あってみよう!」

「わふわふ」


 タロも「それがいい」と同意した。


「ですがミナト。魔獣ですよ? 聖獣ではありません」


 アニエスが心配そうにそう言うと、ジルベルトも同意する。


「ああ、ミナトが聖獣と話せるのは知っているが、魔獣とは話せないだろ?」

「多分、だいじょうぶ? スキル名は【言語理解】だし?」

「わふわふ」


 タロは「聖獣の言語ってかいてないからだいじょうぶ!」と力強く言った。


「氷竜さん達とも話せたし、多分大丈夫だよー」

「わふわふ~」


 氷竜王以外の氷竜は聖獣ではないのだ。

 もちろん、レックスのように人型になって人語を話している氷竜とは、みんな話せる。


 だが、人型になれない若い氷竜とも、ミナトは話すことができた。


「ですが、氷竜達は知能が非常に高いのです」

「アニエスの言うとおりです。魔猪や魔鼠が果たして、会話できるほど知能があるかどうか」


 マルセルの言葉で、確かにとミナトとタロは思った。


「なるほどー、そういう問題もあるのかー」「わふ~」


 会話を成立させるには、ある程度の知能が必要なのだ。

 言語を理解するほどの知能のない虫などとは、いくらスキルがあっても話すことはできない。


「魔猪って賢い? あ、魔鼠は賢いんだっけ? ね、コリン」

「魔鼠は賢いですけど……話せるほどかどうかは、わからないです」

「そっかー。でも、やってみてから考えよう! もし、だめなら、そのとき考えよ」

「ばうばう!」

「そうですな。ミナトの言うとおり、だめならば、そのときにまた考えましょうぞ」

 ヘクトルがそういうと、コボルト達も頷いた。


「ミナト、タロ様、我らのために、ありがとうございます」

「いいよ~気にしないで」「ばうばう~」

 そうして、明日、廃村に出向いて、魔獣と交渉することに決まった。



 その日の夜は神殿の広い食堂で、コボルト達と一緒に夜ご飯を食べることになった。

 ミナトたちが食堂に入り席に着くと、すぐに神殿長がやってきて、頭を下げる。


「申し訳ない。まさか魔獣に占拠されているとは思わず……」


 神殿長は、本気で知らなかったようだった。


「言い訳になりますが、今は鉱山の方でも、色々とトラブルが起きておりまして……」

 神殿長は忙しくて、コボルト達への対応ができなかったのだという。


「できるだけ早くコボルトの方々には別の仕事を斡旋できるようにいたしますので、どうか……」

 神殿長は平身低頭だ。


「明日、廃村の様子を調べることになりましてな。解決できなければまた相談いたしましょうぞ」

 ヘクトルは笑顔で言う。


「はい、ですが、魔鼠がいるならば、難しいかと」

「確かに。魔鼠が出たならば、もはや農地として役に立ちませんからね」

「条件面で、譲歩していただけたら嬉しいです」


 マルセルとアニエスがそう言うと、

「それはもう、充分考慮いたします」

 と神殿長と応じたのだった。


 神殿長との話し合いが終わると、夕食だ。

「おいしいおいしい」

「わふわふ」

 ミナトとタロはバクバク食べる。


 つい先日まで、ミナトにご飯を食べさせてもらっていたピッピとフルフルは、

「ぴぃ~」「ぴぎっ」

「りゃ~」

 ルクスにご飯を食べさせるのに一生懸命だった。


 ピッピとフルフルは、ひな鳥にするようにルクスの口の中にご飯を一生懸命運んでいる。

 ピッピはくちばしでご飯を運び、フルフルは不定形の体を器用に動かしてご飯を運んでいた。


「ピッピとフルフルもご飯食べてね?」

「ぴぴ~」「ぴぎぴぎ」

「はい、まずはフルフル。このお肉おいしいよ」

「ぴぎぃ~」

「はい、ピッピも。これおいしいよ」


 そんなピッピとフルフルに、ミナトはご飯を食べさせる。


 まるでひな鳥にご飯をあげるかのように、ミナトはピッピの口の中に運んであげた。

 フルフルは口がないので、優しくスプーンを使って食べさせる。


「おいしい?」

「ぴぴぃ~」「ぴぎっぴぎっ」「りゃむ~」

 ピッピも、フルフルも、ルクスも、おいしいといって喜んだ。


「にゃむにゃむにゃむ」

「コトラおいしいです?」

「にゃあ~」

 コトラは一頭でむしゃむしゃとおいしそうにご飯を食べていた。


「コトラも食べさせて欲しいです?」

「んにゃ!」

 コトラは「赤ちゃんじゃないから、必要ない!」と力強く言った。

 どうやら、コトラは大人、いや大虎としてのプライドがあるようだった。







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