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第118話 松茸ご飯を食べよう

 村長が大鍋の松茸ご飯を大きなしゃもじで混ぜると、おいしそうな匂いで周囲が包まれる。

 全部で、おそらく五升ぐらいあるだろうか。


「お腹すいたね!」「わふ~」

「すまん」

「なんで、ジルベルトが謝るの?」「わふ~」

「……子供がいるのに、昼ご飯を忘れていた」

「そうね。反省しないと。ミナトがあんパンを配ってくれたけど……」

「それがなければ、朝ご飯の次が夜ご飯になってしまっていました」


 サーニャとマルセルが太陽が沈みかけている西の空を眺めながら言う。


「少し、気の緩みがありました」

「はい。どうしても冒険者は食事をとらずに動き続けることも多いですからな……」


 アニエスとヘクトルも反省している。


 冒険のさなか、食事をとる暇が無い場合も多いのだ。

 魔獣達との交渉や周辺調査、コボルト達と魔獣達の契約。建物の整備。

 わずかな時間を惜しんで働いたせいで、食事をとらなかったのだ。


「ミナトがあんパンを配ってくれたときに、昼ご飯を食べていないことに気づけばよかった」


 ジルベルトがそういうと、サーニャも頷く。


「私はまだお昼時だと思っていたわ」

「それは狩人としてどうなんだ?」


 早朝にノースエンドを出て、昼ご飯も食べずに走り回っていたのだ。

 そして、もう夕食時なのである。お腹がすくはずだ。


「気にしなくていいのに~、ね、タロ?」

「ばうばう~」

「あ、でも、ルクスはお腹すいたよね、ごめんね? 赤ちゃんなのに」

「りゃ?」


 ルクスは赤ちゃんでも竜なので、実は数日食べなくても平気だった。


「ごめんね? これからは気をつけるからね」

「ぁぅ~」


 ミナトはルクスを優しく撫でながら、タロはベロベロ舐めながら謝った。


「りゃむ~?」


 だが、ルクスは全く気にしていないようだった。

 その後、ミナトは頑張ってくれていたピッピに笑顔で話しかける。


「ピッピ! ありがとね! 疲れたでしょ、水のむ?」「わふわふ」


 ミナトは大鍋の下から出てきたピッピを右腕で抱きあげる。

 そして、左手で魔法で出した水を入れたコップを差しだした。


「ぴぴ~」

 ピッピはごくごくと勢いよく水を飲む。


「りゃむりゃむ」

 ミナトの頭の上にいたルクスが、肩まで降りてピッピの頭を撫でた。


「ピッピは凄いのです。さすが不死鳥です」「んにゃ~」「がうがう」

「ええ、弱火で一時間維持するなど、超一流の魔導師でも容易にできることではありません」

 コリンとコトラ、虎3号とマルセルが褒める。


「ピッピ、しばらく休んでていいよ。抱っこしててあげるね」

「わふわふ」


 ミナトはコップをしまうと、左手でピッピを優しく撫でた。

 タロはピッピをねぎらうように、ベロベロと舐める。


「ぴぴ~~ぴぴ」


 ピッピは燃えると体の調子がいいという。


「もえると調子がいいの? じゃあ、これからはたまにもえたほうがよいかも?」

「ぴぴぴ~」

「なるほど、不死鳥の知られざる生態かもしれませんね。興味深い」


 マルセルがピッピの頭を優しく撫でた。

 そんなことをしている間に、どんどん松茸ご飯が器に盛られて、みんなに配られていく。


「ミナトとタロ様もこちらに」

「はーい、ありがと~」「わふわふ~」


 もちろん、ミナトとタロだけでなく、フルフルやピッピ、ルクスの分もある。


「魔猪さん達には、少ないかもしれませんが……」

「ぶぼぼ~」「きゅきゅ」「ちゅ~」「めぇ~」


 今度は魔山羊たちも食べられるようだった。


「あ、魔梟さん達にはお肉をあげよう」

「ほほ~ほほ」「ほほぅ」


 ミナトはサラキアの鞄から、氷竜の王宮でもらった肉を取り出して魔梟に与える。

 それを見ていたレックスがやってきて、ミナトの頭に乗っているルクスを抱きあげた。


「りゃむ~?」

「それはうちの王宮の料理長の得意料理のシーサーペントの白焼きだな?」

「シーサーペントってなに?」

「でっかい海蛇だ。寒いところにいるから脂が乗っているんだ。おいしかっただろ?」

「おいしかった!」「わふわふ!」

「今度、追加で持ってくるよ」

「ありがと~」「ばうばう~」


 みんなに食べ物が行き渡ったのを見て、ミナトはやっと松茸ご飯を食べることにした。


「いただきまーす」

「わふ~」「ぴぃ~」「ぴぎぴぎ」

「いい匂いだね~」


 ミナトは匂いを楽しんだ後、一口食べてみた。


「おおーおいしい! しょっぱくて、甘くて、いい匂いがする!」

「わふ~」「ぴぴ~」「ぴぎ」

 タロ達もおいしいと言っていた。


「松茸もおいしい!」

「わふわふ」「ぴぃ」「ぴぎぃ」

 特にピッピがおいしいと言って喜んでいる。


「ピッピが頑張ってくれたもんね。おいしいよね」「わふわふ」


 コボルト達やアニエス達も、松茸ご飯をおいしいおいしいと言って食べている。

 魔猪達も松茸ご飯を気に入ったようだった。


 そして、コリンとコトラは松茸ご飯を一口食べて、「ふわぁ」と声を上げた。


「なんと言っても香りがいいです。味も柔らかくて、松茸の食感がシャキシャキしているです」

「にゃ~」

「村長、腕をあげたです?」

「ピッピ殿の卓越した火力調節のおかげだ。あとは大鍋で作った効果であろうな」

「大鍋の効果?」

「大抵の料理は大量に作った方がうまくなるのだよ」

「へー」「にゃふ~」


 コリンとコトラは感心しながら松茸ご飯をゆっくり食べた。

 虎3号もコトラの隣で、ゆっくりと松茸ご飯を味わっている。 

 レックスは、松茸ご飯を食べるミナト達の横で、ルクスに松茸ご飯を食べさせていた。


「ルクス、あーん」

「りゃーむ」

「おいしいか?」

「りゃぁりゃむ~」


 ルクスは一口食べてはおいしいとアピールするように手をバタバタさせる。

 同時に羽と尻尾を元気に揺れた。


「そうかそうか、もっと食べて、大きくなるんだぞー」

「りゃむ~」

「はい、レックスも」


 ルクスに食べさせることに熱中しているレックスの口にミナトが松茸ご飯をつっこんだ。


「お、おお、ありがとう」

「おいしい?」

「ああ、うまいな。松茸はあまり食べないんだが独特だな」

「グラキアスのお土産にする?」

「お、いいな! 陛下も喜ぶだろう。余ったらもらおう」

「沢山ありますからな。たっぷり持って行ってくだされ!」


 そんなことを話しながら、みんなで松茸ご飯を堪能したのだった。

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