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送迎-風の目覚め-

 -この世界に来て、二回目の夕方。俺は仲間と共に、レインコンビを迎えに行っていた。…ちなみに、ドラゴン側の試練は同じ場所で行われており、しかも龍騎士側のクリアと同時に終わるようになっている。

「「宜しくお願いします」」

「「こちらこそ、宜しくお願いします」」

 そして、水の班長との顔合わせも無事に済んだので一旦帰ろうとした。…すると、丁度その時遺跡の門が開かれグリーンが出て来た。

「…はあ~、凄い疲れた~」

「お疲れさん」

 やはり、かなり『長かった』らしくグリーンはその場に座り込んでしまった。…スタミナ自慢のトルネードドラゴンが、ここまで疲労困憊になるか。多分、ウィルの方で相当リトライしたのだろう。


「ほれ、これでも食べな」

「…お~、助かる~」

 そんな予想をしながら、グリーンに回復料理を渡した。すると、彼は感謝しながら大量の料理を食べていく。…見た目はのんびりとしたイケメンだが、やはり中身はドラゴンなのだ。

「…あの、帰りはどうしますか?」

 そんななか、水の班長が質問してきた。…そう。この時点で既に『定員』だ。まあ、正確な限界は不明だから大丈夫かもしれないが、『もし駄目だった時』のリスクが怖い。

「じゃあ、先に水の二人だけ帰って貰います。

 そして、風の班長に『此処』に来るように伝えて下さい」

「…分かりました」

「あ、使い方は-」

 水の班長にアイテムの使い方を教えると、彼女

 はしっかりとメモを取っていた。…確かこの人が率いる水の班は、全員几帳面だった筈だ。

 やはり、『あの重要な役割』を願いしても良いかもしれない。そうすれば、いちいち確認しないで済むだろう。

「-では、お先に失礼致します」

「…じゃあ、拠点で」

『了解』

 そして、説明が終わると水の班は先に拠点へ戻る。それから直ぐに、風の班長とパートナーが

 やって来たので、俺達はウィルの待つ樹海の遺跡へと転移した。


「-…っと」

「…いや、マジで凄いな」

「…ほ~んとに」

 転移が終わると、風のコンビは手の中にあるアイテムをまじまじと見つめる。…もう、これが無いといろいろ成り立たないだろう。

 そんな事を考えながら、俺は入り口を見渡しウィルを探す。…すると、彼は地面に倒れ込んでいた。

「…大丈夫か?」

「……もう、ムリ」

 声を掛けると、彼はなんとか返事をした。…仕方ないので、俺は手を貸してやろうと身を屈める。

 -けれど、その時不意に空が真っ暗になり辺りが見えなくなる。…しかも、まるで何かに怯えるように周りから生き物の気配が消えた。…どうやら、『覗かれて』いたらしい。

 一応、念のため俺と班長代理は変装はしているから、狙いは風のコンビだろう。…まあ、変装アイテムが自分のしかなかったさらこうなるのはしょうがない。


「…よっ」

「…な、何が、起きてんだよ?」

「『使徒』の襲撃だろうな。…とりあえず、お前はスタミナとMPを回復させろ」

 とりあえずウィルを起こしてやると、彼は異変に怯える。…けれど、俺は冷静に答え龍騎士用の回復料理を渡した。

「…わ、分かった」

「…おい、転移で逃げないのか?」

「奴らに情報を与えかねないから、脚下。

 ほら、『中級結界』を展開するぞ」

「…マジかよ。…行くぞ、相棒」

「お任せを」

「こっちもだ」

「はい-」

 そして、俺と班長代理は互いの相棒の偽装を解除する。…一方、暗闇の中では何かが蠢く音が聞こえた。

 恐らく、『同化と侵食』の能力を持つアイツだろう。…あれ?もしかして、これは『チャンス』でないだろうか?


