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103 廃村の様子



 次の日、朝ご飯を食べると、ミナト達は農地のある廃村へと向かって出発した。


 至高神の神殿はノースエンドの北の端に建っている。

 そしてコボルト達が借りた土地は、北門から出て徒歩で三十分ほど歩いた辺りにあった。

 距離にして、およそ二キロぐらいだ。


「北門に行きますよー、ついてきてください」


 アニエスの先導で、二十名を超すコボルト達とミナト達は歩いて行く。

 早朝だというのに、住民達に注目される。


 やはりコトラは、人目を意識して、尻尾を高くかかげ、姿勢良く歩いて行った。

 北門から出ると、ミナト達はゆっくりと廃村に向かって進んでいく。


 三十分ほど歩いたとき、村長が遠くに見える柵を指さして言う。


「あれが廃村を囲む柵になります」


 柵は金属製だが、さびており、ボロボロだった。


「あれかー」「わふわふ~」

「あれだけボロボロだと、魔獣も入り放題でしょうね」


 サーニャは腕のいい狩人なので、魔獣について詳しいのだ。


「扉はあちらにあります。ついてきてくだされ」

「わかった!」「わふわふ!」


 村長に案内してもらって、ミナト達は廃村の入り口にあたる扉へと向かった。


「これが入り口なんだね」


 ミナトは扉をつかんで揺すってみる。


「壊れてないね? しっかりしている」「りゃむりゃむ」

「わふ~」


 ルクスはミナトの真似をして、扉をつかんで尻尾を揺らす。

 タロはくんくんと匂いを嗅いでいた。


 扉は金属の柵状になっており、外側に向かって開くタイプの両開きだ。

 さびてはいるが、壊れた部分もなく、しっかりしている。


「ボロボロなのは柵だけ……とはいえ、柵にも壊れているところは、見当たらないが」


 ジルベルトがそういうと、サーニャは柵をつかんで揺らしながら言う。


「これだけ痛んでいたら、魔猪が牙でコツンとすれば簡単に壊れちゃうわよ」

「それもそうか」


 村長は鍵を差し込んで、扉を開く。


「おお、鍵穴もさび付いていないし、扉の開閉もしっかりしているみたいですな」

「はい。ヘクトルさん、そうなのです。それで、安心していたのですが……」

「中には魔獣が沢山いたと、いうことですな?」

「はい」

「まあ、いってみよー!」「わふわふ~」


 ジルベルトが先頭となって、廃村の中心へと向かって歩く。


 十五年前には、しっかりした道があったのだろうが、今は雑草が生い茂っていた。

 村長達が数日前に通ったらしい跡が、辛うじてわかる程度だ。


「さすがに草が凄いですね。道がわかりません。十五年も放置すればこうなりますか」

「マルセルは頭がいいのに、知らないのね。雑草は一年でこのぐらいになるわよ?」

「おお、そうなのですか? サーニャは詳しいですね」


 マルセルは素直に驚いている。


「前に来たときは、どのあたりで魔獣に会ったの?」「わうわう?」

「はい。もう少し進むと、家が固まって建っている場所があるのですが……」


 建物の前に、魔獣が立っていたのだという。その周囲には魔鼠と魔狸までいたらしい。


「巨大な魔猪に『ぶるるる』と鳴いて威嚇されまして……」


 同行していた冒険者達が「あれは無理だ」と言ったので、村長達は逃げ帰ったのだ。


「ちなみにその冒険者のランクは?」


 ジルベルトが尋ねると、村長は思い出しながら答える。


「えっと、……確かDランクの方が四名です」


 Dは一人前と見なされる冒険者のランクだ。


「Dランクなら、それが正解だ。巨大な魔猪に突撃されなくて幸運だったな」

「ジルベルトの言う通りね。もし魔猪の突撃を食らっていたら、全員死んでいたかもしれないわ」


 サーニャは弓にそっと矢をつがえながら言う。


「Eランクなら、自分の力を過信して、突っ込んで全滅していたかもしれませんな」


 ヘクトルがそう言うと、ミナトとタロが首をかしげた。


「じゃあ、Cランクのパーティだったら?」「わふ~?」


 Cランクは皆が頼りにするベテラン冒険者だ。


「Cランクなら、巨大魔猪でも倒せるかもしれませんが……撤退するでしょうな」

「倒せるのに?」「わぅわぅ?」

「怪我人、もしかしたら死者が出るかもしれないでしょ?」


 サーニャは、コボルトさん達がいるのに、そんな危険なことはしないだろうという。


「その判断ができなければ、Dランクより上にいけないからな」

「そうなのですね。僕も頑張るです」


 ジルベルトの言葉を聞いて、Eランク冒険者でもあるコリンはそうつぶやいた。

 そんなコリンを見て村長は微笑むと、空を見上げる。


「逃げ帰る途中、上空を見ると、魔梟まきょうまで飛んでいました」

「それは恐ろしいですな。魔梟ともなると、人ぐらいさらいますからな」


 ヘクトルが真剣な表情で言う。


「そうね。魔梟は飛ぶのに魔力を使うのよ。だから相当重いものでも運べるの」

「へーすごい。サーニャは詳しいね」「わふわふ」

「えへへ。コボルトさん達は比較的小さめだから、簡単にさらわれちゃうかも」

「僕もさらわれそう!」

「わ! わふわふ!」


 タロは「大変だ」と鳴いて、空を見上げて、キョロキョロする。


「タロ、大丈夫だよ。僕は魔法をつかえるから、さらわれても大丈夫!」

「ばうばう」


 入り口から二分ほど歩いて、草の合間から建物の屋根が見えてくる。


「あ、魔猪いた!」

「ブルッルルル」


 建物が固まっている場所の近くに巨大な魔猪が立っていた。

 一般的な魔猪より大きく、体高は約一・二メートル、体長は三メートル近くある。

 魔猪はミナト達を睨み付けてうなっていた。


「これは、思っていたよりでかいな? Cランクのパーティでも倒せるかわからんぞ」


 ジルベルトは剣の柄に手を乗せた。


「魔狸と魔鼠もいる!」


 魔狸と魔鼠は魔猪の後ろで、警戒した様子で、ミナト達を見つめている。

 魔狸も通常の魔狸より大きく、体高三十センチ、体長八十センチぐらいだ。

 魔鼠の体長は三十センチ以上あった。


「フクロウは~、あ、いた」


 先ほどまでいなかった魔梟も、遥か上空を旋回しはじめていた。


「魔梟ってでかいねー」「ばうー」

「ぴぴ?」

「ん、大丈夫。追い払わなくていいよ。話し合いだからね」

「ぴぃ~」


 ピッピは「必要ならいつでも言って」と張り切っている。


「うん。そのときはお願いね。……みんな! おはよう!」「わうあう~」


 ミナトは元気に挨拶しながら、タロと一緒にゆっくりと魔猪達に向かって近づいていった。







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