-数時間後。俺達は、セカンドエリアの東側に来ていた。…そして、目の前には雰囲気のある遺跡風の建築物があった。
『……』
「ここは、『試練の遺跡(武)』。主に、近接系武器を鍛える場所だ」
『……』
「…って、聞いてる?」
『…っ!』
そこで、彼らはようやくこちらを向いた。…まあ、いきなり街から此処に転移したんだから驚くのも無理ないか。
「…まさか、設定上でしか存在しない魔法道具まで所持していたとはな」
「…え?」
「…俺も、まさか単なるオブジェクトじゃない実物があるとは、思ってませんでしたよ」
「…これも、世界がリアルになった影響?」
「…そう考えるしかないだろう。多分、他にもあるだろうな」
「…でしょうね。まあ、そういったモノを集めたり避けたりするにも、力は必要ってワケだ」
「「…確かに」」
緑と青の二人が納得していると、年長者は静かにロングバトンを取り出し肩に担ぐ。…どうやら、此処の担当が自分だと理解したようだ。
「「…っ」」
「…じゃあ、行ってくる」
「はい。あ、『昼前』には迎えにくるので」
「…分かった」
「「…お気をつけて」」
「ああ」
そして、彼は修行場に足を踏み入れた。…ちなみに、三人には中級の回復ポーションと脱出アイテムを渡してある。無論、『万が一』の時をやり過ごすモノもだ。
「良し。次に行こう」
「「うん」」
年長者を心配そうに見送る二人は、なんとか気持ちを切り替えて近付いてきた。それを確認したので、俺は次の場所に転移する。
「-っ!」
「…慣れないな。…って、あれ?」
すると、周りを見渡した緑のルーキーは首を傾げる。…何故なら、周囲に遺跡らしい建物はなく目の前に樹海があるだけなのだから。
だが、場所は間違っていない。そして、首を傾げている奴にピッタリの修行場なのだ。
「…っ!お、おい、まさか遺跡はこの樹海の中か?」
「正解。正確には、この樹海も『遺跡』の一部だ」
「…マジか。…で、どっちが行くんだ?」
「此処の攻略方は、『正しい的』に矢を当てる事だ」
「…俺か」
ほぼ答えなヒントを出すと、弓使いは察して気を引き締めた。…まあ、コイツには多めに脱出アイテムを渡してるから大丈夫だろう。それに実戦もある程度経験してるから、多分五回目ぐらいでクリア出来る筈だ。
「…じゃあ、行ってくる」
「…気を付けて」
「…ああ」
「あ、クリアしたらメールくれ」
「…了解」
そして、弓使いは意を決して樹海に足を踏み入れた。…すると、直ぐに樹海の入り口は閉じてしまう。本当、恐ろしい場所だ。
「…ここ、脱出アイテムがなかったらヤバい場所じゃない?」
「それが、そうでもないんだな。
実は、樹海のエリアまではドラゴンと一緒に進めるんだ。んで、ヤバくなったら『ファストトラベル』で抜ければ良い。
まあ、詰み防止の救済措置だな」
「…へぇ。…あれ?じゃあ、彼だけパートナーと一緒でも良かったんじゃないの?」
驚きの仕組みを聞いた彼女は、ふとそこに気付いた。…まあ、確かにそっちの方がレアアイテムの消費を抑えらるが、『それ』だと意味はないのだ。
「…あ、もしかしてマスターの為だったりするのかな~?」
「正解」
「…へ?」
すると、アイツの相棒は真の目的をピタリと言い当てた。当然、俺は拍手を送り水使いは首を傾げる。
「アイツ、戦闘中どんな感じだった?…俺の予想だと、ほとんどパートナーに頼りきりだったんじゃないか?」
「…あ。…つまり、この場所は彼を一から鍛え直すのにふさわしいと?」
「ああ。なにせ、此処では自分だけで進まなければならない。おまけに、やり直しの回数も限られてるときてる。
それに、『もし自分だけクリア出来なかったらなんて言われるか』って考えるから、必然的に集中して取り組めるんだよ。
多分、三人の中で一番『成長』するのアイツだろうな」
「…なるほどね。それにしても、良く考えてるわね?もしかして、そういう人が身近に居たとか?」
