ただ、進むしかなかった。
右も左も、ここがどこかもわからない。天井は低く、壁はゴツゴツとした石で、ところどころ苔のようなものが張り付いている。床はまだ平坦なほうで、足元に注意すれば歩けないことはない。
気づけば、視聴者数は「18」になっていた。
《トコナツ:誰か他にもここ来た人いるの?》
《タピオカン:え、これダンジョンってマジ?》
《オソナエ:なんかお化け屋敷っぽくてスリルある!》
《ミミコ:🎃🎮✨💀📱🕸️🕯️←雰囲気出し隊》
《あおいろ:配信者さん、無事? なんか怖くなってきた……》
悠人はもはや混乱と緊張の中で、息を飲むばかりだった。配信を続けているだけで精一杯。言葉が自然と少なくなっていった。
《noname:はい、解説入ります》
《noname:現在の配信者はどうやら“ダンジョン”ジャンルに分類される空間を探索中。天井の構造、湿気の高さ、石壁の組成などから、異世界というよりは“現実に作られた異空間”の可能性が高いです》
《noname:また、落ちていた配信アイテムから、誰かが準備していた可能性もあります。が、意図は不明》
その冷静な分析がウケた。
《タピオカン:nonameさんの実況助かるw》
《トコナツ:考察班きた》
《ミミコ:📣📝✨←考察応援アイテム!》
《ZANZO99:ってか、今の配信めっちゃおもろいやん》
アイテムが飛び交い、画面には小さなエフェクトが花火のように弾けた。賑やかなコメントに、悠人は思わず足を止めた。
(……なんだこれ。配信ポイント、すげえ溜まってる……)
画面の右上。見慣れたアプリのUIが、桁違いの数値を表示している。フォロワーが増えている。ランキングの順位も、少しずつだが浮上してきている。
「……すごい……俺、こんなの……初めてだ」
スマホのカメラ越しにぽつりと呟いた。
「ありがとう、みんな」
その瞬間だった。
ぬるっ、と足元が冷たくなった。
「え……?」
視線を落とすと、そこには粘液のようなものがじわじわと広がっていた。緑がかった透明の塊が、ゆっくりと――けれど確実に悠人の足元を這い上がってくる。
ジリジリ……何か音がする。
「……スライム!?」
コメント欄が爆発する。
《ミミコ:キタァァァァァ!!!》
《トコナツ:まじスライムやん!》
《noname:敵性反応確認。スライム種、接触型か!?》
《ZANZO99:はよ逃げろってw》