『-グオオオオオッ!』

 対策が頭の中に浮かぶのと同時に、ドラゴンの姿に戻った相棒達は雄叫びを上げた。…そして俺達は地面に片手を向ける。

「「セイントフィールドッ!」」

「…っ!な、なんだあれっ!?」

 すると、結界が光源となり周囲が少しだけ見えるようになった。…だが、出現した『使徒』の姿も見えてしまった。

 -その見た目は、『馬鹿デカく真っ黒なトレント』といったところだろうか。…しかも、奴の周りには漆黒の花園が出来ていた。

「…っ!?」

 次の瞬間、その花園からデカキモいツルが出現した。…更に、キモい早さでこちらに向かって伸び来る。だが、ツルは結界に触れた瞬間消滅した。


『-…ォオオオオォオッ』

「…うう、なんて不気味な声だ」

 まるで、苦痛の声を上げるかのように『混沌の魔樹』は叫ぶ。…それを聞いて、ルーキーは余計に怯えてしまう。

 さて、どうやって『奮い起たせる』か。…確か風を選ぶ奴は、『ストレート』に言った方が良いんだったかな?

「…それにしても、どうして急に『使徒』が現れたんだ?

 他の二人も、ルーキーだろうに…」

『やる気スイッチオン』のプランを考えていると、丁度班長代理が疑問を口にした。…なので俺は、少し可哀想な顔でウィルを指差す。

「…そりゃ、コイツが一番『ザコ』だと思ったからだろうな」

「……は?」

 すると思惑通り、怯えていたルーキーは低い声を出した。…実は、風に選ばれる奴は『ナメられる』のが嫌いな傾向がある。

 まあ、奴らが彼の事をナメてるというのはあくまで俺の想像だ。…でも、奴らの傾向を考えるとあながち間違ってない気がする。


「…そういや、奴らは時たま『覗き見』してるんだったな。…あ、もしかしてたまたまレベリングを見られてたのか?」

「…だろうな。そして、他二人がリトライ回数片手で済んでいるのに対し、こいつだけ苦戦してるのを見たとしたら?」

「…『潰すのは容易い』と、判断されたのか。

 -本当に、ナメ腐ってるなぁ」

「……」

 そう言ったウィルは、こめかみをピクピクとさせていた。…ちなみに、風の班長は既に無表情になっている。やはり、風の使い手は仲間がナメられるのも我慢出来ないようだ。

「じゃあ、早速『ナメた』事を後悔させてやろうか」

「「…っ!賛成だ」」

 不敵な笑みを浮かべてそう言うと、二人は獰猛な笑顔を浮かべながら返した。…そして、俺は『モンスター図鑑』を開く。


「…まあ、多分『グロウ(班長代理)』と『スピンさん(風の班長)』は奴の攻略方を知ってると思いますが、念のため聞いて下さい」

「分かった」

「応っ」

「…あの『混沌の魔樹』は、デカイうえに耐久力が半端ないです。オマケに-」

『-オォオオオォ』

 説明している最中、奴は枝についてる真っ黒な果実をもぎ取った。…そして、その実をこちらに向けて投げて来る。

 すると、空中で果実はパカッと開き中からこれまた黒い種が飛び出したのだが、種はいきなり肥大化しその状態で結界に当たる。

「「-うわっ!?」」

 次の瞬間。爆発音と衝撃が俺達を襲った。…今のは、『エクスプロージョンシード』と呼ばれる植物モンスター特有の技だが、アイツのはヤバいシロモノななっている。


「…な、なんだ今の?…っ!なんか、外の空気ヤバくないか?」

「…お、良く分かったな。…まあ、此処で鍛えてれば、嫌でも分かるか」

「…これは『無力化の毒霧』といって、デバフと状態異常オンパレードのヤバいモノだ」

「「…なっ!?」」

「…このように、アイツは多彩かつ悪辣な技を沢山搭載してるんだ。

 あ、ちなみに今は結界と『アレ』の力で安全になってるから、大丈夫だぞ」

「…っ。…でも、そんなヤバい奴でも倒す事が出来るんだろ?」

 ルーキーはホッとし、そして確信を持って俺に聞いてきた。…当然、俺はニヤリと笑ってみせる。

 実際、アイツは攻略方さえ分かってしまえばそんなに怖くない使徒である。…それに、今こちらには風の力が『二つ』もあるのだ。

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