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114 住居建築計画



 それから、ミナト達は渋柿をせっせと採取した。


「五十個ぐらい採れたね!」

「いっぱいです!」「にゃ~」


 ミナトは木からおりると、サラキアの鞄に渋柿と松茸と栗を入れていく。

 最終的に渋柿は五十個、松茸は三十本、栗は七十個も採れた。


「大漁大漁!」「わふわふ~」

「きゅきゅ~?」

「あ、これはね、サラキアの鞄といってー」


 興味深そうに眺める魔狸達に、ミナトはサラキアの鞄について説明する。


「きゅ~~」

「ねー、すごいでしょー」


 それから、ミナト達は、レックス達のいるところへと戻っていく。


 ミナト達が戻ると、コボルト達は、測量したり、畑の様子を調べたりしていた。

 アニエスやジルベルト、ヘクトルとサーニャはコボルト達に同行して色々話し合っている。


 きっと、家を建てる場所や、建材について相談しているにちがいない。

 それに、来年の畑の収穫量の予測を立てたりもしているのだろう。


 だから、ミナト達を出迎えたのは、レックスと村長、それにマルセル、それに魔猪達だった。


「お、戻ったか。ルクスおいでー」

「りゃ~」

 レックスはミナト達に気づくと、笑顔でルクスを呼び寄せる。


「おお、ルクスは相変わらず可愛いなぁ」

「りゃっりゃ」


 レックスはルクスを胸のところで抱っこして優しく撫でている。

 すると藪の中から、虎3号が飛び出してきた。


「がう~」

「ぁぅぁぅ」

 そして、コトラのことをベロベロ舐める。


「虎3号は藪の中で何してたの?」

「がう~」

「そっか、なにがあるか、見て回ってたんだね!」


 契約書の草案をまとめ終わった後、虎3号は探索していたようだ。

 この廃村に初めて来た虎3号にとっては、大切なことだ。


「レックス、話し合いはおわったの? もめてない?」

「終わったし、もめてないぞ。俺というか氷竜の家も建ててもらえることになった」

「おおー、レックスよかったね!」「わふわふ~」

「ああ、とても助かる。コボルトさん達の作った野菜や工芸品を真っ先に買い付けられるしな」


 レックスは氷竜の執事長として、珍しい品や良質な品、新製品を買い付ける業務がある。

 手先の器用なコボルト達が生み出す品は氷竜にとっても魅力的なのだ。


「いえいえ、私どもの方が助かりますぞ。レックス殿に滞在していただければ安心です」

「そだね! レックス強いもんね! 凄腕冒険者だし、竜だし!」「ばうばう~」


 ミナトとタロに強いと言われて、レックスは頬を赤くして照れていた。

 照れ隠しなのか、ルクスを撫でる手が、早くなる。


「りゃう?」

 ルクスは不思議そうな表情で、頬の赤いレックスを見上げて首をかしげた。


「そういえば、氷竜さんの家なら、すごく大きくなるんじゃないの?」

「人型に慣れる奴専用だからそうでもないな。倉庫機能は魔法の鞄の仕組みを使えばいいし」

「むむ? そんなことができるの? 魔法の鞄の仕組みを使った倉庫?」「わふわふ?」


 ミナトとタロが驚いていると、近くにいたマルセルが言う。


「本当に驚かされますよね。倉庫に魔法の鞄の仕組みを使うとか。竜の技術はすさまじいです」

「やっぱり、人族には難しいの?」

「もちろんです。そもそも魔法の鞄の製造自体がものすごく難しいのですが――」

 マルセルは饒舌に語る。


 魔法の鞄の拡張機能は、時空魔法と呼ばれる系統に属しており、元々難度が高いこと。

 そして、大きな物を対象にするほど、難度が上がること。


「ですから、建物という大きな物に、時空魔法をかけることはものすごく難しいんです」

 技術だけでなく、消費する魔力量も膨大だ。人族の魔導師がまかなえる量では無いらしい。


「集団で魔法をかけるしかないですが、魔力をあわせるのが難しすぎますからね」


 理論上できるかもしれないが、実質的に人族には不可能らしい。

 だが、膨大な魔力を持つ氷竜ならば可能になる。


「ほえー。さすが氷竜さんだねー」「わふ~」

