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102 呪神の使徒



  ◇◇◇◇

 ミナト達が氷竜王を助けた次の日。

 つまり、ミナトがノースエンドに帰還する十日前のこと。


 呪神の使徒は、ノースエンドの西にある鉱山の近くにいた。


「使徒様。一体ここでなにを?」

 呪神の使徒に付き従う導師が小さな声で尋ねる。


「サラキアの使徒と至高神の神獣が山の上でのんびりしている間に罠を仕掛けようと思ってね」

「罠、でございますか?」

「そう。この鉱山には大精霊がいるよね。呪ってやれば、あいつらは来るでしょ」


 鉱山に住む大精霊が、魔物が近づかないようにして、鉱夫達を守っている。

 鉱山開発が安定的に急速に発展したのは、大精霊の加護があるからだった。


 だが、人族はそれを知らない。


「僕が精霊を呪えば、魔物が現われるようになるだろうし……」


 そうなれば、鉱山で採掘している場合ではなくなる。

 そして、鉱山は領主と神殿の物なのだ。


 領主か神殿が、なんとかしてくれと聖女に泣きつき、結果としてミナトとタロが来るだろう。


「ですが、使徒様。あいつらはとても強く、精霊や鉱山の魔物程度では……」

「だから罠なんだよ。まあ見てなって。氷竜王に使った物よりずっと強力な呪いをかけるから」


 呪神の使徒は氷竜王の王宮周辺を呪いの空間で覆った。

 それはミナトとタロの力を抑えることには成功していたのだ。


「その状態で坑道を崩壊させてもいいし、坑道で有利に戦える魔物を選ぶし」

「なるほど。さすがは使徒様です」

「どちらにしても、僕が出るんだから、小細工なんて必要ないんだけど」

「はい。その通りです」

「君にはタイミングを合わせて、街を襲って欲しいんだ」

「村をですか?」

「そう。サラキアの使徒と至高神の神獣が鉱山に出かければ……」

「ノースエンドに残るのは雑魚のみということですね?」

「聖女達の何人かが街に残ったとしても、対処できないでしょ?」


 複数体の一級呪者をだせば、聖女パーティだけで対応するのは難しい。


「特にコボルトどもを襲うのがいいな。あいつらと関係が深いからね」

「かしこまりました。コボルト達を皆殺しにします」

「んー、違うな? 殺すのは半分でいい」

「残りの半分はどういたしましょうか?」

「人質にすればいい。そうすれば、あいつらも全力を出せないだろう?」

「人質ですか? それは、少し難しいかと」


 ノースエンドは広く、住民は多い。

 衛兵や騎士、冒険者と戦いながら、小柄で数の少ないコボルトを狙うのは至難の業だ。


「そうだね、努力目標でいいよ」

 呪神の使徒は「コボルトどもが街を出てくれたら楽でいいんだけど」とつぶやいた。


  ◇◇◇◇







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