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第一章『前進』

秘薬-混沌の残滓-

『-………』

「………」

 それから数十分後。パレスの隠されたフロアに戻った俺達を出迎えたのは、ポカンとした様子の創世龍と巫女だった。…多分、中から戦いを見守っていてくれたのだろう。

「…っ!…良くぞ、ご無事で」

『…グルア』

「…我が主も、お二人の帰還を喜ばれております」

 だが、なんとか再起動した主と従者は俺達の無事を喜んでくれた。…まあ、気持ちは分からないでもない。

 正直、俺もあんなにあっさりと片付けられるとは思ってなかった。…もしかしたら、カンストした俺達はこの世界で並ぶ者が居ないのかもしれない。


『…恐らく、雑兵共の主な目的は我々を捕らえる事だったのでしょう。だから戦力も、我々を消耗させる役割の尖兵達と、パレスの破壊兼使徒の器となる巨兵一体というシンプルな構成で良かったのでは?』

「…っ!」

『…グルア』

「…なるほど。…今回は、運が良かっと考えるべきですね」

 相棒の予想に、龍も巫女も納得したような反応を見せる。一方俺は、気を引き締めた。…危うく、相手をナメる所だった。

「…あ、そうだ。

 創世龍殿、一つ確認させて頂きたい事があるのですが」

『…グルア?』

 俺は反省しつつ、今後の為にとある事を確認するべく当人に許可を求める。…だが、肝心の当人はピンと来ていないようだ。

「…もしや、我が主のお身体の事を調べてくださるのですか?」

 すると、代わりに巫女が察してくれた。…やはり彼女も、内心かなり心配していたようだ。

『…グルア。…グルルウ』

「『ご心配をお掛けしたようですね。…そして貴女も、ありがとう』…っ!…勿体なきお言葉」

 それを聞いて、龍は頭を下げそれから従者に礼を言う。…当然、巫女は嬉しさのあまり震えていた。


『…グルウ』

「『どうか宜しくお願い致します』…と、我が主は申しております」

「…では、失礼します-」

 許可が出たので、俺はインベリトリからモノクルを取り出し装備した。直後、目の前に居る龍のステータスウィンドウが展開する。

 -これは『ドラゴンスペクタクル』というアイテムで、パートナードラゴン以外のステータスを調べる物だ。

「…っ(…流石、『最強』というだけあって全能力値が『?』になってるのか。…で、やっぱりか)」

「…どうですか?」

「…やはり創世龍殿は、『魔力枯渇』の状態異常になっています。

 多分、連合部隊の生き残りを転送する時に相当の魔力を消費したからでしょう」

『…グルア』

「…それは、治るのですか」

「勿論です。…ただ、申し訳ありませんが現在所持していません。

 それ用のポーションは、宿屋の倉庫に預けておりまして」

 巫女の問いに、俺は自信を持って返す。だが直ぐに、申し訳なくなった。…そもそも、アレは余程無茶な戦い方をしないとならない状態異常だから、常備してないんだよな。


「なるほど。…では、まずは始まりの街へ行くのですね?」

「ええ。…まあ、念のため無事かどうかを確認して来ます。

 -……ん?」

 最初の目的地は決まったので、相棒に騎乗しようとする。…だが、その時急に俺と相棒の装備ウィンドウが勝手に展開した。

 そして、ウィンドウの一番上に『使用出来ない魔石がセットされています』という、赤文字のエラーメッセージが表示されていた。

「…ああ、なるほど」

 俺は直ぐにピンと来て、セットゾーンを確認してみる。…すると、予想通り例のチート魔石が使用不可になっていた。


「…ああ、申し訳ありません。その魔石についての説明がまだでしたね。

 その魔石達は、混沌の敵と相対する時のみ力を発揮するのです。そして、それらを身に付ける事が出来る者の限られます。

 -それは、ライト様とヴァイス様のような真の強者です」

「…なるほど(…つまり、レベルカンストに加えて全ステータスが三桁超えてないと、装備出来ないのか。普通、魔石にはそういう縛りはない筈なんだがな)」

『…そうか。だから、猛者達はこれを身に付ける事が出来なかったのか』

「…っ!」

