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第14話 本番

「さて、やってまいりました! 今年のミス・ミスターコン! 今年は誰がこの栄冠を掴むのでしょうか!」


 司会が会場に問い掛ければ、会場が一斉に騒々しくなった。

 昨年まではあまり気にしていなかったが、毎年一番の盛り上がりを見せるのがここだと渚くんが言っていたな。確かにものすごい盛り上がりを見せているような気がする。ここまで熱気が伝わるようだ。


 一年、二年とミス・ミスターの順位が発表されていく。紗夜さん曰く、ドレスとタキシードを着るのは三年生だけだという事だ。

 昨年までは無かった緊張を感じていた。


 隣では真くんが鼻歌を歌っていたし、向かい側の舞台袖では、雛乃ちゃんが小刻みに震えているような気がする。緊張しているのだろう。

 一年生と二年生の時は、トロフィーを貰って頭を下げるだけ。時間の関係上なのかもしれないけれど、毎年三年生だけは一位受賞者には言葉を求められるんだったかな。

 ミスは雛乃ちゃんでほぼ確定だろうが……彼女のことだ。「もし一位だったら……」と謙虚に考えているはずだ。


 どうやら私は雛乃ちゃんの事が心配すぎて、顔に出ていたらしい。


「光はん、どうしたん? もしかして……武者震いしてんのんちゃうん?」


 真くんに不思議そうに尋ねられてしまった。急に声をかけられた私は、思わず言葉に出してしまう。


「いや、雛乃ちゃんが心配で……あっ」


 無意識にちゃん付けしてしまった。真くんは目を丸くしてこちらを見ていたが、向こう側の雛乃ちゃんと私を交互に見て、ニマリと笑う。


「ははーん……お熱いこった。光はん――」

「さて! 本日のメインイベント! 三年生のミス・ミスター候補の登場です!」


 司会の言葉によって、真くんの言葉が遮られる。私は口を一文字に、雛乃ちゃんも口元をきゅっと結ぶ。

 そして後ろの真くんは、「頑張るわ〜」と他の人に手を振って歩き出した。



 登場したのはミス・ミスター候補ともに三人ずつ。

 候補自体はもっと多かったのだけれど、数日前に上位三名が発表されていた。それが今壇上にいる私たちだ。


 先程聞いた話によると、発表順はミス、ミスターの順。そしてどちらも三位を発表した後、頭に王冠が乗せられた方が一位、という発表の仕方を取ると聞いた。


「今年のミス・ミスターコンテストは皆様大、大、大注目ですよ〜! 二冠の『華の姫』、そして毎年同率一位の白黒の王子!」

「なんでまとめるねん!? 白と黒くらい、分けといてや!」


 真くんのツッコミで会場に笑いが上がる。

 こういうところが真くんの素晴らしいところだと思う。ニコニコと見ていたら、真くんが小声で訊ねてきた。


「光はん、やけに笑ろてるやん」

「いや、真くんが凄いな、と思ってね」

「え、光はんどうしたん? ここで褒めてくるとか、反則やろ〜」


 おちゃらけながらも照れている真くんも可愛らしいとは思う。けれど、一番可愛いのは――。


「さて! 黒の王子から笑いをいただいたところで! まずはミス三位の発表です!」


 3位は真ん中にいた子だ。満面の笑みでトロフィーを受け取った後、指示されていた椅子へと座った。

 その後ミスターの三位も発表され、真くんの後ろを歩いていた人が微笑みながら三位の席へと移動する。


 雛乃ちゃんは微笑んで前を向いているが、握っている手が小刻みに震えていた。きっと客席からは、彼女が緊張しているだなんて気がつかないだろう。雛乃ちゃんは常に平然とした表情で前に立っているので、実は私たち以外で雛乃ちゃんがあがり症だという事を知っている人はあまりいなかったりする。


「そして、一位と二位は同時発表です! 頭にティアラを乗せられた方が一位です!」


 会場が盛り上がっていく。

 普段は二位を発表して一位、という形をとっていたけれど、こちらの方が盛り上がるな。ティアラを持つ運営の方が、雛乃ちゃんともう一人の方の後ろに立った。


「さて、華の姫の三冠となるか! それとも下剋上が起きるか〜!」


 皆の期待が高まる中、運営の方が雛乃ちゃんともう一人の方の後ろを行き来する。そして太鼓の音がなり終わるのと同時に、ティアラが置かれたのは――。


「な……なんと! 三冠達成しました! 今年のミス黎明れいめいは……『華の姫』桐生 雛乃きりゅう ひなのさんに決定です!」


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