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第113話 山の幸

「きゅい!」


 魔狸が立ち止まったのは、大きな木の根元だった。

 周囲には、いがに覆われた果実が沢山転がっている。


「あ、これは……栗?」

「わふ~?」


 さすがにミナトも栗は知っていた。しかしタロは知らなかった。


「栗です! 栗もおいしいです!」

「きゅ~~」


 魔狸達は栗が好きらしい。

 だが「採っていいよ!」と言ってくれていた。


「じゃあ、少しだけもらうね!」

 ミナトは落ちている栗のうち、いくつか拾った。


「きゅきゅ~」

「もっと拾っていいの? でもみんなが食べる分もあるでしょ?」

「きゅ~」


 魔狸は他にも食べ物があるから、大丈夫という。


「そっかー、じゃあ、栗を料理してもらって、みんなで食べよっか!」

「きゅきゅ~」


 ミナトとコリンが栗を拾っている間、ルクスは興味なさそうに周囲をパタパタ飛び回っている。

 ルクスには、栗はあまりおいしそうに見えなかったようだ。

 そんなルクスをピッピとフルフルが見守っている。


「トゲトゲだね~」

「ゆでるだけでおいしいし、甘く煮てもおいしいです! あんパンとか竜焼きにも使うですし」

「そだねー」

「りゃっりゃっりゃ!」


 そのとき、ルクスが元気に鳴いた。


「ルクス、どうしたの? 何か面白いのあった?」

「あ、柿です!」

「りゃむ~」


 ルクスは木になっていた柿を採ると、ミナトの方へと持ってきた。

 ミナトはルクスの頭を撫でながら言う。


「ルクス、ありがと。でも勝手に採ったらダメだよ?」

「りゃむ~?」


 野生の柿でも、持ち主がいることは多い。この柿の優先権は、魔狸達にあるのだ。


「きゅっきゅ」

「魔狸さん。採っていいの? ありがとね」

 ミナトは魔狸の頭も撫でた。


「きゅ~」

「そうなの? ルクス、その柿はおいしくないんだって」

「りゃむ~」

「おいしいのは果樹園になってる柿なんだって」


 だから、魔狸達は、果樹園になっている柿を好んで食べるのだという。


「りゃぁむ……」

「ルクス、その柿ちょうだいです」

 しょんぼりしたルクスを見て、コリンが笑顔で言う。


「りゃむ~?」

「ありがと。一口たべていいです?」

「りゃむりゃむ!」


 コリンはルクスに許可をもらって、柿を一口食べた。


「……うん! 凄く渋いです」

 だが、コリンの表情は明るかった。


「僕も一口食べたい! どのくらい渋いの?」「わふわふ」「りゃむ~」

「いいですけど、本当に渋いですよ?」


 コリンから柿を受け取り、ミナト、タロ、ルクスは順番にかじってみた。


「ふおー。渋い!」「わふわふ~」「りゃぁ」


 タロとルクスは「渋い!」と言って、険しい顔をする。

 だが、ミナトは「渋いけど、食べられないことはないかも?」と思った。

 ミナトのまずい物への耐性は尋常ではなかったし、【毒無効】のおかげかもしれなかった。


「ぴぃ~」「にゃ~」

 ピッピとコトラは「よくそんなの食べるなぁ」とあきれている。


「ぴぎぴぎっ」

「フルフルも食べたいの? じゃあ、あげる」

「ぴぃぎ~」


 フルフルは渋い柿をおいしそうに食べた。

 フルフルにとっては、柿の渋さなど何でも無いようだった。


「魔狸さんたちが、食べないならもらってもいいです?」

「きゅ~」

「いいって。でも、コリン。何に使うの?」

「渋い柿を甘くする方法があるですよ!」

「すごい! 甘く煮たりするの?」「わふ~」

「煮るのはそうですけど、甘く煮たりはしないで、干すですよ」

「ほほー。そうなんだ!」「わふ~」


 ミナトとタロは知らなかったが、それは前世にもあった干し柿というやつだ。

 渋柿は干すことで、凄く甘くなる。


「皮をむいて、沸騰したお湯で一瞬煮てから、風通しのいい場所につるして干すです」

「へ~」「わふ~」「りゃ~」「にゃう」

「甘くなったら、魔狸さん達も分けてもらうといいですよ!」

「きゅっきゅ~」


 話しながらコリンはするすると木に登り、柿を採っていく。


「あ、渋い柿を採るの僕も手伝うね!」「にゃむ」

 ミナトとコトラも木に登り、手分けして渋柿を採っていく。


