「-…ふう」
それから、数時間後。やるべき事は一通り終えたので、それぞれの部屋で休んでいた。…今日は一旦『休養日』にして、明日から本格的に動く事になったのだ。
実際、ほとんどの人が路銀の節約やら度々起きる襲撃のせいで、ロクに休めていなかったらしい。だから、幹部ミーティングで土の班長がそれを提案した瞬間、俺以外の班長達は即座に賛成した。なので、俺は提案を受け入れ直ぐに全体に流したのだ。
「…っ!はーいっ!」
しかし、一応リーダーである俺はメンバー全員のデータを確認していた。…そんななか、部屋に取り付けられたルームチャイムが鳴ったので応じると、ウィンドウが展開した。
『-すまんが、ちょっと良いか?』
「…どうぞ」
すると、土の班長を含めた四人の班長が映し出された。…しかも、土以外の三人は何か決意していた顔をしていたので、俺は気持ちを切り替えて彼らを招き入れる。
「…ありがとう。休んでるところ、すまんな」
「いえ。俺は昨日来たばかりだからか、そんなに疲れてませんから。
…それで、どうしました?」
「…実はな-」
本題を促すと、土の班長はまたしても気遣いに満ちた内容を話した。…なんと、今試練の遺跡でレベル上げしているルーキー達の事を、班長達に教えて欲しいというものだった。
多分、三人は『後回し』でも良いと思っていたのだろうが、土の班長は早い方が良いと考えたらしい。…もしかしたら、土の人はリアルだと『そういう職業』なのかもしれない。
「-じゃあ、データを渡しますね。…あ、良ければ班の人より先に会ってみます?」
「「「……へ?」」」
「おお、それは良い」
こちらの提案に、三人はポカンとし土の班長は直ぐに賛成した。…恐らく、俺が言わなかったら土の班長が提案していただろう。
「…だが、あのアイテムは複数人でも大丈夫なのか?」
「今朝の朝、八人で移動しても問題はありませんでした。…まあ、念のため『一属性』ずつで移動するとしましょう」
「それが良いだろう。…では、後はお前達で話し合ってくれ」
そう言って、土の班長は先に部屋を出た。…なので、俺達は順番を決めていく。それと、念には念を入れて『フォロー役』をどうするかも決めた。
「…じゃあ、改めてデータを渡しますね。
まずは、火からです」
「ありがとう。…お、来た」
「次は風を」
「…あ、来た来た」
「最後は水です」
「…っ!来たわ」
「…じゃあ、そろそろ火のルーキーが試練を終える頃ですから、準備をしましょうか」
「分かった-」
データを送り終えると、丁度良く『昼前』になった。なので、班長に声を掛ける。すると彼は、相棒に連絡を入れた。
その間に、俺は代理に連絡を入れる。…当然彼はビックリしたが、事情を話すと直ぐに切り替えてくれた。やはり、頼りになる。
そして、俺と火の班長は広間の出入り口に向かい、味方と合流した後拠点を出発した-。
○
「-宜しくお願いします」
「宜しくお願いします、『アニキ』達っ!」
「ああ」
「応よっ!」
拠点を出て、数分後。無事にエンジコンビを回収し、拠点に戻ってきた。それから、班のリビングで改めて顔合わせをしたのだが、驚くほど打ち解けるのが早かった。…まあ、ドラゴンの場合は完全に上下関係だが。
「じゃあ、後は宜しくお願いします」
「分かった」
なので、俺は安心して部屋を出る。…ふむ。アイツはまだだな。
一応、ウィルから連絡が来てないか確認するが案の定まだだった。…やはり、一番遅いのはアイツだろうか?
「…ん?」
そんな事を考えていると、直ぐ近くでとても良い匂いがしてくる。…それも、お腹が空いてくるような香ばしい匂いだ。
なので、無意識に後ろを振り返るといつの間にか『使い』が現れていた。…しかも、使いは皿の上に盛られた骨付き肉を美味しいそうに食べているではないか。
『キュウウッ!』
「…っ」
「…随分と、良いモノ食ってるな?」
『キュウウッ!?』
「…安心しろ。お前から取ったりしないよ」
すると、使いはまるでランチを守るかのように翼で肉を包み込む。なので、俺はそのつもりはないと返した。
『キュウウ?…キュウッ!』
それを見て、使いは安心したのか食事を再開した。…けれど、ふと何かを思い出し翼で肉をつんつんする。
「「……?……っ!」」
最初は分からず、俺達は首を傾げる。だが少しして、行動の意味が分かった。…しかし、まさか『頼んでいない』のにやってくれるとは思いもしなかった。
「…とりあえず、確認しよう」
「…はい-」
なんとか全員に連絡する事を我慢し、まずは巫女に確認してみる。…そして、相棒はウィンドウを開き巫女に連絡をいれた。
『-はい、どうされました?』
「…『お忙しいところ』すみません。…今は、大丈夫でしょうか?」
『…ああ、私の分身と会われたのですね。
あの、大変恐縮ですがもう少しお待ちいただけますでしょうか?』
それだけで、巫女はこちらの質問を察したようで申し訳なさそうにしてくる。…なので、俺は直ぐに班長にメッセージを送った。
すると、他の部屋から男子騎士とパートナー達が出て来る。…それに合わせるように、床の中央に大きな魔法陣が出現した。
『-……っ』
そして、魔法陣の上に巫女と高そうな素材で作られた大きな机が出現した。…当然、机には沢山の美味しそうな料理が並べられていた。
「…あ、申し訳ありません。今すぐ、お配り致しますので」
「…いや、せめて運ぶくらいは自分達にやらせてくれ」
巫女は直ぐに作業に移ろとするが、土の班長がそう言った。無論、俺達は巫女に一礼してから料理を自分の班の所に運び始める。…それにしても、まさかこんなに食材があるとは思いもしかなった。
「-…ところで、食材のストックは大丈夫だろうか?」
そんななか、土の班長は巫女に在庫の確認をした。…やはり、かなり減ったのだろうか?
「お気遣いありがとうございます。ですが、ご心配には及びません。
実は、『少し前』に大量の食材とレシピ書を此処の倉庫より見つけまして」
その問いに、巫女はなんとも不思議な答えで返した。…それを聞いて、なんとなく俺と土の班長はインベントリを確認する。
-実は、このゲームには料理システムが搭載されているのだ。…その理由は、出費を抑える為だろう。
なにせ、この世界の回復薬の値段はどれも値段が高いのだ。当然、優れた効果を持つモノほど手が出しづらい。
一方、料理の方や素材や器具の値段も安いからかなり助かる。…ただし、こちらは『期限と保存』に気を付けなければいけないが。
「「…っ!」」
インベントリにある食材を確認したら、今度は料理を観察する。…すると、両方が大体一致しているのに気付いた。オマケに、レシピの半分は俺が良く作っていた料理だ。
勿論、こちらの食材は減っていない。…恐らくだが、『コピー』でもされたのだろう。
「…あの、どうかなさいました?」
「…多分ですが、パレスの主殿が『用意』されたのでしょう」
「…ああ、その可能性が高いな。
なんにせよ、有り難いです」
「…我が主が。…やはり、我が主は素晴らしいお方だ」
それを聞いた巫女は、感激のあまり天井を見上げ祈りのポーズをした。…しかし、どうして主殿は『そんな事』をしていたのだろうか?
まさか、『今起きているトラブル』を予知していたのか?…それとも、『他の要因』か?
そんな事を考えながら、俺は自分の分を部屋に持って行った-。