「…なんだと?…つまり、今街の中に流れている悪い噂は混沌の息が掛かった者が流したと?
…だが、『そういった者』は街に入ったという記録は-」
「-違いますよ。…奴らは、街に来る行商人を利用したのです」
「……っ!…そういえば、あの三人は行商人と共に来ていたな。…そして、行商人は酷く怯えていたと部下は言っていた。
……そうか。道中で、混沌の勢力に襲撃されたのか。それも、『何度も』」
すると、隊長は答えにたどり着いた。…要するに、奴らは『龍騎士と行動しているから襲われた』と考えるように仕向けたのだ。その上で街を襲えば、行商人は無自覚に『駒』となってしまう。
そして、いつしか俺達はロクに休憩やアイテムの補充等が出来なくなり、窮地に立たされるだろう。…それが、奴らの描いた筋書きだ。
「…全く、厄介な事この上ないですね」
「…随分と落ち着いているな?」
しかし、隊長の言う通り俺はやれやれと思うだけで焦ってはいなかった。…何故なら、奴らが『こうする』のを予想していたのだから。
「この程度の策略、痛くも痒くもありませんからね。『拠点』は既に確保済みですし、補給方法もある程度考えています」
「…なるほどな。…もし、我々に何か協力出来る事があれば遠慮なく言ってくれ」
「ありがとうございます。…では、早速お願いしたい事があります」
なので、真っ先に『カウンター』を仕込んで置く事にした。…どうやら、奴らは肝心な事を忘れているようだから。
「…っ!なんだ?」
「今日から、街に来る行商人以外の者達は全員門前払いをして下さい」
「……は?」
「…順を追って説明しましょう-」
こちらの頼みに、隊長は言葉の意味を理解出来ずにいた。…まあ、俺が隊長の立場なら間違いなく同じ反応をしただろう。
だから、俺は直ぐに説明を始めた。
-何故こんな事を頼むのかというと、『一石二鳥』を狙いたいからだ。…こうする事で、一つは味方になってくれそうな奴を効率良くパレスに集められる。
そして、もう一つは敵の補給も絶ち士気を下げ
てしまえるのだ。…何故なら、向こうは闇堕ちした龍騎士を抱えているのだから。
その話になると、隊長は首を傾げる。…まあこれも当然の反応だ。何故なら、街に住む彼らには『あの仕様』は無縁の話なのだから。
だから、その辺りの説明もすると隊長はまたしても驚きつつ冷汗を流した。…やはり最終エリアの人でないから、『奴ら』と出くわした事がないのだろう。
「…そんな奴らと遭遇して、良く無事に切り抜けられたな」
「…いやあ、初遭遇の時は即座に逃走を選びましたよ」
「…私もそうしただろうな。
…ともかく、話は分かった。後で、門の当番には伝えておく」
「ありがとうございます。…おや?」
『-…クキュ?』
話が纏まると、まるで待っていましたとばかりにウィンドウが展開し、顔だけ出した使いがこちらを見る。…どうやら、別の要件が発生したようだ。
「…っ!」
「…どうした?」
『クキュウッ!』
とりあえず手を差し出すと、使いはウィンドウから飛び出した。そして、手のひらの上に手紙を落とす。…さあて、何が起きたのかな?
少し期待しながら開けてみると、予想していた内容が書かれていた。…それを見て、俺は安堵する。
「…吉報が来たのか?」
「ええ。
-『同志』がパレスに来てくれたようです」
「…っ!それはなによりだ」
簡潔に内容を伝えると、隊長は我が事のように喜んでくれた。…本当、友好NPCは皆良い人ばかりだと思う。
なんにせよ、手持ちぶさたにならずに済みそうだ。…果たして、新たな『同志』はどんな人達なのだろうか?
