目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

04 俺様なんてお断りです!


温室に入って早々に攻略キャラに遭遇するとは思わなかったけど何とか乗り越えた私は王子を連れて温室の奥地に来ていた。

温室の奥地にはそれなりの身分がなければ入れないという暗黙の了解があり、元々入る生徒が少ない中、大方の生徒は更に入ってこない。

奥地という理由もあるけれど、この場所には滅多に見られないとされる花や季節によっては見られないものまで咲き誇る花園で、中に入るには生徒証をかざして記録をつけなければならない。

つまり、誰が入ったか分かるので花が盗まれたりなどすると身分の低い者達が真っ先に疑われるために入りたがらないのだ。


私はまず疑われないし、盗む理由もないので普通に入るけどね。


生徒証をカードキーのようなものに翳すと見様見真似で王子も翳す。

二人分の確認音が鳴ると扉が音を立てながら二人分のスペースを開けた。

なんでかここだけハイスペックな技術が使われているんだけど…多分これは科学の力と言うよりは魔術とか魔法の類みたいなのよね。


発案者は案外、私と同じ転生者なのかも……?でもそうだとしたら科学が主体になるか…。


なんて思いながら扉の中へ進めば一面の花、花、花だらけの空間へと変わる。

匂いの強い花もあるのか甘い香りが混じりあってくらりと目眩を起こしそうなくらいだ。

新手のアロマのようで私は嫌いではないけれど。


「ぅ…………」


「……!こういった場所は苦手でしたか…!?」


「んーん、ダイジョーブ」


「な、なら良いのですが…」


花園温室の外との違いに鼻を押さえた王子に慌てて聞くが笑って返されてしまった。


匂いの強いところは大丈夫か聞いておくんだった…!!

危うく不敬罪になってもおかしくない事だわ怖い怖い。


王子の心の広さに一先ず胸を撫で下ろすとこの場所を説明しようと一歩前に出た。


「ここは─────」


「誰かと思えば噂で持ち切りのイリス嬢じゃねぇか」


「……………………」


台詞の出鼻をくじかれた上に嫌な予感も相まって振り向くのも億劫だった。

この花園に来れる身分、そしてこのなんとも言えない高圧的な口調────私はこの特徴を知っている。


「あら……マグノリア様、ごきげんよう。」


ゆっくりと振り返ればやはり見覚えのある人物、攻略キャラの一人であるムーラン・マグノリアだ。

侯爵家の跡取り息子にして貴族向けの香水を作る有名な調香師で、チヤホヤされながら育ってきたためか典型的な俺様ドS気質。

香水を調香する時だけは熱心で俺様も引っ込む程仕事熱心なのだが、普段は顔がいいとはいえ高圧的と言ってもいいくらいの冷酷無慈悲な俺様暴君ぶりでファンは被虐気質な人が多い。

それはこの世界でも同じな様で取り巻きの女生徒たちはなんだか目も当てられないドMな淑女が多いというかそれしか居ない。


私は一応はムーランルートも攻略はしたのだけど正直なところ苦手な人でした。


恐らく調香の為のインスピレーション探しといった所だろう。

なんとタイミングの悪い……。


「殿下、こちら同じクラスのムーラン・マグノリア様です。貴族間で人気の高い香水を作っていらっしゃる方ですわ」


「ムーラン・マグノリアだ」


「よろしくネ」


何故王子にハイドの紹介はせずムーランの紹介をしたのかと言うと一言で言えば後が面倒だからだ。

プライドが高いムーランにぞんざいな扱いをすればもれなく彼の取り巻きの方々からの報復があるやもしれない。

もちろんそんな事をすれば彼女達の立場が悪くなるのは明白だしそんな可哀想なことはしたくないのでここで私が我慢をします。


「調香の何かいいインスピレーションは無いかとここに来たが…まさかお前に会うとはな。入室履歴を見ても俺を避けるようにしてるからてっきり俺を避けているかと思ったぜ」


───遭遇早々よくお話する俺様さんですね…ええそうですとも、彼がここによく来ることは知っているので避けて入っていましたよ。


「気の所為ではありませんこと?私がわざわざ貴方を避けて入室しなくてはならない道理がございませんわ」


たまたま、と言うやつですわ。とあくまで私はシラを切ります。

さっさと会話を終了させてしまいたいのです。


「…ふん、そういう事にしておいてやるよ。インスピレーションも湧いたことだしな」


にやりと自信に満ちた笑み、というか最早ドヤ顔のムーランは私の前で立ち止まると私の髪を掬って口元へ持っていく。

軽く私の匂いを嗅ぐような仕草と共に髪にキスが落とされた。


はぁ???何してくれてんですかこの人???


「次の調香はこの香りに決めた」


「は………………??」


「モクセイの花を使う。お前の匂いだとでも言うと思ったのか?恥ずかしいヤツだな」


「はい…?」


確かにその手にある私の髪にはモクセイの、金木犀の花がいくつか絡まっていたようだ。

しかしまあ勝手に言われていい気分ではないな、私がヒロインに転生しても実際にムーランルートを体験したいとは思わない。


────ゆめ思わない!!!!



「良きイメージが湧いてよかったですわね、なんの事やらサッパリですが」


「…………お前に次の香水、絶対に買わせてやる。覚悟しておけ」


「はあ、私は香水を好んで使わないのであまりご期待はされませんようお願いしますわ」


ぐぬぬという感じが合いそうな表情のまま、ムーランは花園をようやく立ち去って行った。

なんだか悪役令嬢がやりそうな立ち去り方だったなぁ……

見た目こそ性格が無ければ好みの見た目ではあるのにどうして俺様ドSキャラなのか……普通そこは王道で王子キャラが俺様じゃないの……?


私はとにかく俺様はお断りですけれど!!



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?