ミナト達は、ゆっくりと廃村の中心へと進んでいく。
すると、コボルト達の元気な声が聞こえてきた。
「この家は建て直した方良さそうだ」
「大半は建て直すべきかもしれんな。綺麗に見えても木が腐りかけているかもしれん」
どうやら、住居の大半は建て直さないといけないらしい。それでもコボルト達の声は明るい。
「調べてみたが、このカボチャ畑は、相当疲れているぞ! 休ませた方が良さそうだ」
「小豆を植えるのに適した畑は見つかったかね?」
「それならこっちの畑が――」
畑を調べているコボルト達の声も明るかった。
「みんなー! ただいまー!」「わふわふ~」
ミナトとタロが元気に挨拶すると、
「あ、ミナト、タロ様! お帰りなさい!」
コボルト達が尻尾を振りながら集まってくる。
「と、虎だ! でかい!」「おお! すごい!」
コボルト達は虎3号を見て、驚いている。
だが、ミナトとタロと一緒にやってきたからか、怯えてはいなかった。
「みんな! この人は氷竜のレックスだよ!」
「氷竜様ですと!?」
「そう! レックスは氷竜王の山に登ったときに、僕たちとパーティを組んでくれたんだ!」
「なんと! それはそれは、コリンがお世話になりまして……」
「そして、この子がコトラのお姉ちゃんの虎3号だよ!」
「コトラさんの姉上ですか、コリンがいつもお世話になっております」
ミナトが紹介すると、コボルト達は順番にレックスと虎3号に挨拶していく。
「魔猪さん、みんなにも紹介しよう!」「ばうばう」
「ぶぼぼ~」
魔猪が吠えると、廃村を守ってきた魔獣達が集まってくる。
「ぶぼぼぼぼ~」
魔猪が、レックスと虎3号のことを紹介すると、魔獣達は皆驚いたようだった。
レックスを見たことのない魔獣達も少なくなかったからだ。
「ぶぼぼ~」「きゅいきゅい」
「おお、俺が氷竜のレックスだ。ここの主をしている。よろしくな」
「がうがう」
魔獣達はレックスに挨拶をし、それから虎3号にも挨拶をした。
みんなの挨拶が終わった後、ミナトがコボルト達に説明する。
「えっとね。魔獣さん達はみんなに協力するから、収穫物の一割をあげてね!」
「おお、ありがとうございます!」
「何か問題が起こったら、俺に言ってくれ。俺は人族と魔獣達の言葉がわかるからな」
「レックスは、魔猪さん達の主なんだよ!」
「おお! なんと!」
それから、レックスとコボルト達で細かい条件などを話し合った。
その話し合いには、聖女であるアニエスが立ち会って、契約書の草案としてまとめる。
その間、ミナト達は果樹園を走り回っていた。
「リンゴがおいしそう!」
「ばうばう!」「りゃ~」
「おいしそうです!」「んにゃ~」
「ブドウもある!」
「わふわふ!」「ぴぃ」「ぴぎ」
「ブドウもおいしそうです!」「な~」
ルクスを頭の上に乗せたミナトは、面白いものがないか走って見て回る。
その後ろをタロとピッピとフルフル、コリンとコトラがついて行く。
さらにその後ろを、魔狸がついてきた。
ちなみに魔猪と魔鼠と魔山羊、魔梟は契約が気になるようで、レックス達の近くにいる。
虎3号はコトラについてきたそうではあったが、話し合いを優先した。
「ぴぎっ!」
ミナトが走っていると、突然、フルフルが鋭い声で鳴いた。
フルフルは少し離れた林の中にいる。
果樹園ではなく、防風林の役目を持っているらしい林の中だ。
「フルフルどうしたの?」
「ぴぃぎ~」
「あ、キノコを見つけたんだ……。これは松茸?」
ミナトは松茸を食べたことがない。だが、スーパーマーケットで見たことがあった。
「ぴぎ~」
「変わった匂いだねぇ」「わふわふ」
「あ、松茸です! これおいしいですよ! 香りもいいですし!」「りゃむ!」
「そうなんだ!」「りゃむ~」
ミナト達が松茸らしきキノコの匂いを嗅いでいると、魔狸が鳴く。
「きゅ~」
「え? みんなは、松茸は、あんまり好きじゃないの?」
「きゅきゅ」
魔狸は食べられなくもないけど、別に好んで食べるわけではないという。
畑になる野菜や果樹園の果物、それにどんぐりの方がおいしいらしい。
「きゅいきゅい?」
「僕は好きなのかって? 食べたことないからわかんない」
「ミナトは食べたことないです? 結構おいしいですよ? 魔狸さん、採っていいです?」
「きゅい~」
「いいって!」
魔狸から許可をもらってコリンは松茸を採取する。
「僕も採る! 松茸じゃない茸もいっぱいだねー」
「わふわふ!」「りゃあ~」
ミナトが松茸を探し始めると、タロとルクスも探し始めた。
「松茸は見分けやすいですけど。茸は基本的に毒茸と見分けるのが難しいですよ」
「そなんだ! あ、僕は【毒無効】があるからね! 食べて確かめてもいいかも」
スライム達にもらった【毒無効】のスキルがあるのでミナトは、毒茸を食べても平気なのだ。
「【毒無効】があっても、毒があったら気づけるからね!」
苦かったり、舌に違和感があったりする。
「ぴぎ~」
「フルフルは毒茸に気づかないの? そなんだ!」
「ぴぎぴぎっ」
フルフルは毒茸もおいしく食べられるのだ。
「あ、コリン! 採った松茸はサラキアの鞄に入れておこう」
「はいです! それにしても、いっぱい生えているですねー」
魔獣達は松茸をあまり食べないから、豊富になっているのかもしれなかった。
「松茸は焼いてもおいしいし、炊き込みご飯にしてもおいしいです。作ってもらうです!」
「そうなんだ! 楽しみ!」「りゃっりゃ!」
ミナトの頭の上にいるルクスも、嬉しそうに尻尾を振った。
「ルクスもたべたい?」
「りゃ~」
「ばう!」
「あ、そっちにあるの? さすがタロ、鼻がいい!」「りゃ~」
「わふ~」
ミナトとルクスに褒めて撫でられて、タロは嬉しくなって尻尾を振った。
「こっちにもあるです」「んにゃ~」
「おおー、コリンもコトラも鼻がいいね! すごい」「りゃ~」
「そんなそんな、普通です!」「ゴロゴロゴロ」
コリンとコトラも褒められて、嬉しそうだった。
「松茸はこのぐらいかな? 大分採れたねー?」
「はいです! これだけあれば、全員分の松茸ご飯を作っても、まだ余裕があるですよ!」
そのとき、松茸採取を見物していた魔狸が鳴いた。
「きゅっきゅい!」
「え? 松茸よりもっといい物があるの? おしえておしえて!」
「きゅ~」
魔狸は先頭に立って走り出す。
その後ろをミナト達は走ってついて行った。