ミナトがグラキアスに気づかなかったのは、雑草色のフード付きローブを着ているからだ。
しかも、そのローブは魔導具らしく、魔力を隠して目立たなくする効果までついていた。
「……氷竜って、雑草食べるのかな?」「わぁぅ?」
「食べないんじゃ、いや、食べるのか? 実際食べてるし……食べるんだろう? たぶん」
ジルベルトも困惑している。
「んりゃ~」
ミナト達から少し遅れて、グラキアスに気づいたルクスが羽をバタバタさせて飛んでいく。
「ルクス、待って! 僕も一緒に行くからね」「わふ~」
ルクスはまっすぐグラキアスをめがけて飛び、その後ろをミナト達がついて行った。
「お、ルクス! よくぞ我に気づいたな!」
「りゃむりゃむ~」
ルクスはグラキアスの胸に飛び込んで、尻尾を振った。
「グラキアスは、そんなところで、なにしてるの?」
「むむ~。こんなにもあっさり見つかるとは……だが、ばれたならば、仕方あるまいて」
そういうと、右手で掴んでいた雑草の束を魔山羊に食べさせる。
「レックスから面白いことをしていると聞いてな。こっそり見に来たのだ」
「そうだったんだ。みんな喜ぶよ」「ばうばう」
「そうか? えへへ。それに、通話機能を持つ魔導具を村において欲しいとも聞いてな」
「そうそう! そうなの! 虎3号とかコボルトのみんなともお話したいからね」
「うむうむ。だから魔導具作りのついでに遊びに来たという面もあるのだ」
「そっかー。ところで、グラキアスはなんで雑草食べてたの?」
「あ、これか?」
グラキアスが右手に掴んだ雑草を、魔山羊がおいしそうにむしゃむしゃ食べている。
そんな魔山羊をグラキアスは左手で優しく撫でた。
グラキアスの胸に抱きついているルクスも魔山羊のことを撫でている。
「こっそり隠れてたら、こやつらに会ってな」
おいしそうに食べているのを見て、食べたくなったのだという。
「雑草って、おいしいの?」
「まあ、そんなにおいしくはないな?」
「お腹こわさない?」
「我は竜ぞ? 並の毒も効かぬのに、草程度でお腹を壊すわけ無かろう」
「そっかー。すごい」「わふ」
「そもそもだな。氷竜は雑食ゆえ雑草ぐらい消化できるのだぞ?」
「しらなかった!」「ばふ!」「りゃむ!」
ミナトだけでなく、タロとルクスも驚いていた。
「りゃありゃあ!」
「あ、ルクスも食べてみる? はい」
ミナトが雑草を取って、ルクスの鼻先に持って行くと、むしゃむしゃ食べた。
「りゃむりゃむ」
「おいし?」
「……りゃ~」
ルクスは口から雑草をボロボロと落とした。
「そうかそうか。ルクスは雑草が好きではないか」
そういってグラキアスは楽しそうに笑う。
「ルクスは氷竜じゃないから、草はたべられないのかな?」
「それは違うぞ? 人族の子も野菜が嫌いだったりするであろ? それであろうな」
「そっかー」
「まぁ、人族の野菜と異なり、栄養的に竜に雑草は必要ではないがな!」
そんなことを話しながら、ミナト達は皆のところへと歩いて行く。
驚いたのはレックスだ。
「陛下、何してるんですか?」
「ん? こっそり見に来たのだが、ミナトに見つかってな」
「まったく……。皆に紹介しますからこっちに来てください」
レックスが、グラキアスのことをコボルト達や魔猪達に紹介していった。
コボルト達は、偉大な氷竜王を前にして、恐縮しきりだった。
魔猪達もレックス以上に強い存在に、少し気圧されていた。
その後、ミナトは、グラキアスや魔猪達と一緒に朝ご飯を食べることになった。
「おいしそー」「ばうばう~」
今日の朝食はサーニャとコボルト達が作ってくれた。
「うまいうまい」「ばうばう」
トーストした食パン二枚にバターを塗って、目玉焼きとベーコン、チーズを挟んだものだ。
