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第115話 松茸ご飯と干柿を作ろう

 今日の夜ご飯に松茸ご飯を作るとなってからのコボルト達の動きは速かった。

 平らな地面に即座に大きな石を並べて大鍋の土台となるかまどを二つ作っていく。


「二つ使うの?」

「せっかくなので、干柿も作ろうかと」

「おおー、そっか! 大鍋二つだね!」「わふ~」

 ミナトがサラキアの鞄から大鍋を取り出すと、

「お、重いだろう。手伝お――」

「大丈夫、レックスありがと」


 ミナトは、軽々と自分より大きな鉄の大鍋を石のかまどの上に設置した。


「大鍋はあと一つだね!」

「お願いします。それにしてもミナトは力が強いですな! まるで神話に出てくる英雄です!」

「ええ、我々は、いつも三人がかりで運んでいましたぞ! さすがです!」


 体の小さなコボルト達は手先が器用で素早い代わりに力はそれほど強くないのだ。


 コボルト達がミナトを褒めると、

「ぁぅぁぅ」

 タロが嬉しそうに尻尾を揺らす。


「本当に。相変わらずミナトの怪力ぶりは凄いな……」「りゃむ~」

「えへへー。熊の聖獣からもらった【剛力】のおかげだね!」

「僕も頑張るです!」「にゃむにゃむ」


 ミナトの怪力ぶりに刺激を受けたコリンがスクワットを始める。


 コボルトの勇者の剣を抱えているので、自重でやるよりも効果がありそうだ。

 その横ではコトラが、コリンの屈伸にあわせてぴょんぴょん跳んでいた。

 コトラも強くなるために訓練しているのだろう。


「後は井戸から水をくんできましょう」

「井戸のお水はのめそうだった?」

「はい。試しに飲んでみましたが、非常においしい水でした」

「大丈夫? 後でお腹痛くなったりしない?」


 ミナトがそういうと、コボルト達は少し不安になったようだ。


「念のために、あとでサラキアの書で確かめてみたほうがいいよ。今は僕に任せて!」

 そう言いながら、ミナトは手から魔法で水を出して見せた。


「おお、さすがはミナト。大魔導師ですな! ありがとうございます!」

「えへへえへへ」


 ミナトは照れて、タロは尻尾を振った。

 続けてミナトはサラキアの鞄から大きな机を取り出して、調理器具を並べていく。

 全部コボルト達から預かっていたものだ。


「他にも必要なのがあったら言ってねー」

「ありがとうございます。あとは麻紐があったはずので、それがあれば……」

「わかった!」

「米は机の上に置いておくぞ!」

「レックス殿、かたじけない」


 準備が終わると、村長達は早速松茸ご飯作りを始める。

 材料は、レックスから受け取った米と、ミナトから受け取った調味料、それに松茸だ。

 その中の調味料の一つにミナトは見覚えがあった。


「これは……もしかして醤油?」

「わふわふ!」


 タロも嗅いだことのある匂いだと嬉しそうに尻尾を振る。

 タロは別に醤油は好きではない。


 だが、ミナトがご飯に醤油だけをかけてよく食べていたことを知っていた。

 だから、きっと醤油はミナトの好物なのだろうと思っていたのだ。


「お、ミナトは醤油をご存じですか? コボルトに伝わる珍しい調味料なのですぞ」

「俺は知らないな。変わった匂いだ」

「味見してみますか? レックス殿」

「おお、いいのか? 頼む」

「あ、私もお願いします。是非」


 すぐにマルセルが味見させてくれるよう頼みこんだ。


「もちろんかまいませんぞ」

 村長は一滴ほど醤油を小皿に乗せると、レックスとマルセルに渡した。


「これが醤油……塩辛いな。だが、複雑な味だ。色々と料理に使えそうだな」

 レックスは初めて味わう調味料の利用法を考えているようだった。


「なるほど。これが伝説の醤油。まさか醤油を味わえるとは思いませんでした」

「マルセル。醤油って伝説なの?」「ばうばう?」

「はい。数百年前の使徒が編み出した調味料の名前が醤油なのです」

「へー」

「製法などは失われたとされていましたが、コボルト族に伝わっていたんですね」


 至高神の恩寵を受けているコボルトだから、使徒との関係も深いのだろう。

