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第116話 井戸水を調べてあんパンを食べよう

 渋柿をつるし終えた頃、コボルト達の松茸ご飯作りの準備も完了した。

 コボルト達は浸水し終わった米に調味液や松茸を入れて蓋をする。


「後はこのまま炊けば、完成です。ピッピ殿、ゆっくりと加熱していってくだされ」

「ぴぃ~~」


 ピッピは大鍋の下に潜り込むと、全身を炎でまとった。


「素晴らしい! そのままの火を維持してくだされ」

「ぴぴぴ~」


 ピッピは楽しそうに羽をバサバサさせていた。

 こうなると、火力調節を指示する村長と、火魔法を担当するピッピ以外は暇になる。


「あ、サラキアの書で井戸水が飲めるか確かめよう! ピッピ、一羽で大丈夫?」

「ぴぃ~」


 ピッピは力強く「ここは任せろ」と鳴いた。


「じゃあ、お願いね!」


 ミナトはルクスを頭に乗せたまま、井戸まで歩いてのぞき込む。


「ふむふむ! 綺麗な水だ! くんでみよう!」

「僕がやるです! 腕の筋肉を鍛えないとですからね!」


 井戸に設置されていた釣瓶を使って、コリンが水をくみ上げる。


「よいしょよいしょ!」「にゃうにゃう」「がうがう」


 頑張るコリンを、コトラと虎3号が隣で応援していた。


「十五年もたってるのに、綺麗だね? まるで新品みたい」

「ああ、それは先ほど滑車を新しくしてロープを交換しました」


 何でも無いことのようにコボルトの一人が言う。


「ええ? 滑車を作ったの?」「わふ?」

「はい。持っていた木材を使って、ナイフで削って」

「……すごい」「……わふ」


 コボルトの手先の器用さはやはり凄いらしい。


「ふう! くみ上げたです。……うーん、飲めそうです」

「たしかに」「わふわふ」「りゃ~」「ぴぎ」「にゃ!」「がう」


 ミナトとタロも、ルクスとフルフルもコトラも虎3号も飲めそうだと思った。


「でも、念のためだからね!」

 ミナトはサラキアの書を取り出して開いた。


 ----------

【井戸水】

 おいしい水。飲用、製薬などに適している。

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「おおー、のめるって!」

「わふわふ!」

「のんでみよう!」


 ミナトは自分とコリン達用のコップと、タロ達用の皿を出して水を入れる。


「おいしい! みんなものんで! ルクスも飲む?」


 ミナトはまず自分が飲んでから皆に勧める。


「りゃ~」「わふ!」「にゃお!」「がぁぅ~」

 ルクス、タロとコトラも虎3号もうまいと言っている。


「おいしいお水です」

「うむ! この水を使ってパンを焼いたり、あんこを作ったら、おいしくなりそうですな!」

「あ、それいいかも!」「わふわふ!」

「……ぴぎ~」


 だが、フルフルはもっと臭い方が好きという。


「そっかー、フルフルはグルメだものねー」

 フルフルはスライムなので、下水などの腐った水の方が好きなのだ。


「あ、ピッピものんで!」

 ミナトは金属製で耐熱仕様のコップに水を入れて、ピッピのところまで走った。


「はい、ピッピものんで! のどかわいたでしょ?」

「ぴぃ~」


 炎を全身にまとうピッピにコップを差し出す。

 ピッピは弱火を維持しているし、コップは金属製なので溶けることはない。


「おいしい?」

「ぴぃ~」


 ピッピも井戸水を気に入ったようだった。

 それを見ていたジルベルトが頬をひくつかせて、大きめの声で言う。


「……ミナトに火が効かないのは知ってるけど、ぎょっとするな」

「ええ、炎に手を突っ込んでも平気と知っていても驚きますね」


 アニエスも大きな声で言う。


 なぜ、大きな声を出したかというと、コボルト達がびっくりして固まっているからだ。


 コボルト達には、子供がいきなり燃えさかる炎に手を突っ込んだように見えている。

 驚かないわけがなかった。


「……ミナト」

「なに? ジルベルト」

「えっとだな。炎に手を突っ込んだら皆が驚く。怯えるかもしれない。だから気をつけてくれ」

「わかった! 人前ではしないようにする!」


 そんなミナトにレックスとコボルトの一人が近づく。


「大丈夫って聞いたが、ちょっと腕を見せてみろ」「見せてください」

「はい!」

「ほんとだ。やけどの跡一つ無い」

「……肝が冷えました。驚かせないでください。寿命が縮みましたぞ」

「ごめん」「わふ~」


 ミナトが謝ると、タロも一緒に謝った。


「それにしても、ミナトは陛下の氷ブレスを受けても平気だったよな」

