胸のモヤモヤは止まらなかった。
同じクラス代表として、この前少しだけ近づいたと思った距離。けれども、その距離が大分離れてしまったように、感じてしまう。
心に棘を抱えつつ、私は笑顔を貼り付ける。
みんなが私の想いに気が付かないことだけが幸いだった。
あまり集中できないまま、いつの間にか放課後になっていた。ああ、今日は紗夜さんや真くん、光くんと執事メイド喫茶の打ち合わせだ。
今日の内容は、誰がどの服を着るか、という話だったかな。
「雛乃はんはやっぱりメイドはんやろ? 絶対かわええでぇ〜! そう思わへん? 光はん?」
「ああ、私もそう思う。ただ雛乃さんは執事服を着ても素敵だと思うけどね」
「あ〜、確かにそれも意外性があってありやねぇ」
元々希望も聞いていたので、スラスラと決まっていったのだけれど、最後に私たちの服で悩んでいた。
「まあ、周囲が求めているのは……雛乃さんのメイド服、光さんと真の執事服ではないでしょうか? そこを反対にするのも一興だと思いますが――」
「そや、二人でメイド服着て驚かせるのはどうや?」
「遠慮しておく」
「なんや〜、光はん、ノリ悪いなー!」
真くんの言う通り、光くんは中性的な雰囲気だから、どっちを着ても絶対似合うと思う……たぶん、メイド服でも執事服でも似合っちゃうんじゃないかな。
結局私はメイド服、光くんたちは執事服を着ると話がまとまった。紗夜さんがいつものようにノートへ決定事項を書き込んでいると、真くんが光くんに話しかけてきたのだ。
「そいや光はん、今回めっちゃ張り切ってるやん? どうしたん?」
私は小さく肩がはねる。
「そうだね、今回は黒の王子に負けてられないと思ったからさ」
「おーおー。怖いこって」
私は光くんの顔を見ることができなくて俯いた。だからかもしれない……真くんと紗夜さんが、私に視線を向けた後、アイコンタクトをした事に気が付かなかったんだ。
紗夜さんがパタンとノートを閉じた後、「そういえば」と話を続けた。
「ねぇ、光さん。お願いがあるんだけど」
「ん? どうした?」
「真の勉強、見てやってくれないかしら?」
「な、なんやてぇ〜〜〜!」
真くんの叫び声が教室内に響いた。
「なんで……なんでや! 紗夜はん! わて……勉強嫌いなの知ってるやろ……」
「ええ。地頭は良いのだから、少しコツを掴めばすぐに点数取れるでしょうに……。たまには私以外に教えてもらうといいと思うわ」
「辛辣ぅ……」
バッサリと真くんを一蹴する紗夜さん。容赦ないなぁ……。でも、光くんに教えてもらうのはいいと思う。光くん、教え方がすごく上手なんだから!
「明日漢文の小テストなんです。けれど真は『漢字のドアホ〜!』って言って全く勉強しないので……」
「おーおー、紗夜はん、それわての真似? よー似とる――ブヘッ」
紗夜さんは手を掲げたまま、迫力のある笑みを浮かべた。
「光さんなら、黒の王子も真面目に勉強するかと思いまして」
真くんは頭を抱えながら言った。
「ジョーダンやて〜頑張るから叩かんといてほしいわ〜」
「光さん、お願いできるかしら?」
紗夜さんの頼みに、光くんは不思議そうな表情をしている。
「私も構わないが……」
「なら、光はん! 総合科のクラスにれっつごーや!」
……そのまま立ち上がって、光くんを引きずっていく真くん。
されるがままに引きずられていく光くんは、なんだか新鮮。
あんな姿を見られる真くんが羨ましいな……。