「コトラは木登りがうまいねぇ」

「がお~」

 コトラは「ミナトこそうまい」と言う。


「そかな? えへへ~。あ、採った柿、落とすねー」

「ぴぎ~」


 採った柿は木の上から、フルフルの上に落とす。

 フルフルは、落ちてきた柿をふわっと包み込むように受け取ってくれるのだ。


「りゃむ」「ぴぃ~」「きゅっきゅ」


 それをルクスが手で、ピッピがくちばしで、魔狸が口で集めてくれた。

 地面においたサラキアの鞄の上に載せていく。


「きゅ?」


 その合間に、魔狸は松茸も採ってきてくれる。


「魔狸さん、ありがとー」


 そして、タロは木の下で「わふわふ」鳴いて、応援していた。

 もちろん、タロには子供達が落ちたとき受け止められるという大事な役目もあるのだ。


「この木の柿はだいたい採った! 次の木に行こう」


 ミナトは木から降りずに、隣の木にぴょんと飛び移る。


「すごいです!」「りゃ~」

「えへへー」

「僕は怪我しないように、降りてから登るですよ!」


 渋柿の木は沢山あった。ミナト達がいる場所から見えているだけで、十本は生えている。

 渋柿を採りながらミナトが尋ねた。


「どのくらい干したら甘くなるの?」「わふわふ」

「えっと~、一月ぐらいです」

「……そっかー」「……わふ~」


 ミナトとタロは、一月後は、きっと旅立った後だと思って少しさみしかった。

 ミナト達が渋柿と、ついでに松茸を採集していると、四匹の魔狸がやってきた。


 中には、先ほどレックス達に挨拶したときにいなかった魔狸もいる。


「おお、魔狸さんが、いっぱいだ」


 全員、今までミナト達に同行していた魔狸よりも二回りほど小さい。

 今まで同行していた魔狸は大型犬ぐらいあった。


 だが、新たにやってきた魔狸は、普通の狸ぐらい、つまり体長五十センチぐらいだ。


「きゅきゅ~?」「きゅきゅ?」

 みんな首をかしげて、興味深そうにミナト達を見ている。


「えっとね、この渋い柿を集めているんだよ。あと松茸も」

「きゅ~」


 魔狸達は「手伝う」といって、走っていく。そして、松茸を口に咥えて運んできた。

 運んできた松茸を、魔狸達はサラキアの鞄の上に載せてくれる。


「魔狸さん達ありがとー」「わふわふ~」

「きゅぅきゅう!」


 魔狸達はミナトとタロにお礼を言われて喜んでいる。


「そういえば、みんなってどのくらいの数がいるの?」

「きゅ?」


 どうやら、魔猪に呼ばれてやってきて、レックスに挨拶した魔獣が全員ではないらしい。


「魔狸さんとか魔猪さん達も。全部で何匹ぐらいいるのかなって」


 ミナトが尋ねたのは、あんパンを配る際に、足りるかどうか不安になったからだ。

 あんパンは沢山あるが、魔鼠が数百匹とかいたら、配る量を半分ずつとかにしないといけない。


「きゅ~? きゅきゅ」

 少し考えて魔狸の長が言う。


「きゅきゅ~。きゅきゅきゅきゅ! きゅきゅきゅ!」

「ほうほう。魔狸はこれで全部なんだね。魔鼠も魔猪も、さっき来たので全部なんだね」


 ミナト達と行動していたリーダーを除いて、魔猪三頭、魔鼠は十匹だ。


「きゅ~きゅいきゅい」

「魔山羊は二頭で魔梟は二羽なんだね。さっき来てた子で全部だね。やっぱり少ないね」

「きゅいきゅい」


 魔狸がいうには、魔山羊と魔梟は元々この辺りには少ないらしい。


「そっかー。魔鼠はもっと多いと思ってた」

「きゅきゅ~」

「そっか、増えすぎたら困るからかー」


 魔鼠は増えやすい。あっという間に数十、数百、数千匹に増えかねない。

 そうなれば、あっという間に食料を食い尽くして全滅してしまう。

 だから、増えるのを自分たちで抑制しているらしい。


「そっかー。リーダーが、ちゃんとしててすごいね~。魔狸も偉い!」

 ミナトが頭を撫でると、魔狸はとても嬉しそうにしていた。


「ということは、レックスと虎3号に挨拶に来なかったのは、魔狸さんだけ?」

「……きゅ~」


 挨拶に来てなかった魔狸は「寝てた」と申し訳なさそうに言う。


「そっかー、寝てたなら仕方ないね! あ、僕はミナトで、その子がタロ!」

 そうして、ミナト達は魔狸に自己紹介をしたのだった。

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