パートナー争奪戦から数日が経ち、ローズ祭当日を迎えていた。
下町や教会の祭りは明るいうちからやるのだが、我々貴族が参加するパーティーは夜会の為、夜に行われる。
なので特別な理由がない限りは昼間の学園での授業はもちろんの事ながらある。
基本的には学園寮から王城のパーティーへ向かう人が多くで、家には戻らないのが一般的だ。
中には家が近く、家に帰って支度する人ももちろん居るけれど利便性を取って多くの人は帰らない。
そんな中、私はその少数派のスケジュールの人間である。
授業が終わり次第、家へとんぼ返りして支度をして家族全員で王城へ向かう予定だ。
何せ元々悪役令嬢になるほど甘やかされて育ってきた家だ、パーティーの前には必ず私のドレス決めのファッションショーが外せない行事と化している。
それも、パーティーの時間に間に合うように高速で脱いだり着たりの繰り返しで私は着せ替え人形の様になるのだ。
一つ下の弟は悠々自適に支度を終えるのに私だけ何故か長いったらない。
──そういえば、忘れていたことがひとつあった…。
私の弟であるグラジオラス・アルクアン・シエルは私とは一つしか歳が離れていないにも関わらず、成長期が遅かったのか童顔で身長も男の子にしては小さい。
名前や私とは真反対の赤い髪の雄々しさの割に所謂合法ショタなイメージを持つ。
しかも重度のシスコンを拗らせており、私が家に帰るなり「姉さん姉さん」とベッタリついてまわるので正直物凄く疲れるのだ。
姉の為なら何だってすると言ってのけるそれは最早ヤンデレの領域に近い。
あれ……?ハイドと同じ匂いが……??
しかしまあ不思議なのが私に関すること以外は非常に無関心なところだ。
もちろん私に関わる事となると暴走するものの、私が強く止めればきちんと聞いてはくれるのでまだ聞き分けがいい。
その後どう行動するかはまた別の話な訳だけれど…。
なんだか考えただけで気が滅入りそうだわ…
弟はまだ学園には入学していない、寮制のおかげで今はグラジオと物理的に距離があるから良いものの、離れている分会った時の反動が物凄いのだ。
なんて、そんな事を馬車の中で思い出すものだから帰る前から疲れてしまった。
「グラジオ……もう少しどうにかならないかしらね…?」
「それはもはや不可能で御座います、お嬢様。むしろ学園でのファンクラブを知られたらその方々がどうなるか……」
「冗談にならなそうだからやめてナズナ……」
ファンクラブの頂点に殴り込みに行った挙句に、乗っ取って都合のいい小間使いを作りそうで恐ろしい。
もうなんと言うか『ファンクラブ』から『王国』くらいまで進展しそうだからグラジオにこの話をするのは切実にやめて頂きたい。
誰もこの存在を漏らさないで欲しい真面目に……
そうこうしているうちに馬車は我が家である屋敷に着いてしまったようで、緩やかにスピードを落として止まった。
程なくして御者が扉を開けに来たその瞬間、何かが扉を通ってこちらに突進してきた。
「うぐっ……」
「おかえり!待ってたよ姉さんっ!!!」
「グラジオラス様、もう少々お優しくして頂けませんとイリス様がお怪我を召されます…!」
私の呻き声を聞いて慌てたようにナズナはそう言った。
代弁ありがとう……流石に身長低めと言っても男子が突進してくれば痛いのには変わりがない。
「もぉ……グラジオ、飛びつくのはやめてとあれだけ言ったでしょ……」
「もうずーっと姉さんに会ってなかったからついつい……ごめんね?」
グラジオは抱き着いたままの状態で顔だけを上げると上目遣いであざとくそう言った。
くっ…顔だけは無駄に良いから破壊力がっ……!
見た目も相まって歳の離れた弟の気分になってしまうけれどもう一度言っておこう、歳の差は一つしか違わない。
「うっ……ひ、久しぶりね…」
「ふふ、だから姉さんの事大好きなんだぁ…なんだかんだ言っても僕には優しいんだから」
お、弟が可愛いからってそんな事……ないんですからね!?!?