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第13話 学園祭当日

 翌日。

 普段の時間に私が教室へ入ると、既に雛乃ちゃんが机で本を読んでいた。今日の本は……漢詩の名作、と書かれている。昨日の真くんとは大違いだな……。


「おはよう」

「あ、光くん。おはよう!」


 私はおや? と思った。

 いつものように頬は赤らんで可愛らしいのだが、今日は何と言ったら良いのだろうか……何かが吹っ切れたのか、晴れやかな表情だ。

 昨日は何かを思い悩んでいる表情だったから、少し心配していたのだけれど……。


 きっと紗夜さんが雛乃ちゃんの話でも聞いてくれていたのだろう。


 私はその時、「嫌やぁ〜、嫌やぁ〜」と駄々をこねる真くんを椅子に座らせ、漢文を根気よく読ませていたはずだ。ちなみにその結果だが……。


「わて、漢文ができるようになってしもーたぁ〜! 嫌やぁ〜!」


 そう言わせる事に成功したのである。勿論、紗夜さんから感謝の言葉をいただいた。



 そして当日。


「やっば〜! 雛ちゃん、マジかわいすぎなんだけど〜☆」

「や〜ん、雛ちゃん、ほんっとかわいか〜♡ ずるいっちゃけん!」

「ありがとう……でも、二人も素敵だよ?」


 そこには顔を真っ赤にしてメイド服を着ている雛乃ちゃんがいた。


 ――ああ、可愛すぎて……直視ができない……。


 怪しまれない程度に自分の服を整えていると、三人の会話が耳に入ってくる。


「でも、りおなちゃんが執事服にしたのは意外だったよ?」


 そう、私も彼女はメイド服にするのかと思っていた。けれど、選んだのは執事服だったのだ。


「あたし、けっこードジじゃん? だからさ、スカートだとワンチャン見えそでヤバいな〜って思って〜!」

「そげなとね〜!」


 そうか、そういう視点で執事服を選んだのか、と目が点になる。確かに周囲を見れば、意外な人がメイド服……もしくは執事服を選んでいたりする。まあ、全てが予想通りだとつまらないし、これはこれで楽しいからアリだな、と私は思う。

 まあ、私は断固執事服ではあるが。


 執事メイド喫茶は順調そのものだ。

 特にりおなちゃんは女性からも男性からも人気で、気さくな接客と服のギャップにやられていたお客さんも多かったのではないかな。メイド服ではやはり雛ちゃんが一番注目されていたような気がする。彼女に触れようとする不届き者もいたが、私たちがそこは目を光らせたから問題ない。


 執事は……そうだね、意外と真くんが真面目に執事をしていたのが驚いたな。

 いつものテンションではなく、少しテンションを抑えたユーモアのある執事ってキャラ付けだったのだろう。特に在校生からは「普段とのギャップが良い」と言われていたから、売上には貢献していたんじゃないかな。


「笑い止まらんくらい儲かってんで!」


 一日目の終わりに満面の笑みで言った真くんに、少し引いたけど……まあ、私はいつものように接客していたから、そこまで貢献できたかは分からないな。



 そして二日目。

 いよいよ来た。黎明れいめい高校 ミス・ミスターコンが。


 既に結果は出ていて、ドレスもタキシードも作り終えているらしい、と麗奈さんが言っていた。そうだった、麗奈さんは今回の衣装作りで裁縫科と繋がりができていたんだったな。


 できる事は全力で取り組んだ。

 これで一位を逃しても、悔いは……いや、絶対残ると思う。


 ただ、やる事やったのだ。

 あとは神様に頼むしかない――。


 だから前日に近くの神社でお参りしてきたんだ。「縁結び」の神様だから、きっと雛乃ちゃんとの縁を結んでくれるはず。


「さて、光はん。勝負や!」


 そう真くんに言われて、僕は頷いた。


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