《アキサン: 応急処置をしたいけど……手が出せないのが歯痒い。冷やせればマシなんだけど》
彼女は医療従事者らしい。
「あるわけねえだろ……」
悠人は苦笑する。周囲には冷却剤なんて気の利いたものはない。落ちていた葉も、ただの葉。傷はズボンごと焼けた右太ももに、じんじんと熱を帯びたままだ。
《チロル:がんばれ~!スタンプアイテム氷!🍧》
《ミミコ:アイテムしか贈る術がないなんて》
画面が一瞬揺れる。スマホのカメラが倒れた拍子に、傷口の赤みが一瞬映ってしまったようだ。
痛々しさに視聴者数人抜けていった。
《no name:カメラは顔だけに。出血や火傷の生々しい映像は配信規約違反のリスクがある》
「マジか……」
BANだけは避けたい。もしBANしてしまったらもう助かる見込みはないからだ。
こうして視聴者と会話する、それが救いであって今まで配信しても誰とも会話できず心が苦しかった。
でも今は違う。
悠人はうめきながら、自撮り棒の角度を調整する。痛む足を抱えながら、顔だけが映るように構える。
「……醜いな」
自分を写した姿を見て思わず漏れた言葉に、コメント欄が一瞬止まりかける。
《ケロッピ:そんなことないよ!》
悠人はふと、昔のことを思い出す。子どもの頃、すぐ泣いては親に怒られた。「男のくせに情けない」「そんなにすぐ助けてって言うな」。
それがずっと、胸に刺さっていた。
「……助けてって言うの、悪くないのかな」
ぽつりと、言葉が漏れる。視聴者たちのコメントが一気に流れ出す。
《ナナコ:弱音吐いてもいいの!助けてって言っていいの!》
《ミミコ:それ、わたしも思ってた……》
《トコナツ:全然悪くない!》
《チロル:よしよし、がんばってるよ🥲✨》
《no name:今言えるのは、それがあなたの強さです》
《ミミコ:泣いていいよ!わたし、見てるから!》
「……ありがとう」
悠人は、少しだけ笑った。
《ナナコ:笑顔も素敵よ。》
《ミミコ:ナナコちゃんー惚れた? わたしもー》
と視聴者同士で意見が交わされて照れ臭くなる悠人。
その時――
ゴンッ……ゴンッ……
遠くから重たい音が響く。まるで、鉄を引きずるような鈍い足音。そして、声。
「……誰や? 誰かおるんやろ?」
壁の向こうから、低く響いたその声に、悠人はビクリと肩を震わせた。カメラが揺れる。視聴者たちもざわめき出す。
《ミミコ:人……!?》
《ケロッピ:うそ!?》
《no name:警戒しろ。敵かもしれない》
悠人はカメラを持ち上げる。
画面に現れたのは――金髪に近い茶髪、作業着姿の男。
「怪我しとるやないか! スマホ見てる場合やないやろ! ん?」
男はスマホを覗き込む。画面を見た彼は
「おまえ、配信者か?」
少し驚いたような顔で、悠人を見下ろしていた。
悠人は頷いた。