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104 魔獣たちと交渉しよう



「待て待て、前に出るな」

「そうよ。前に出なくても、話はできるでしょ?」

「壁は我らに任せてくだされ」


 慌てて、ジルベルト、サーニャとヘクトルが、ミナトとタロの前に出た。

 続いて、アニエスとマルセルもミナトとタロの前に出る。


「相談なく危ないことをしないって約束しましたね?」

 アニエスに睨まれて、

「はい」「あぅ」

 ミナトとタロは反省した。


 氷竜王を助ける為に、ミナトとタロはみんなに相談せずにテントを抜け出した。

 そして、全てが終わった後、アニエス達にこっぴどく叱られたのだ。


「そうなのです。前は僕たちに任せるですよ」「にゃー」

「コリンとコトラは後ろを守ってください」


 コリンとコトラまで前に出ようとしたので、アニエスは止めた。


「わかったです」「んにゃー」

「ありがとう。コリン、コトラ。ミナトは私達の後ろから、会話を試みてください」

「わかった!」「わふ」


 ミナトはジルベルトとヘクトルの間から、魔猪達に向かって呼びかけた。


「魔猪さん、お話し合いしよう!」

「…………ブルルル」


 魔猪は鼻息を荒らげ、前足の蹄で地面を掻く。

 それは、まるで突進して吹き飛ばしてやると脅しているように見えた。


「……ミナト、やっぱり無理なんじゃないか?」


 ジルベルトは既に剣を抜いているが、その切っ先はまだ魔猪には向けていない。


「威嚇しているわよ? 先制で仕留めたほうがいいんじゃない?」


 サーニャは矢を弓の弦につがえてはいるが、ひいてはいなかった。

 ジルベルトもサーニャも、いつでも戦える様にしつつ極力刺激しないようにしているのだ。


「だいじょうぶ。魔猪さんは話し合いする気あるよ」

「なぜ、そう思う?」

「だって、襲ってこないし」


 そういうと、ミナトは再び呼びかけた。


「魔猪さん、狸さんとネズミさんも聞いて。コボルトさんたちがね、ここに住みたいんだ」

「…………ブボボボボ」

「んーっと」

「ミナト、魔猪はなんて?」


 魔猪が返事したように見えたので、ジルベルトが尋ねる。


「えっとね。ここは我らの土地だって」

「チュッチュッチュ!」


 魔猪に続いて魔鼠が叫んだ。


「我ら先祖代々の土地をうばおうというのか! って」

「先祖代々って、ちょっと、休耕していただけじゃないか」

「えっとね、元々、神殿っていうか、人族の土地だったんだけど、お休みしてただけなんだよ?」


 ミナトがジルベルトの言葉を、魔鼠に通訳する。


「チュッチュッチュ!」

「ネズミはなんと?」


 コリンの近くにいる村長が尋ねてくる。


「魔鼠さんが、おじいちゃんのおじいちゃんのずっと前から、ここは我らの土地だって」

「……そんな、めちゃくちゃな」

「いや、そうでもないぞ。ジルベルト。考えても見ろ」


 マルセルは杖を構えながら、静かに語る。


「野生のネズミの寿命は短い。魔鼠であってもだ。およそ代替わりは一年と言ったところか」


 一年で代替わりするならば、十五年で十五代も入れ替わる。


「人族で十五代なら、三、四百年相当だ」

「なるほど。……それは先祖代々の土地っていいますね」


 マルセルの言葉を聞いて、アニエスが真剣な表情でつぶやいた。


 人族だって、三百年前の土地の持ち主を名乗る者から、立ち退けと言われたらもめるだろう。

 それが本当に三百年前の持ち主であっても、もめるはずだ。


「まあ、魔鼠なら数十年生きる個体はいるけどね」


 サーニャは「だから厄介なのだけど」とつぶやいた。

 年を経て、力が強くなり、知識を身につけた魔鼠は本当に恐ろしい存在なのだと言う。


「小さいのに、強いから厄介なのよ」


 小さいから見つけにくい。気配を消されると、ただのネズミと見分けがつきにくい。

 それなのに、人族の駆け出しの戦士を簡単に倒せるほど強いのだ。


「魔鼠が配下のネズミを率いて、街を滅ぼした例もあるほどよ」


 街の食料を、一晩で食い尽くしたという伝承は、各地に残っている。


「そっかー。困ったね」

「ぐるるるる!」

「魔猪さん。魔狸さん。魔鼠さん。無理矢理は追い出さないから、話し合おう」

「……ぐるる」

「わかった、僕だけ行くね。あ、でも相談するから少し待ってて」


 ミナトはそういうと、アニエス達に言う。


「魔猪さんが、人族は信用できないけど、僕一人とだけなら話し合いしてもいいって」

「いや、危ないだろ。だめだ」


 当然、ジルベルトは反対する。アニエス達もジルベルトと同意見だった。


「大丈夫だよ。魔猪さん達は、悪い子じゃないと思う」

「いやいや。危ない」

「わふ~」

「タロもいくの? タロは大丈夫かな? 魔猪さん、タロも一緒でいい?」


 ミナトが尋ねると、

「………………ぶる」

「……きゅ」「ちゅ」

 魔猪達は相談して、ミナトに返答する。


「ぐるるる」

「わかった、ありがと。タロだけならいいって」


 魔猪達が信用できないのは、あくまでも人族なのだ。

 だから、タロはとても強いが、ミナトと一緒に話し合いに参加することを許された。


「タロも一緒だからいいでしょ?」「うわふわふ」

「わかりました。危ないと思ったらすぐ逃げるのですよ?」

「わかった!」

「タロ様、ミナトをよろしくお願いしますね」

「ばうばう」


 そして、ミナトは魔猪達との交渉を許された。


「じゃあ、みんな。行ってくる」

「わふわふ」

「僕も従者としてついて行きたいですけど……」

「んにゃ~」


 コリンとコトラは残念そうだ。


「ピッピとフルフルも待っててね。みんなをお願い」

「ぴぃ~」「ぴぎ」


 ピッピは「フクロウは任せろ」といい、フルフルはぷるぷるした。


「ミナト。タロ様。全てをお任せいたします。けしてご無理はなさいませんよう」

 コボルト達は深々と頭を下げる。


「うん。わかった」「わふう」

「我らのために。ありがとうございます」

「みんなは建物と畑を使えたらいいんだよね?」

「はい」

「わかった! まかせて!」「わふぅ~」


 そして、ミナトとタロは魔猪達に、ゆっくりと近づいていった。


「……ブルルル」

 魔猪は緊張した様子で、鼻を鳴らし、

「きゅ」「ちゅ」

 たぬきとネズミは魔猪の後ろで、震えていた。







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