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第120話 新村の朝

 次の日、ミナトが目を覚ますと、顔の上にルクスが乗っていた。

 ルクスのお腹は暖かくて、柔らかい。


「……ルクス? 起きちゃったの?」

「りゃむ」


 ミナトはルクスをゆっくり撫でながら、体を起こす。


 外からテントの中に光が差し込んでいた。

 ミナトが見回すと、周囲にはコリンとコトラ、アニエス達が横になって眠っている。


「……朝だね」

「りゃむ」


 ミナトはルクスを抱っこして、みんなを起こさないようにテントの外へと歩いて行く。


「わふ」「ぴぴ」「ぴぎ」


 だが、すぐに気づいたタロとピッピ、フルフルがついてきた。


「ふわぁ!」


 テントの外に出ると少しひんやりした。ミナトは大きく深呼吸をしながら伸びをする。


「りゃあ!」


 ルクスもミナトの頭の上で大きく伸びをした。


「わぁぁぁふ」


 タロはあくびをしながら、前足をぎゅーっと伸ばして背中をそらす。


「ぴ~」「ぴぎ~」


 ピッピはミナトの肩の上にとまって片羽ずつ伸ばしてストレッチした。

 フルフルは全身をびょんびょんと震わせる。


「空があかいね。ピッピみたい」

「りゃむ」「わふ」「ぴい~」「ぴぎ」


 どうやら日の出直後らしい。東の空が真っ赤だった。


「がうがう」


 藪の中から虎3号が歩いてきて、ミナトのことを優しく舐めた。


「あ、虎3号も早起きだね。何してたの?」

「がう~」

「そっか、巡回してたのかー。僕も巡回する!」

「がう!」


 虎3号は「じゃあ、ついてきて!」というと、走り出した。

 ミナトが走り出すと、頭の上のルクスが楽しそうに羽をバサバサさせる。


「わふ~」


 タロも嬉しくなってミナトに併走した。


「ぴぎ」「ぴぃ~」


 フルフルはタロの頭の上に乗り、ピッピは飛んでついてくる。

 虎3号は藪の中を走って行く。

 人族にとってはとても走りにくい道なき道を、ミナトはたやすく駆けていった。


「やっぱり広いねー」

「がう~」

 廃村は大まかに円形で、およそ半径二キロぐらいの面積があった。

 その外周をミナト達は走って行く。


「あ、柵がやぶれてるところがある」

「がうがう~」

「他にもあるの? そっかー、念のために神像をおいておこう」


 ミナトは神像を柵の壊れた場所に置く。


「ばう~」

「そうだね、壊れてない場所にも置いていこうね」


 ミナトとタロの作った神像の呪者よけの効果は、かなり高いのだ。

 大体等間隔になるように、ミナトは走りながら神像を置いていく。


 村の外周は十二キロを超えている。しかも道はなく、藪の中を走ることになる。


 だが、ミナト達にとってはたいしたことは無かった。

 ミナト達は、かなりの速度で走って行く。藪をかき分け、枝をくぐり、木の根を飛び越える。

 普通の人族ならば、歩くのでも大変な道のりだった。


 一時間ぐらいかけて、外周をまわって、ミナト達は建物のある場所へと戻ってきた。

 すると、テントから少し離れたところで、ジルベルトがコリンに剣の素振りを指導していた。


「はぁはぁはぁはぁ! あ、ミナト、おはようです! はぁはぁはぁはぁ!」

「ミナト、おはよう」

「おはよう!」「ばうばう」


 コリンとジルベルトは、挨拶しながらも、ぶんぶんと剣を振り続けている。


「コリン、最後まで力を抜いたらだめだ」

「はいです! はぁはぁはぁ」


 コリンのコボルトの勇者の剣よりも、ジルベルトの剣の方が重そうだ。

 コリンの息は荒いが、同じだけ動いているはずのジルベルトは平気な様子だった。


「戦闘では持久力が無いと厳しいぞ」

「はいです!」

「あとでタロ様の散歩に同行させてもらってもいいかもな」

「わふわふ~」

 タロは「もちろんいいよ!」と言って、尻尾を振った。


「タロ様よろしくです!」

「んにゃんにゃんにゃ」


 頑張るコリンの横では、コトラがぴょんぴょん跳ねている。

 そんなコトラを虎3号は優しい目で見つめていた。


 コリンとジルベルトは汗だくになりながら、しばらく素振りをしていた。

 その間に、ミナトは虎3号とタロ達の為に井戸水を汲んだ。


「この村の井戸水はおいしいからねー」

「ばうばう」「が~う」


 そして、素振りを終えたコリン達にも、コップに井戸水をいれて、素早く差し出した。


「コリン、コトラ、ジルベルトも水でも飲んで」「わふわふ~」

「ありがとうです! ごくごく。いきかえるですー」

「おお、ありがとう、この村の井戸水は本当にうまいな」「にゃ~」


 ジルベルトもコトラも水を飲んでうまいという。


「ところで、ミナトは朝っぱらから、どこに行ってたんだ?」

「虎3号と一緒に村の柵をみてまわってたの」「がう」

「どうだった?」

「柵が破れているところが、けっこうあった!」

「そうか。直さないとなぁ」


 そんな会話をしている間にも、アニエス達やコボルト達が朝食の準備を進めていた。

 レックスは村長の指示の元、木材を並べている。

 魔猪や魔狸、魔鼠達も畑を見て回っているし、魔梟は上空を旋回していた。


「みんなも早起きだね」


 まだ夜明けから一時間と少しなのに、みんな起きているようだ。


「そうだな。みんな、新しい村作りが楽しいんだろう」

「そっかー。あれ? 魔山羊さんは……、あ、あんな遠くにいる」


 魔山羊達は魔猪達とは離れて、畑の向こう側、藪の中で雑草をむしゃむしゃ食べていた。

 魔猪達は虫担当で、魔山羊達は草担当だ。


 だから、別行動することも多いのかもしれない。

 最初に魔猪達と会ったときも、魔山羊達はいなかった。


「魔山羊さん達はおいしそうに雑草を食べるですね。なんかおいしそうに見えてくるです」


 コリンの言いたいことが、ミナトにはわかった。

 それぐらい魔山羊はおいしそうに雑草をむしゃむしゃ食べるのだ。


「そだねー、おいしそう」「わふ」

「ミナト、雑草は食べるなよ?」

「雑草は、さすがに食べないよー。……ん?」

「どした? ミナト」

「魔山羊さん達の横に……あれは……グラキアス?」

「あ、ほんとです」


 人型の氷竜王が魔山羊の陰で、雑草をむしゃむしゃしていた。

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