「まあ、氷竜が凄いと言うより、陛下が凄いんだけどな」

「さすが氷竜王!」「ばうばふ」


 敬愛する王が褒められて、レックスは少し照れくさそうだった。


「それで、氷竜の家以外にどんな家を建てるの?」

「我々の住居の他に、林の中に魔猪さんたちの家も建てようと思っておりますぞ」

「おおー、魔猪さん達の家も、大きくなりそう!」

「土地には余裕がありますからな!」


 廃村はとても広いのだ。魔猪達の家を建ててもまだまだ余裕があるだろう。


「あ、そうだ! コリン達と一緒に松茸と渋柿と栗を採ってきたんだ!」

「おお、それはそれは!」

「林には松茸も渋柿の木と栗の木も沢山なっていたですよ!」

「助かります!」

「松茸だって!」「渋柿もあるとな!」「栗まで!」

 話を聞きつけた近くにいたコボルト達が集まってくる。


「はい! こんなのが、たくさんなってた!」「わふ~」

 ミナトは松茸と渋柿、栗を一つずつサラキアの鞄から取り出して、村長に手渡した。


「おお、これは立派な松茸ですな。渋柿の方も干しがいがありそうですぞ」

「栗も実が詰まっていてうまそうです」

「沢山採ってきたからね! ……あ! そうだった!」

「どうなさいました?」

「コボルトさん達の家具とか、僕がたくさん持ってるから言ってね!」

 村から離れる際、ミナトはコボルト達の家財道具一式をサラキアの鞄に詰めたのだ。


「ありがとうございます。急いで倉庫を作らねばなりませんな!」

 サラキアの鞄を、家財道具で圧迫し続けるのは悪いと村長は思ったのだろう。

 だから、倉庫を建ててすぐに移そうと考えたのだ。


「大丈夫だよ? 急いでないし」

「そうだな。もし、急ぐなら、氷竜の魔法の鞄に移してもいいからな」

「レックス殿、ありがとうございます」


 村長は深々と頭を下げる。

 一方、村長以外のコボルト達は家財道具でなにができるか考え始めた。


「……調理器具と調味料があるなら、あとは米だな」

「松茸ご飯と栗ご飯、いや、栗はあんこに混ぜてあんパン作りに使おうか?」

「薪用の木も欲しいぞ。林は防風林の役目があるから、計画的に切らないとまずい」

「米と燃料さえあれば、すぐに松茸ご飯を作れるぞ。……街に戻って買ってこようか」

「大鍋があるなら、渋柿をゆでたいが……干す場所を確保しないといけないし……」

「いや、干すだけなら、状態のいい家の軒を使えばいいんじゃないか?」


 話を聞いていたピッピが胸を張って元気に鳴く。


「ぴぃ~~」

「ピッピが燃料がないなら、僕に任せてって!」「わふわふ~」

「おお! ……ですが、大変ではありませんか? 調理中ずっととなると、かなり時間が……」

「ぴぃ~」

「何日でも余裕だって! ピッピは凄い不死鳥だから、火の魔法が凄く得意なんだよ!」

「わぅわぅ」


 タロも「ピッピは凄い、僕も火の魔法を教えてもらった!」という。


「僕も教えてもらった!」

「ぴぃ~~」


 ピッピは照れて、ミナトの肩に止まって、頬に体を押しつける。

 そんなピッピのことをミナトは優しく撫でた。


「ありがとうございます。それでは後は米ですな!」

 すると、レックスがすぐに言う。


「米なら王宮に持って行く予定の物が大量にあるぞ? 使うか?」

「そのような、大切な物、よろしいのですか? もちろん代金は支払わせていただきますが……」

「代金はいらない替わりに作った松茸ご飯をお茶碗一杯分、分けてくれたらそれでいいぞ」

「そんな訳には……」

「あ、レックス、氷竜王に持ってくの?」

「そうだ。陛下もコボルトさん達の松茸ご飯には興味があるだろうしな」


 コボルト達はその後も米はもらえないと遠慮していたが、

「ルクスとミナトとタロにもうまい松茸ご飯を食べさせてあげたいんだ! 俺も食べたいし」

 というレックスの強い主張が、最終的に通ったのだった。





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作成日時: 2025-06-12 09:49:10

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