「…行くのだな?」
「ええ。…それでは、何かありましたら直ぐに連絡して下さい」
「分かった。…気をつけるのだぞ」
「「ありがとうございます-」
俺達は一礼してから執務室を出て、直ぐに街を後にした。そして、転移で始まりの街付近に到着したら相棒に乗ってパレスに向かう。…すると、直ぐにパレスが見え複数のコンビが集結しているのも見えた。
『…ほう、なかなか頼もしい面々ですな』
それを見た相棒は、彼らを分析する。…見たところ、ほとんどが高レベルプレイヤーで残りは中堅と『クリア済み』だろうか?
「-おっ!また来たっ!」
そしてそのまま、パレス手前の空いてるところに降りて貰い一人で近付こうとすると、爽やかなボイスのイケメンが声を掛けてきた。…恐らく、コイツは『クリア済み』だろうな。
だって、向こうの相棒はこちらの相棒を見ても平然としているのだから。…少なくとも、レベル80以上はあるとみた。
「そっちも、なかなかだ。…いや、頼りになりそうな人達が来てくれて良かった」
「……え?」
『……?』
ホッとしながらそう言うと、彼や周りにいたプレイヤー達はポカンとした。…まさか自分達を呼び出した張本人が、目の前に居るとは思わなかったのだろう。
「…え?お前が?…マジで?」
『…っ!お、おいっ!バレスがっ!』
彼が困惑するなか、パレスの方にも変化が起きた。…なんと、入り口から伸びる古い石畳の道が消えて、地下へと続く巨大な階段が出現した
のだ。当然、他のコンビは驚くが俺達は平然と進む。
「…お、おいっ!」
「とりあえず、話は『中』でしましょう」
『……』
するとイケメンが呼び止めてきたので、俺はそう返して階段を降り始めた。…それを見た他の奴らは、慎重について来る。
そして、少しして大きな広間に到着した。しかも、どういう訳か天井から外の光が射し込んでいるおかげで、広間は明るいときている。
『…な、なんだこりゃあ?』
『…こんな空間が、あったのか?』
「…どうなってんだ?」
「多分、『ここの主』が俺達の為に作ってくれたんだよ」
「……は?……って、まさかっ!?」
『……』
確信を持ってそう言うと、イケメンはまたポカンとする。…しかし、今度は意味を理解したようで凄く驚いた。勿論、周りの奴らも驚きのあまり言葉を失っている。
「-勇敢なる皆さま。ようこそお集まり下さいました」
だが、直後より驚く事が起きた。…いつの間にか階段が壁ごと消えていて、代わりに巫女がそこに居たのだ。
『………』
「ただいま戻りましたっ!」
「お帰りなさいませ。…では、『こちらへ』」
全員が唖然とするなか、俺と彼女は挨拶を交わした。…それが済むと、彼女はそう言って俺を自分の元に転移で呼び寄せる。
『……っ!』
「ありがとうございます。…ああ、そうだ」
「巫女殿、まずは『こちら』を」
「……?……そんな。
……、……?」
とりあえず、先に新たな情報を渡すと彼女は首を傾げつつ確認する。…そして、直ぐに彼女は深刻そうな顔をした。
だからなのか、彼女はこちらを恐る恐る見てきた。…けれど、俺の顔を見て不思議そうな顔をする。
「…巫女殿、とりあえず彼らに状況の説明をお願い出来ますか?その後に、『対策』を話しますので」
「……。…分かりました」
だが、まずは彼らへの説明が先なのでそれを彼女にお願いした。…すると、彼女は真剣な顔になり彼らの方を向いた。
「それでは、僭越ながら私から今日まで起きた事をご説明致します」
『……っ!』
彼女がそう告げた直後、例のウィンドウが大型サイズで展開した。…流石の彼らも、そのサイズに驚く。
『……っ』
けれど、ムービーが再生されると彼らは真剣に内容を見た。…やがて、相棒から聞かされた部分の細かい補足に入ると、全員言葉を失ってしまう。
更に、『こちらの状況』が流れるとちらほらと不安そうな顔をする奴が出てくる。だが、例の『アレ』を見た途端に少し不安が消えたように見えた。