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第8話 救世主?

悠人は、自撮り棒越しにその男の顔を映す。少し焼けた肌に、明るめの茶髪。整った顔立ちだ。


《ミミコ:え、ちょっとイケメンじゃない……?》

《ケロッピ:なんか頼れそう!》

《トコナツ:誰?あなたは誰なの?》


「え、ああ……俺? ……獅子島夏弦(ししじま・かいと)っていう。あ、あだ名でいいよ、もうフルネーム出しちゃったけど」


《ミミコ:カイトさん!?かっこいい!》

《no name:コードネーム“カイト”でいい。呼びやすさ重視》

《チロル:カイトくん……!》


「……カイト、でいいよ。あんまり堅いの、苦手なんだ」


視聴者が盛り上がるのを見て、悠人は少しだけムッとした。


「おい、寝返るなよ。俺、主人公だからな?」


そう言いながらも、足の痛みがぶり返し、顔をしかめる。

その様子に、カイトが真顔になった。


「……それ、火傷やろ? そっちが先や。配信とかええから」


そう言ってカイトはポケットを探りながら、小さな瓶を取り出した。


「さっき階段の途中で拾ったんよ。変なマークのラベルが貼ってあるけど……なんか薬っぽい」


《no name:他のダンジョン配信者の映像で見たことある。たぶん治療アイテム》

《アキサン:ガーゼがないなら布で。清潔なものがあれば……》

《ミミコ:持ってるハンカチで代用できるかも!》


悠人はリュックからくしゃっとなったハンカチを取り出す。清潔とは言い難いが、今は仕方ない。カイトが瓶の中身をそこに少し染み込ませ、そっと火傷に押し当てた。


「ッ……!!」


染みた。痛みが脳まで突き抜ける。思わず歯を食いしばる悠人。だが――


じわり、と温かさが広がり、皮膚が癒える感覚がした。痛みが、確実に引いていく。


《ナナコ:えっ、治ってる!?》

《ミミコ:回復アイテム発動!?》

《チロル:ヒーラーきたー!!救世主!!》


ズボンは焼け焦げたままだが、皮膚はもう赤くも腫れてもいなかった。火傷の跡がすうっと消えていくのが、自撮り棒越しにも見える。


「……嘘だろ……マジで治った……」


「よかった……って、うわ、映してたんか!?」

カイトが驚いて言うと、悠人は無言でカメラを向け、自撮りツーショットに切り替える。


《ミミコ:あっ、ツーショきた!》

《ケロッピ:カイトくんのほうがイケメン……》

《ナナコ:あれ、悠人くん……眼鏡はずしたら?》


「……ちっ。メガネ、外したほうがええかな……」


ぽそりとつぶやいて外してみる。


《ミミコ:ギャー!メガネなし悠人、超アリ!!》

《ナナコ:こっちのが好きかも!》

《トコナツ:イメチェン成功!!》


(……なんだよ……悪くないじゃん)


悠人は、ちょっとだけ自信を取り戻す。






「でさ、あんた、どうしてここに?」


カイトは少し黙って、壁にもたれた。


「……仕事で、上司とトラック乗ってて。俺、助手席で寝てたんよ。で、でかい音で目が覚めたらー家に突っ込んでた」


「……は?」


「で、気づいたらここや。異世界……ってやつ?」


「……おまえ……俺の家に突っ込んできたやつじゃないよな……?」


視聴者コメントがざわつく。


《no name:事実なら、二人は同じ事故に巻き込まれた可能性、ニュース調べる?》

《ミミコ:てことは……一緒に“死んだ”……?》

《no name:ニュースになってないなぁ》

「多分田舎だから……」

と悠人は言う。


《トコナツ:じゃあ、カイトの上司は……?》


カイトは首を横に振った。


「探した。でも、見つからなかった。たぶん……ここにいない」


「けど、死んでるなら、この世界のどこかにいるかもしれない」


「死んでるとか言うな! ……て、俺は死んでるんか?」


目を伏せたカイトの声には、後悔の色がにじんでいた。


「その人、兄貴みたいな存在でさ。俺、どうしても助けたいんよ」


悠人は言葉を詰まらせた。誰かを助けたい――その思いに、共鳴していた。


「俺もさ、実は配信者なんやけど、全然伸びなくて放置してた。だから、配信の勝手はわかる。もしよかったら組もう。俺と」


「は?」


「コンビ組もうって。配信も、ダンジョン攻略も。――生き延びるために。もしかしたら生死を彷徨っているかもしれん! 俺ら」


視聴者たちのコメントが一斉に流れ出す。


《ミミコ:バディ展開きた!?》

《ナナコ:少年漫画じゃん!熱い!》

《no name:合理的判断。協力こそ生存への鍵》

《チロル:うんうん!チーム結成だ~!✨》


悠人は、ほんの一瞬、迷った。

今まで、誰かと組むなんて思いもしなかった。ずっと一人だった。でも――


「……死を彷徨っているかも、だけどな。俺ら」


「それでも、希望があるなら進もうや。な?」


カイトが手を差し出す。


悠人は、迷いながらもその手を握った。


「よし、じゃあ最初のミッションだ」


「なんだよ」


「俺の上司、探す。次に、ここから脱出する」


「……おい、二つ目のが無理ゲーすぎるぞ」


「やるしかないやろ? 配信者なんやから」


カメラの先で、二人の冒険が、始まろうとしていた。


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