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03 関わりたくないのですが


「本当にありがとうございました…!失礼します」


ふわりと裾を持ち上げてリナリアはあっさりと立ち去って行った。

呆気ないにも程があるくらいにイベントは発展せず、学校案内は再開されたのだけど────


どうしてもっとグイグイいってくれないのヒロイン!!!


国の運命すらがかかっているので攻略するのならバッチリ完璧にして頂きたい。

普通そこは「何していらしたんですか~?」とか「校内はもう見て回りましたか~」とか言って学校案内に持ち込むでしょう!

なんでそこは淑やかなのよ!!図々しいくらいでいいじゃない!

一人脳内で叫び散らしてゼーゼー息を切らせていると、数歩先に歩いていた王子が振り返って来ないの?と首を傾げている。

ボディランゲージを会話の代わりとしてくれているのは分かっているし、有難いのだけどなんだか首を傾げる小動物といる気分になってきてしまう。

何故かしら、顔がいいからなの?


「…………つ、次の場所にご案内いたしますわ…」








▷▷



一通り校内を案内し終えると、最後に向かったのは憩いの場として様々な花が咲き誇る温室だった。

私も結構気に入っていて、あまり教えたくはなかったのだけど案内するだけはしないと気がすまなかった。

悪役令嬢の身ゆえ、なのか変な所に頑固な性格になってしまっているらしい。

別にその程度、咎められることもないのにね。


「最後に、ここが温室ですわ。この国の花はもちろん、国外から取り寄せたものもございますの。確か……ウィスタリア王国の物もあったかと」


確か国花のウィスタリアの花───前世で言う藤の花が。

美しい紫のカーテンが私達の目の前に現れると王子はほんの一瞬物憂げな顔を見せたがすぐに優しい顔で眺め始めた。

この花に何か悲しい思い出でもあるのだろうか、その時はまだそういう風にしか思わなかった。


「イナカ シルキ イウコハニク ボドケダ、イタイマシテ テステンナニ クハウ トンホ」


「…………?」


「ウロダン ルテッイ トコナン コデンナ……テンナ」


どこか寂しそうな声色なのは伝わってくるのだけれど、肝心の内容が全く伝わらない。

なんだろ、留学中のホームシック的なアレなのかしら?やっぱり王子でも国が恋しくなるのね。

そうぼんやり眺めていると草花のエリアからサクサクと草を踏みながらこちらに近付く足音が聞こえてきた。

温室によく来る生徒はあまりいなかった気がするのだけど今日は先客がいたらしい。


「おや、噂のウィリアム王子とイリス嬢ではありませんか。やはり噂は本当だったんですねぇ…」


「………………お戯れを、オルタンス様。」


声を聞いてまさかと振り返れば、関わりたくないキャラクターである攻略対象のハイド・ランジア・オルタンスだった。

彼は『七色の花姫』の攻略キャラの中で所謂いわゆるお色気キャラというか軟派キャラの位置付けで、常に周りに女の子とかがはべっているような状態の人だ。

普段の軟派な態度は猫を被っているようなもので、本当のハイドは紳士的でそして執着気質───つまるところヤンデレなのだ。

好きなもののためなら手を汚す事だって厭わないと言うくらいに盲目に愛してくれるところから、ヤンデレキャラながらも前世では人気があったキャラだった記憶がある。

取り巻きの女生徒たちが居ないあたりは撒いて逃げてきた足で人気のないこの温室に来て休んでいたのだろう。

なんというタイミングの悪さだろうか、よりにもよってハイドに会うとは。

オルタンス家は公爵家で私の家、アルクアン・シエル公爵家とは交流が多い。

その為に意図的に避けて関わろうとしなかった私をハイドは面白がって見かける度に声を掛けられるようになってしまったのだ。


あれ程攻略キャラとは関わるまいと思っていたのに……!!


まあもう今更ウィリアム王子と行動を共にしている時点で思いっきり関わってしまっているのだけど。


「相変わらず冷たいねぇ、僕と君の仲じゃないか」


「何のことだかサッパリですわね、私は貴方に対して昔からこうでしてよ」


「本当、僕と会話する気もないよね君。まあ、そこがまた面白いんだけどさ」


不敵な笑みを浮かべながらウィリアム王子を一瞥するとやれやれと呆れたように私にそう言った。

会話する気もない態度を取られて面白いとはなんなんでしょうかこの人は。

第一、会話が成立してないのに無理矢理会話を成立させるなんてどうしてこうも私の努力を無駄にしてくれるんだ……。


「申し訳ないけれど、殿下に校内をご案内して差し上げている最中ですのでこれにて失礼致しますわ」


無感情な表情のままドレスの裾を持ち上げるとそのまま王子に目配せをする。

このまま彼のペースに巻き込まれてたまりますか。


「参りましょう、ウィリアム殿下」


「その案内、僕もついて行くよ」


歩き始めようとした瞬間、ハイドに腕を捕まれて引き留められた。

正直なところもう終わるところなんで帰っていただきたい。

どう断ろうかと狼狽しているとこちらに向かってくる人影を見つけ、しめたと内心ガッツポーズをかました。


「結構ですわ、それに……オルタンス様にはどうやら先客の方々がこちらにいらっしゃっていてよ」


「え………………」


「「ハイドさまぁぁあああ!!見つけましたわ!!!」」


「げっ………………!!」


土煙が上がるほどの人数の女生徒たちが声を揃えて叫びながらこちらに走ってくる。

それを指させばハイドの綺麗な顔がみるみる引き攣っていく。

それにしても温室でというか仮にもご令嬢が走るなんてはしたないにも程がある。

そんな光景に隣にいるウィリアム王子も流石にドン引きなご様子ですね。

分かりますよ王子、ゲームで見てた時はそうでもなかったけれど実際見ると普通にドン引きだった。

だからこそ私はこのうちの一人とも思われたくないし、仲がいいとも思われたくないし、何より攻略キャラと仲良くなりたくない。


───ハイド・ランジア・オルタンスとはとにかく関わりたくないのだ!


女の子に無事捕まったハイドを見届けた私は王子を連れて更に温室の奥へ向かうのであった。




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