 だからこそ、未だに伝わっていたのかもしれない。


「村長。醤油ってのはどうやって作るんだ?」

「そうですね。まず基本材料ですが、大豆と小麦と塩で――」


 村長はレックスに醤油の作り方を教えながら、作業を続ける。

 村長以外のコボルト達も、テキパキと手際よく作業していった。


 松茸ご飯作りを始めて五分も経つと、続々と作業していたコボルト達が戻ってくる。

 そのコボルト達に同行していたアニエス達も戻ってきた。


「何を作っているんだ?」

 ジルベルトが尋ねられて、ミナトは元気に答える。


「えっとね! 松茸ご飯と干柿!」


 ミナトの言葉を聞いて、コボルト達も大いに喜んだ。

 村長が大鍋に米を入れる。


「ミナト。まずは米を浸水させるので、この辺りまで水をお願いします」

「わかった!」

「あ、干柿の鍋の方にはこのぐらいまでお願いします」

「まかせて!」


 ミナトが米を浸水させている間に、コボルト達は松茸を切ったり、調味液を作ったりした。


 同時に、干柿の準備も進める。

 渋柿の皮をむいて、紐で縛っていくのだ。


「なんで紐で縛るの?」「わふわふ~?」

「一瞬煮た後に、干すのですが、最初に縛っておくと便利なのです」

「へー、そうなんだ!」「わふ~」


 コボルト達が干柿の処理を進めている間に、ミナトは干柿の鍋を火の魔法で加熱する。


「ぴ~?」

「ありがと。ピッピは松茸ご飯の火を担当してもらうからね。こっちはまかせて」

「ぴぴぃ~」


 ミナトの火魔法の威力は高く、大鍋いっぱいの水はどんどん熱くなっていく。

 だが、コボルト達の干柿の処理も速かった。

 およそ五十個あった渋柿は、コボルト達の手によってあっという間に皮を剥かれていく。


「みんな上手だね。コリンも皮をむくのはやいー」

「えへへ~。コボルトは、みんな手先が器用ですからね!」


 皮を剥かれた渋柿は、他のコボルト達によって、へたの部分を紐でくくられていった。

 コボルト達は器用で、全ての作業が凄く速い。

 その様子を、アニエス達は興味深そうに見物していた。


「本当に手際がいいですね」

「ええ、お見事ですな」


 アニエスとヘクトルがそう言うと、レックスも頷きながら言う。


「本当にコボルトさん達は凄いな。氷竜には技術に自信がある者は多いが引けを取らない」


 氷竜は数百年、数千年かけて、技術を磨く。

 そのため人族ではとても追いつけない技術を持っていることが多いのだ。

 それを知っているから、コボルト達は褒められて、とても喜んだ。


「氷竜の方にそう言ってもらえると、お世辞でも嬉しいですぞ」


 村長は嬉しそうに尻尾を揺らしていた。

 コリンや他のコボルト達も嬉しそうに尻尾を振っている。


「あ、沸騰したよ! いつでも大丈夫!」

「おお、さすがミナト。速いですなぁ」

「えへへ~」


 ミナトが大鍋いっぱいにお湯を沸かした頃には、コボルト達の作業も終わっていた。


「いきますよ~」


 コボルト達は沸騰したお湯に渋柿をつけて五秒ほどであげる。

 そして、それを状態のいい家の軒先につるしていった。


「そんなにすぐあげていいの?」「わふ~?」

「はい。火を通すのが目的ではなく、カビが生えないようにするんです」

「熱湯につけて表面のカビを殺すんですよ」

「へーそうなんだ」「ばうばう」


 コボルト達はテキパキと、渋柿をお湯に通すと、つるしていった。

 それをミナトとコリン、アニエス達も手伝った。


 タロとルクス、ピッピとフルフル、コトラはそれを一生懸命応援していた。

 そして応援するコトラを、虎3号は優しい目で見つめている。


「これで、よしです!」

「あとは何するの?」

「あとはこのまま干すです! 五日ぐらい経ったら優しくもんで、また干すです」

「なんでもむの?「わふ~?」」

「もむと柔らかくなって、渋さもぬけて甘くなるですよ~」

「ふしぎだねぇ」「わぁぅ~」


 タロも不思議だといっていた。

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