ゆっくり歩くミナトの前に、タロが出ようとする。
「タロは僕の後ろにいてね?」
「わふ?」
タロは「あぶないよ?」というが、ミナトは首を振る。
「大丈夫。危なくないから安心して」
「わふ~」
タロは「わかった」といいつつ油断なく魔猪達を見つめていた。
「ルクスはおとなしくしててね? 怖かったら僕に抱きついててね?」
「……りゃむ」
ルクスは全くおびえていない。じっと魔猪達を見つめていた。
「わふ?」
「そだね、街の中では凄くこわがっていたのに」
ルクスは人族以外は怖くないのかもしれなかった。
ミナトは魔猪達から二メートルのところで足を止めて、地面に座った。
「話し合おうね」
「……グルル」
魔猪は「何を話し合うのだ。我らとお前らでは相容れないであろう」と唸る。
魔猪達も、コボルト達も、ここに住みたくて、利用したいのだ。
「えっとね。みんなは建物を使わないでしょ? だから、建物はコボルトさん達に……」
「きゅきゅ」
「え? 使うの?」
「ちゅ~」
「つかうのかー。そっかー。暖かいものね」
魔狸と魔鼠は建物の中に住んでいるらしい。
この辺りの冬は厳しい。廃屋に近いボロボロの家であっても風雪を凌げると助かるのだ。
「でも、ボロボロだから、そのうち壊れちゃうよ?」
「ちゅ~」
「壊れるまで使うのかー。そりゃあそだよね」
ミナトは少し考える。
コボルト達が家を使えなかったらどうなるだろうか。
徒歩で三十分なので、毎日ノースエンドから通うこともできるだろう。
冬や春秋の寒い時期はつらいかもしれないが、不可能ではない。
「じゃあ、畑は使わないでしょう? コボルトさん達に……」
「ぶぼぼぼ」
「え? 使うの?」
「きゅきゅ」「ちゅ~」
どうやら、魔猪達は野生化した畑や果樹園になる野菜や果実をおいしく食べているらしい。
「そっかー」
「きゅきゅ!」「チュッチュ!」
それだけでなく、畑の周りの雑草を食べたり野菜につく虫を食べたりして管理しているようだ。
「すごいね。ちゃんと農業しているんだね」
「ちゅ~」
魔鼠は誇らしげに鳴いた。
サーニャが、魔鼠は賢いと言っていたが、ミナトはここまで賢いとは思っていなかった。
「魔猪さんも、魔狸さんも、魔鼠さんも賢いんだねぇ」
「ぶぼぼぼ」
魔猪は「人族以外馬鹿だと思うのが人族の悪いところだ」と言いながらも、少し誇らしげだ。
「そだなー。うーん。建物はなんとかなると思うんだ」
「ぶぼぼ?」
「新しく建てることもできるし、通うこともできるし」
今の魔狸と魔鼠達が使っている建物は、ほとんど廃屋だ。
元々、コボルト達は、廃屋を解体して、新しく家を建てるつもりだったのだ。
廃屋を解体せずに、新しく建てれば問題ないだろう。
「でも、畑は使わせてもらえないと困るんだけど、みんなも使ってるんだものね?」
「ぶぼぼ」
ミナトは困った。
「わふ?」
「そだね。ちょっと畑がどんな状態かみせてもらえる?」
「ぶぼ~」
魔猪はついてこいといって、歩き出した。
「みんな! ちょっと、畑をみにいってくるね! まってて!」
「ばうばう」
「待て待て! 俺達もついて行く、この距離を維持していたらいいだろう?」
「聞いてみるね! 魔猪さん、みんなもついてきたいんだって。これ以上近づかないからいい?」
「…………ぶぼぼ」
「ありがと。みんな、いいって!」
そして、魔猪の後ろをミナトとタロがついて行き、さらに離れてジルベルト達がついて行く。
ミナトとジルベルトの距離は二十メートルぐらい離れている。
「我らも、畑は見ていないのですよ。果たして、どのような状態なのか」
村長がそう言うと、別のコボルトが不安そうに答える。
「怖いですな。人の手が入っていない畑はあっという間に荒れますからな」
コボルト達が不安に思うのも無理はない。
建物から畑までの道は、背の高い雑草が生い茂っているのだ。
かつて道だったことなど、注意深く見なければわからないほどである。
魔猪が先導してくれているからまだ道があるのだろうとわかる程度。
ほとんど藪漕ぎのような状態で、進んでいく。
三分ほど歩いて、藪を抜けたミナトが明るい声をあげた。
「おおー! すごい」
「わふ~」
そこから数秒遅れて、ジルベルトやコボルト達が藪を抜ける。
「おお、すごい」
「……なんと」
コボルト達は驚いて固まった。そこにはきれいな畑が広がっていた。
「おお、見事な畑です。あれは小麦畑ですね」
「向こうに見えるのは甘藷と、芋畑ですな」
マルセルとヘクトルが感心しながらつぶやいた。
「みんな、すごいね! ちゃんとなってる! ほんとすごい!」
「わふわふ~」
「……ぶぼぼ」「きゅ」「ちゅ」
ミナトとタロに褒められて、魔猪達は照れくさそうに鳴いた。