頭にルクスを乗せたまま、ミナトはあんパンを食べつつ、魔山羊達の後を追う。
「うまいうまい。もったいないから、ゆっくり食べよう」
「りゃむりゃむ~」
ルクスもあんパンを両手で持って、まだ一生懸命食べている。
タロとフルフル、コリンとコトラ、虎3号と二人のコボルトがついてきた。
「村でレトル草を作らないといけませんからな! 確認しておかないと!」
「そだね! 草の種類が違ったら、作り方も少し変えないとかもだし……」
魔山羊二頭は、建物のある場所から離れて藪の中を進んで行く。
「めえ~もぐもぐ」
ゆっくり歩きながら魔山羊は雑草を口に食べる。
「へー、この辺りの草もおいしいんだ。もぐもぐ」
ミナトもゆっくりと歩きながら、あんパンを堪能していた。
「めめ!」
「あ、レトル草だ! ありがと! もぐもぐ!」
ミナトはあんパンの最後のひとかけらを口に放り込むと、魔山羊二頭を順番に撫でた。
「めめぇめぇ」「めぇ~」
魔山羊は気持ちよさそうに短い尻尾をぶんぶんと振っている。
「にゃ~」「がう?」
コトラと虎3号が、レトル草の匂いをクンクンと嗅いでいる。
「品質はどうだろう? 魔山羊さんによると、味はおちるみたいだけど……」
「葉の色もこくて、良さそうにみえますな」
「匂いもいい感じです。品質はいい気がするです!」
「ばうばう~」
「そだね! サラキアの書で調べてみよう!」
----------
【品質のいいレトル草】
薬草。品質がよい。これでレトル薬を作ると、より効果の高い物を作ることができる。
レトル薬の製造法は、ただのレトル草と同じ。
----------
「おお~。品質がいいんだって!」
「素晴らしいですな! 製造法が同じなのも助かりますぞ!」
「よかったです!」
それから、ミナト達は品質のいいレトル薬を採取したのだった。
レトル薬採取を終えて、皆のところに戻ると、いい匂いがしていた。
「あ、松茸ご飯たけた?」
「あと少しですぞ。もうしばらくお待ちくだされ」
「ぴぃ~」
ピッピは大鍋の下で元気に炎に包まれていた。
「ピッピ、ありがと」
「ぴぴ~」
「りゃむ!」
ルクスに尊敬の目で見られて、ピッピはとても嬉しそうだった。
「みんなは……。あれ、なにしてるの?」「ばうばう」
他のコボルト達とレックス、それにアニエス達は家の周りで何やら作業をしていた。
「状態のいい家があったからな、補修しているんだよ」
木材を運んでいるジルベルトが教えてくれる。
「おおー。木材たりそう?」
「ああ、神殿長からもらったものに加えて、レックスも分けてくれたからな」
神殿長がお詫びにくれた木材を、アニエス達は魔法の鞄に入れて持ってきていたのだ。
「レックスありがと!」
「例には及ばん。いつ入れたか覚えてないほど古い木材を提供しただけだからな」
古い木材でも、魔法の鞄の中に入っていれば腐らないのだ。
「レックスさんから分けていただいた木材は品質が凄く良いのです」
「そうそう。家に使うにはもったいないぐらいで……」
コボルト達が嬉しそうに言う。
「後で氷竜の家を建ててもらうつもりだからな。建築費代わりだよ」
「とてもではないが、釣り合っていない気もしますが……」
「本当に気にするな、鞄の肥やしになっていただけだからな」
そんなことを、レックスとコボルト達が話している。
「補修って、具体的になにしてるです?」
「扉と床の補修ですぞ。奇跡的に柱が無事だったので」
コリンの問いに答えたヘクトルも元気に木材を運んでいた。
「ヘクトル、腰は大丈夫?」「わふ~」
「ありがとうございます。ミナト、タロ様。至高神様のおかげですな!」
そういうと、ヘクトルは至高神に感謝の祈りの言葉を唱えた。
体を思いっきり動かせることが楽しいのか、ヘクトルは本当に嬉しそうだ。
「柱が無事だったのはよかったねー」
「ばうばう」
「そだね、屋根と扉と壁が無事だったからかな?」
雨や風、雪などが吹き込まなかったのかもしれない。
「きっと村長の家だったのでしょうね。明らかに木材の質が違います」
額に汗して、コボルト達を手伝っていたアニエスが笑顔で言う。
「そうなの? 高い木なの?」「わふ~?」
「はい。高価ですが、腐りにくくて固くて、燃えにくい木です」
「おおー、すごい」「わふわふ」
今、補修している家は、他の家よりも二回りほど大きかった。
詰めればコボルト全員が入れそうだ。
「それでもレックス殿にいただいた木材よりは質は大分落ちますが」
「そうなんだね!」
この家に泊まりながら、家を順番に建てていく予定なのだろう。
「建築、僕も手伝うよ! 僕は力持ちだし、手先も器用だからね!」
「僕もです! 体を鍛えないとですからね!」
「わふわふ!」
タロも力持ちだし、手先が器用だとアピールしていた。
「お、それはありがたいですな!」
そんなことを話していると、村長が大きな声で皆を呼んだ。
「松茸ご飯ができましたぞ!」
「やった!」「わふわふ~」
村長の声で、ミナトとタロは大喜びした。