「うんうん、どれ着てもやっぱり姉さんには似合うよね!流石はボクの姉さん!」
何故だか今回の衣装決めにはグラジオの姿があった。
どこの風の噂で聞いたのか私の相手がハイドだと知るなりこの調子なのだ。
だからと言って野暮ったいドレスを選ばない辺りはまだ良心的なものである。
あー…これはパーティーもベッタリ付いてきそうな気配がするなぁ……
ヒロインの魅力には皆適わないから大丈夫なのに本当に用心深い弟だ。
どうせハイドもヒロインに目がいって私の事など霞んでしまうだろうし、私も私で取り敢えず相手が居ればいいやくらいで居るので特に衣装にこだわりはない。
……まあ、ハイドがよそ見をしていた暁にはグラジオがどう出るかわかったものでは無いのだけれど。
「…………ねえ……どうしてハイドさんなの…」
「え……?」
「ローズ祭のパートナーだよ。なんだって噂の良くない彼にしなくても……ボクは家族だから組めないけど他にもっといたでしょ?」
ふとグラジオが顔を伏せたと思ったら低く落ち込んだ声でそう言った。
私を想っての言葉だということは分かっている、だけど私はその言葉に憤りを覚えた。
そりゃあ誰と組んだってそれが攻略キャラである以上は不本意な事に変わりはないし、出来れば穏便に他の人とかで済ませたい気持ちはある。
けれど人の事を噂や世間体だけで私のマイナスになると言われる事はおかしい。
「…それ……本気で言っているの?」
「え………ね、姉さん……?」
「確かに決め方は遊びの様なものだったかもしれないわ。だけど、一歩も引かずに一日もかけて真剣に勝負した人間を噂や外聞だけで悪く言うのはお門違いよ」
「ち、ちが……そんなつもりじゃ……!」
滅多にグラジオに怒らない私が彼にそう冷たく言ったことで酷く動揺した彼は、今にも泣き出しそうな顔で私に縋った。
分かっている、頭では解っている。
貴族社会は世間体だって大切だ、グラジオの言う事も間違えではない。
けれど私の心は何故か強くそれはおかしいと言ってきかない。
「ええ、分かっているわ。私の事を想ってそう言ったのでしょう?でもね、家族を縛り付けるほどの嫉妬や執着は……醜いわ」
「……っ!!」
ああ、そんな顔させたい訳じゃないのに。
でもどうしてもそれは、それだけは怒らなければならないの。
もう私は後悔したくない────
……あれ?でもどうしてこんな事を思うのだろう。
だって私は
「……っふぇ……」
「え、」
「…………おねがい……ボクを……僕を嫌いにならないで……」
「……っ!!」
『…………が悪いんだよ………こんな、…………!なったのは……!』
「っ、ご、ごめんなさい……言い過ぎよね…」
刺すような頭の痛みと共に聞こえたあどけなさを残す青年の声が何か言った気がした。
しかし、直ぐに現実に引き戻されて視界には震える弟の姿があった。
泣かせたい訳じゃなかった
そう、確かにそうなのだ。
震えるその体をぎゅうと抱き締めると驚いた様に一瞬固まったが、やがて安らいだのか震えも止まり恐る恐る抱き締め返してきた。
「ボクの事……嫌いになった……?」
「ううん、嫌いになんてならないわ。大切な弟だもの」
未だ不安そうな眼差しのグラジオは顔を上げると上目遣い気味にそう言った。
……うん、こういう時の破壊力は最早才能ね。
これ以上怯えさせない為に優しく笑いかければグラジオも嬉しそうに笑顔を返してくれる。
「……!うん…、そうだよね!ボクも姉さんの事世界の何より大切だよ!!だからパーティーも出来るだけ一緒にいようね!!」
おっと……??うん…まではしおらしい態度だったグラジオは物凄い切り替えで明るくそう言ったのだけどこれはまさか……まさか!!
「さ……、策略……!?」
「ん?なーんのこと?」
──これは一本してやられたようです……