「そう! モナカから【氷無効】のスキルをもらったからね!」

「加えて火も無効なのか」

「そう! ピッピとパッパから【火炎無効】のスキルをもらったからね!」

「おお、すごいな」

「あとメルデから【水無効】とスライム達から【毒無効】と【状態異常無効】ももらったよ!」

「隙が無いな」

「えへへ~」「ぴぎ~」


 フルフルが自慢げにプルプルしていた。



 それから、ミナトはみんなにあんパンを配った。


「ありがとうございます! 丁度、お腹がすいていたところだったんです」

「今日は働きましたからな! 甘みが染みます」


 コボルト達は大喜びだ。


「やっぱりおいしいわね。甘さが体に染みわたります」

「疲れている体には、やっぱり甘みね! 本当に、おいしい」

「私はあまり動いてないんですが、おいしいです」

「このあんパンは、甘さが控えめで、パンも絶品で、いくつでも食べられそうですな」


 アニエス、サーニャ、マルセル、ヘクトルは嬉しそうにあんパンを食べた。


「わふわふ」


 タロはあんパンをおいしそうにゆっくり食べる。

 体が大きいタロにとって、あんパンは小さく、油断すると一瞬でなくなってしまうのだ。


「うまいうまい。コリンとコトラも食べろ! 虎3号も遠慮しなくていいからな」


 ジルベルトは、コリン達に勧めながら、あんパンを食べている。


「おいしいです!」「んにゃ~」「がう~」

「これは氷竜の王宮産だな。やはりうまい。だが、コボルト産のあんパンも食べたくなるな」


 氷竜の王宮であんパンを沢山作ったレックスは、あんパンにとても詳しくなっていた。


「りゃむりゃむりゃむ」


 ミナトの頭上にいるルクスは小さな手であんパンをしっかり持ってむしゃむしゃ食べている。

 パンくずがミナトの頭にこぼれていた。


「はい、ピッピも食べて」

「ぴ~」

「ちょっと焦げた感じがおいしい? よかった~」


 それからミナトは魔猪達にも配っていく。


「ぶぼ?」「ほほう?」

「これはあんパンっていってね。おいしいパンの中に甘いあんこが入ってるの」

「きゅきゅ?」「ちゅ~」

「魔狸さん達と、魔鼠さんたちは半分でいいの? じゃあ、半分にわってあげる」


 体の小さな魔狸と魔鼠の為に、ミナトはサラキアのナイフであんパンを半分に割った。


「ほほう!」

「魔梟さんはいらないの? あ、肉しか食べないのかー」

「ほう!」


 ミナトはあんパンが大好きだが、全ての動物があんパンを好きではないことも理解している。


「何かなかったかな……あ! 焼いた肉があった。これ食べる?」

 それは氷竜の王宮でもらったおいしい肉だ。


「ほほほぅ!」

 魔梟達は、ミナトにお礼を言って肉を食べた。


「おいしい? 氷竜さんにもらったんだよ」

「ほ~ほうぅ!」

「口にあったみたいで、よかったよかった。……魔山羊さん達もあんパン好きじゃないの?」

「めぇ~」

「山羊はパン食べないの? 草を食べるから、食べると思った。パンの材料は小麦だし」

「めめぇ」

「食べられるけど、あまり好みじゃないし、消化にも悪いのかー」

「めめぇ」

 魔山羊は「せっかくなのにごめん」と謝った。


「それは気にしないで。じゃあ、何かないかな? あ、レトル草でも食べる?」

「めめ!」


 どうやら魔山羊は、薬の材料であるレトル草を食べるらしい。


「少しでいいの? どうして?」

「めぇめぇ~」

「そっかー。凄くおいしいけど、食べ過ぎるとお腹を壊すのかー」

「め! めぇ~」


 子山羊の頃に沢山食べて、お腹を壊したことがあるらしい。

 それからは、たまに自分へのご褒美として少しだけ食べるという。


「アイスクリームみたいな物かなー?」「ばうばう~?」


 ミナトはアイスクリームはとてもおいしいが、沢山食べたらお腹を壊すと聞いたことがあった。


「あくまでも薬ですし、バクバク食べていい物じゃないのかもしれませんね」

 話を聞いていたマルセルが、あんパンを食べる手を止めて言った。


「じゃあ、少しだけね!」

「めめえ!」

 ミナトは魔山羊二頭に、レトル草を一束ずつあげた。


「めえ~」

「そう? おいしい? それなら、よかったけど」


 魔山羊はこの辺りのレトル草より、味があっさりしていて、おいしいという。


「この辺りのレトル草って、味が違うの?」

「めえ~」


 魔山羊は「食べたらわかる。ついてきて」と言って歩き出す。


「案内してくれるの? ありがと!」


 ミナトはこの村に生えているレトル草を調べるために、魔山羊たちについて行くことにした。

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