「口に合って良かったわ。ソースはエルフの里に伝わる秘伝のデミグラスソースなの」
「ほえー、おいしい!」「わふ~」
「おいしいです。バターの塩加減と、ソースの相性がばっちりなのです!」「んにゃ」
コリンとコトラもおいしそうに食べている。
少し前までミナトにご飯を食べさせてもらっていたピッピとフルフルは自分で食べていた。
きっと、ルクスがいるので、甘えるのをやめたのだろう。
「りゃむりゃむりゃむ」
「どんどんたべるがよいぞ。可愛いなぁ」
そして、ルクスはグラキアスに抱っこされて、ご飯を食べさせてもらっている。
氷竜達は、皆ルクスにご飯を食べさせたがるのだ。
朝食が終わると、アニエス達と氷竜達、それにコボルト達の半分は建築作業を始める。
残りのコボルトは、魔猪達と一緒に畑の準備だ。
「はい! 農具はこれで全部かな!」
ミナトは、コボルト達から預かってサラキアの鞄に入れておいた農具を取り出した。
「ありがとうございます、本当に助かります」
「気にしないで! ……ところで、これは何に使うの?」
ミナトは農具の中でも特に大きな物を指さした。
「これは犂といって、牛馬に曳いてもらって土を起こす農具ですぞ」
「しばらく手入れされていない畑なたので、まず土起しからしないとですからな」
「ほほう!」
「昔は我が村にも牛がいたのですが……」
コボルト達の飼っていた牛は呪者に殺されてしまったのだ。
「ばうばう?」
「そんな! タロ様に曳いてもらうなんて、そんな! 恐れ多い!」
「ぶぼ~~? ぶぼぶぼ」
「そっか、そうだね。タロは僕と一緒に旅立つもんね」
「魔猪さんはなんと?」
「魔猪さんが、犂を曳いてもいいって。同じ村の仲間だからそのぐらいやるって」
「なんと……」
コボルト達は魔猪の言葉に感動して尻尾をプルプルさせている。
それから、器用なコボルトが、魔猪の体にあうように犂を調整し始めた。
「ばうばう」
「あ、そうだね、忘れてた! 村長! 神様のほこらはどの辺りにおけばいい~?」
「あ、祠ですな! それでしたら、是非この辺りに」
「わかった! よいしょ!」
建物の中央付近、井戸の近くにサラキアの鞄から取り出した、祠を設置する。
至高神とサラキアとコボルト神をまつった祠だ。
「わふわふ」
「そだね、僕とタロの作った神像も入れておこう」
ほこらの中にミナトは自作の神像を入れておく。
ミナトとタロが作った神像には、ただでさえ極めて強い効果がある。
ちゃんとした祠に祀られているので、なお一層効果が高くなっていた。
並の呪者では近づくことすら出来ないだろう。
「あ、至高神様とサラキア様に竜焼きを備えておこう。竜焼きです。食べてください」
「わふわふ」
ミナトとタロが祈りを捧げると、竜焼きはすうっと消える。
そのとき、上空を旋回していた魔梟が「グウァァァー」と鳴いた。
全員の視線が空に向かう。
「ん? 何かあったのですかな? 警戒を促す声に聞こえますが……」
村長が魔梟を見ながら言う。
「えっとね。入り口まで人が来たんだって。ヘクトルっぽい服を着たおじいちゃんだって」
ミナトが魔梟の言葉を通訳すると、ジルベルトが言う。
「ヘクトルっぽい服となると、神殿長かな?」
「昨日帰らなかったから、心配して迎えに来たのかしら? ジルベルト、行ってみましょう」
「わかったわかった」
アニエスとジルベルトが村の入り口まで迎えに行くことになった。
「僕もいく!」「わふわふ」「ぴぎ」
「僕もいくです」「んにゃー」
ミナトとタロ、フルフルとコリンとコトラが同行することになった。
「ぴぃ~」
ピッピは上空へと飛び上がって、偵察に向かってくれる。
ちなみにルクスはグラキアスに抱っこされてうとうとしていた。