「…父さんの親戚にな。
さて、時間も押してるしそろそろ移動しよう」
「…分かった」
彼女の質問にしっかりと答えたいが、そろそろ移動したいので俺は簡潔に答える。すると彼女はそれだけで納得してくるたので、直ぐに三つ目のポイントに移動した。
「-…ここが、三つ目の遺跡?」
そして、無事にポイントへ到着すると目の前には広大な湖があった。…当然、そこにはこれから水使いが入る遺跡があるのだが、当人は困惑の顔になる。
-何故なら、『試練の遺跡(水魔法)』はどう見ても水没しているのだから。
「ああ。ここは、水魔法を鍛えるのに最適な遺跡だ」
「…はあ。想像してたのとは、大分違うわね」
「流石に初見はびっくりしたな」
「…本当、やり込んでるわね。じゃあ、行ってくるわ」
「頑張れよ。あ、多分迎えに来るのは『夕方』になるだろうから」
「…っ!うん」
彼女は力強く頷き、遺跡のある島に向かう為の橋を渡り始めた。…もしかしたら彼女は、初見クリア出来るかもしれない。
そんな予想をしながら、俺達は最後のポイントに移動する。そして、そこにあるドラゴン用の修行場で三体のドラゴンと別れ、再びアンセへと戻った。
「-あっ、フラッシュ殿」
「お帰りなさい。…いや、丁度良かった」
「どうかしましたか?」
外壁の端に到着すると、そこに待機していた部隊の人がこちらに気付いた。しかも、どうやら俺に連絡をするつもりだったようだ。
「…隊長がお呼びです」
「…っ!分かりました」
すると、隊員は真剣な様子でそう言った。なので俺も気を引き締め、彼らと共に街に入りそのまま詰所を目指した。…その最中、街の様子が少し緊迫してるような気がした。
「…もしかして、もう『噂』が立っているんですか?」
「…ええ、残念な事に」
「…幸いなのは、今したがた広がった事と肝心の部分は誰も知らない事です」
「…そうですか」
やはり、何処の世界にも『ネガティブ』な思考の奴が居るものだ。しかも、今回に限っては的を得ているのだから厄介である。
「-失礼します」
「フラッシュ殿をお連れしました」
「…ご苦労」
そうこうしている内に詰所に到着し、直ぐに隊員の執務室に通された。…そこには、少し疲れた様子の隊員が待っていた。多分、少し前までいろいろと『忙しかった』のだろう。
「二人共、任務に戻れ」
「「はっ!」」
「…ふう。さ、掛けたまえ」
「…失礼します。…お疲れのようですね?」
隊員が部屋から出ると、隊長は深いため息を吐きつつ自分の椅子に座る。そして、こちらにも座るように促したので俺はそっと座り、申し訳なく思いながら話を始めた。
「…まあ、それなにな。
-それで、彼らは?」
隊長はそう返した後、直ぐにそんな事を聞いてきた。…そう。彼らに修行させている真の目的は、彼らをこの街から離す事だ。
これはあくまで俺の憶測だが、昨日の襲撃はあの三人を狙ったものではないだろうか。…現に奴らは、陽動で主力を引き付けその隙に侵入用のユニットで街を襲撃しようとしていた。
もしも、あの場に俺みたいな『経験者』が居なかったら、今頃街は大打撃を受けていたに違いない。
「ご安心を。今、彼らとそのパートナー達は修行場にて鍛えております。それに、今日は夜営をしますから」
「…そうか。いや、本当にすまない」
そう答えると、隊長も心底申し訳なさそうな顔をして謝って来た。…まあ、防衛部隊は街の平和を守るのが仕事だ。
当然、それを脅かす存在や『それらを招き入れる者』を街に入れる訳にはいかないのだ。…それはつまり、しばらくの間宿で休めない事を意味している。
「…防衛部隊のせいではありませんよ。恐らくこれは、混沌の勢力の策でしょう」
そんな隊長に、俺は確信を持って告げる。…なにせ、幸先良いと思ったら直ぐに雲行きが怪しくなったのだ。そんな経験を、この世界で何度も経験している。