渚くんの言葉で、自分の気持ちを自覚してから……私は変わった。
まずは普段の身だしなみを、気を使うようになった。
私のあだ名は“白の王子 ”……王子様然としての振る舞いを徹底しよう。
翌日は幸い休日だったので、少し伸びた髪を切りに行く。そして自分の服は自分で管理しようと、母にアイロンの使い方などを教えてもらうことにした。
そして笑顔。一番魅力のある表情は笑顔だと聞いた。
私はどんな笑顔が魅力的なのか調べ、鏡の前で練習する。
二日間の訓練の後、私は学園に登校した。
皆に変わったって思ってもらえるだろうか……、と心臓の音がうるさいまま、私は校門に脚を踏み入れる。
何となくではあるが、普段よりも視線が向けられているような気がする。挨拶をされれば、微笑んで手を上げると「ああ……」と言って倒れた子もいた。
……少しやりすぎただろうか?
いつもよりも騒々しい登校を終え、クラスに入る。私は「やあ」と声を上げると、全員が目をまん丸にして呆然としていた。
……もしかして何かおかしかったか?
「ねぇちょっとぉ!? 光くん、今日やばくな〜い!? オーラ、キラッキラの三倍盛りじゃん!? てかマジ王子すぎなんだけど〜っ!」
りおなさんの言葉に我に返ったクラスメイトたち。
「流石白の王子様、だね。本気出すと、本当にどこぞの王子様じゃないか……」
「めっちゃ気合い入っとーやん!」
「ああ、インスピレーションがあああー! ああ……! 神よ……! 私をこの場所に導いてくれた事感謝しまああああぁぁぁっす!」
物凄い勢いで筆を走らせる通常運転の翡翠さんの様子に、ニコニコと笑っているみんな。
私はこの反応で手応えを感じていた。
――――
月曜日の朝。
隣の席の光くんは、まだ来ない。
……珍しいな。いつもなら、
もしかして風邪引いたかな? 体調崩しちゃったかな?
最近暑かったり寒かったり……気温差が激しかったもん。
私はぼーっと窓の外で揺れている木の葉を見つめていた。すると――。
「やあ、おはよう」
あっ、光くんだ! 良かった、体調崩したわけじゃなかったんだ!
そう喜んだ私が、彼の方へ顔を向けると……。
そこに立っていたのは、王子様だった。
まるで絵本から飛び出してきたような……。
「すごく……素敵……」
私は無意識に呟いていた。幸い、私の言葉は誰にも聞こえなかったようだ。
いつもと違う光くん、何が違うんだろう……あ、もしかして髪の毛整えたのかな? それにいつものふんわりとした笑顔じゃなくて、本当に爽やかな王子様のような笑顔になっている気がする。
そんな時に聞こえたのがりおなちゃんの声。
「ねぇちょっとぉ!? 光くん、今日やばくな〜い!? オーラ、キラッキラの三倍盛りじゃん!? てかマジ王子すぎなんだけど〜っ!」
そうか、いつもキラキラしているけど、今日は更にキラキラしてるんだ。
今日の光くん、すごい格好良くて……すごく素敵。
そんな光くんに見惚れてしまう私がいる。
まるで、本当に王子様になったような光くん。
私とは、違う世界の人みたいに思えて――少しだけ、怖かった。
だからかな。そんな光くんとちょっと距離を感じるのは、私の気のせい……なのかな?