 相棒の核心を突く言葉に、俺はハッとさせられた。…まさか、この世界の最高戦力達がカンストしていないとは予想出来なかった。

 言い換えれば、敵はそれだけ強いという事になる。…やはり、敵をナメてはいけない。

 改めて気を引き締めつつ、俺はチート魔石を外した。すると不思議な事に、外した瞬間直前までセットしていた魔石がそこに収まった。


『…なんと』

「…本当、規格外な魔石ですね」

「ええ。我が主がこの世界を守る為に、大いなる慈愛を込めて生み出した物ですので」

 俺達が驚いていると、巫女は誇らしい顔でそう言った。…本当に、主の事を尊敬しているのだろう。

「…それでは、行って来ます」

『行って参ります』

『グルア』

「お気をつけて」

 とりあえず俺は相棒に騎乗し、相棒と共に出発の挨拶をした。すると、龍と巫女は深くお辞儀をして見送ってくれた-。


 ○


「-……っ!」

 パレスを出発して数分後。俺達は再び、『スビノオ』の上空に到着した。…そして、眼下に広がる光景を見てとりあえず安堵する。

『…無事なようですね』

「ああ。じゃあ、降下してくれ」

『イエス、マスター』

 オーダーを出すと、相棒はゆっくりと地上に降下した。そして、近くの森に降り立つと直ぐに町に入る為の『準備』をする。

「-…ふう」

 まず、相棒には再び人化してもらう。…でないと、一緒に町に入れないからだ。

 更に、俺も今身に付けている装備を初期風の物に変える。こうする事で、敵の目を誤魔化せるかもしれないと思ったからだ。

「じゃあ、行くぞ」

「はい」

 準備が済んだので、なるべく落ち着いて町に近付く。…すると、程なくして町に入る事が出来た。

「「………」」

 だが、俺達は直ぐに言葉を失う。…おかしな事に、町にはNPCが一人も居なかったのだ。これが夜の時間帯なら分かるが、昼過ぎにこの状況は明らかに異常だ。


「…何があった?」

「……。…っ!住人は家の中に居ます」

 すると、相棒は建物を見ながらそんな事を教えてくれる。…良く見ると、相棒は眼だけをドラゴンのモノに戻していた。

 確か、相棒の眼には生命感知の能力もあった筈だ。…しかし、困った状況になった。

「…恐らく、混沌の雑兵共を感知した為に警戒態勢になったのでしょう」

「…だろうな。この町とパレスは、歩ける距離だし。…さて、どうしたものか」

「…間違いなく、宿屋も閉じていますよね」

 …そう。このままでは、宿屋に入る事が出来ず倉庫から例のポーションを取り出せない。つまり、隣の町に向かう必要がある。

「-っ!」

 とりあえず、状況を向こうに伝えるべく手紙を用意しようとする。…だがその時、また勝手にアイテムウィンドウが展開した。

「…これは」

「……」

 そして次の瞬間、相棒の手の中に『創世龍の涙石』の内の二つが現れた。…一つは、混沌の力を完全に『無効化』する物。もう一つは、その力を仲間に与える物だ。


「…『使え』と言っているのですか?」

「…つまり、町の住人達は混沌の残滓の影響を受けている訳だ」

「…本当、厄介な力ですな。そして、こちらはつくづく常識外れだ」

「…じゃあ、頼む」

「はいっ!

 -セイントレイン!」

「…っ!」

 相棒は二つの魔石を空に掲げつつ、全バッドステータス解除の魔法を使った。すると、次の瞬間二つ魔石に眩い光が宿る。

「…うわっ!」

 そして、魔石は相棒の手から飛び出し瞬時に町の上空へとたどり着いた。その後直ぐに魔石は消え、代わりに光の雨雲が町の上に現れる。


「「…っ!」」

 やがて、ポツポツと光の雨が降り始め瞬く間に大雨となる。だが、俺達の身体は濡れる事はなかった。

 何故なら、光の雨は俺達を避けるように降注いでいたのだから。…そして、光の雨が降り始めて数分後に『効果』が現れる。

「「…うわあ」」

 なんと、建物と地面から黒い煙が噴き出してきたのだ。…それを見て、流石に俺達はドン引きしてしまう。

 だが、その煙も光の雨によってかき消され町は順調に浄化されていく。そして、数分後には町から完全に混沌の残滓が消えた-。


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