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第10話 二人の変化

 渚くんの言葉で、自分の気持ちを自覚してから……私は変わった。


 まずは普段の身だしなみを、気を使うようになった。

 私のあだ名は“白の王子 ”……王子様然としての振る舞いを徹底しよう。


 翌日は幸い休日だったので、少し伸びた髪を切りに行く。そして自分の服は自分で管理しようと、母にアイロンの使い方などを教えてもらうことにした。

 そして笑顔。一番魅力のある表情は笑顔だと聞いた。

 私はどんな笑顔が魅力的なのか調べ、鏡の前で練習する。


 二日間の訓練の後、私は学園に登校した。

 皆に変わったって思ってもらえるだろうか……、と心臓の音がうるさいまま、私は校門に脚を踏み入れる。


 何となくではあるが、普段よりも視線が向けられているような気がする。挨拶をされれば、微笑んで手を上げると「ああ……」と言って倒れた子もいた。

 ……少しやりすぎただろうか?



 いつもよりも騒々しい登校を終え、クラスに入る。私は「やあ」と声を上げると、全員が目をまん丸にして呆然としていた。

 ……もしかして何かおかしかったか?


「ねぇちょっとぉ!? 光くん、今日やばくな〜い!? オーラ、キラッキラの三倍盛りじゃん!? てかマジ王子すぎなんだけど〜っ!」


 りおなさんの言葉に我に返ったクラスメイトたち。


「流石白の王子様、だね。本気出すと、本当にどこぞの王子様じゃないか……」

「めっちゃ気合い入っとーやん!」

「ああ、インスピレーションがあああー! ああ……! 神よ……! 私をこの場所に導いてくれた事感謝しまああああぁぁぁっす!」


 物凄い勢いで筆を走らせる通常運転の翡翠さんの様子に、ニコニコと笑っているみんな。

 私はこの反応で手応えを感じていた。



――――



 月曜日の朝。

 隣の席の光くんは、まだ来ない。


 ……珍しいな。いつもなら、雛乃の次に教室に着いているのに。


 もしかして風邪引いたかな? 体調崩しちゃったかな?

 最近暑かったり寒かったり……気温差が激しかったもん。


 私はぼーっと窓の外で揺れている木の葉を見つめていた。すると――。


「やあ、おはよう」


 あっ、光くんだ! 良かった、体調崩したわけじゃなかったんだ!

 そう喜んだ私が、彼の方へ顔を向けると……。


 そこに立っていたのは、王子様だった。

 まるで絵本から飛び出してきたような……。


「すごく……素敵……」


 私は無意識に呟いていた。幸い、私の言葉は誰にも聞こえなかったようだ。


 いつもと違う光くん、何が違うんだろう……あ、もしかして髪の毛整えたのかな? それにいつものふんわりとした笑顔じゃなくて、本当に爽やかな王子様のような笑顔になっている気がする。


 そんな時に聞こえたのがりおなちゃんの声。


「ねぇちょっとぉ!? 光くん、今日やばくな〜い!? オーラ、キラッキラの三倍盛りじゃん!? てかマジ王子すぎなんだけど〜っ!」


 そうか、いつもキラキラしているけど、今日は更にキラキラしてるんだ。


 今日の光くん、すごい格好良くて……すごく素敵。

 そんな光くんに見惚れてしまう私がいる。


 まるで、本当に王子様になったような光くん。

 私とは、違う世界の人みたいに思えて――少しだけ、怖かった。


 だからかな。そんな光くんとちょっと距離を感じるのは、私の気のせい……なのかな?


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