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第3話 ここはどこ?え、え?

 ――石の匂いがした。土埃と、どこか冷たい湿気。


「……う、あ……」


 薄く目を開けると、視界に飛び込んできたのは、煉瓦造りの天井。和室の天井板でもなく、見慣れた白いクロスでもない。赤茶けた石が、ずっしりと頭上を覆っている。


「……ここ、どこだ……?」


 身体を起こす。瓦礫はあちこちに散らばっていたが、不思議なことに体に痛みはない。擦り傷ひとつない。服も破れていない。奇跡的に――いや、あり得ないほどに無傷だった。


(……俺、生きてる?)


 不安に駆られてポケットを探ると、スマホがあった。電源を入れる。画面は点き、バッテリーも残っている。さらに、ライブ配信アプリは……まだ繋がっていた。


「マジかよ……」


 画面には、コメントが流れていた。


《noname:生きてる? マジで大丈夫?》


《ミミコ:え!? なんでこんな場所に……! どこココ!?》


 ほかにも、知らない名前が数人、閲覧中になっている。数は6人。過去最多だ。


 カメラに自分の顔を映してみる。額にちょっと煤がついているだけで、血の気も通っている。コメントがすぐ反応する。


《ミミコ:良かった……でも、背景が……!》


《noname:そこどこだよ……》


 悠人は、ようやく状況を見回す。崩れかけたレンガの壁、土の床、天井からぶら下がるランタンのような灯り。どこかの地下遺跡、いや、もっとファンタジーな……。


「ここって……」


 声が震える。


「まさか、ダンジョン……? てか、俺……異世界転生?」


 喉がカラカラになった。思わず、口に手を当てる。


「いや……死んだのか? 家に突っ込んだトラックに轢かれて、あのまま……?」


 頭を抱えそうになったところで、スマホの画面がまた反応した。


《ミミコ:ダンジョン……!? ていうか、めっちゃそれっぽいです!》


《noname:いや、でも死んだわけじゃなさそうだろ? 配信できてるし、息してるし》


 混乱していた頭が、ふと冷静になっていく。確かに、自分は生きている。スマホも、指も、意識もある。


(……じゃあ、これは夢か? 幻覚? それとも……本当に)


《ミミコ:タグつけたら? #ダンジョン #冒険配信 #異世界?》


《noname:ってか今の状況、まんま“ダンジョンジャンル”そのものじゃね?》


「……は? いやいや、そんな……」


 だが、視聴者のコメントを見ながら、ふと気づく。確かに、今の状況はさっき見ていた“ダンジョン配信者”の画面と酷似している。


 壁の質感、照明の色、空気の湿り気……作り物とは思えない“リアルさ”がある。


(……じゃあ俺、マジであのジャンルに……?)


 でも、だからといって何をすればいい?


 出口は? ゴールは? 敵とか、いるのか?


「いや、ちょっと待て……何すればいいんだ、これ……?」


 そう口にしたとき、どこか遠くで「ギィ……ギィ……」という鉄の扉が軋む音が響いた。


 悠人は息をのんだ。


 そして、再びスマホを構え、言った。


「と、とりあえず、探索……してみるか?」

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