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銀白の大理石が敷き詰められた大円形ホール。その天蓋からは、恒星を模した人工光が降り注ぎ、青白い光柱が演壇を包んでいた。幾千の視線が一斉にその中心へと集まる。そこに立つのは、白金の長髪を背に流し、漆黒の礼装を身に纏った女性。リフリア・エルヴェ。その声は、静かに、しかし確かな意志を秘めて会場に響き渡った。
「――『我思う、ゆえに我あり』。十七世紀の哲学者ルネ・デカルトの言葉です。思考すること。それは存在の最も根源的な証明とされてきました」
一呼吸。彼女は視線を遠くに投げるように、語り続ける。
「ですが……果たして、思考することだけで
薄明のなか、群衆は静まり返る。
「ニーチェはこう述べました。『人間とは、乗り越えられるべき存在である』と。私たちがこの場所――
演壇背後のスクリーンに、地球の荒廃した映像が浮かび上がる。焦土、黒煙、沈黙。
「地球は、すでに答えを失った惑星です。争いと搾取の果てに、自らの存在理由を喪失した。私たちはただ生き延びるためにここに来たのではありません。人間という概念そのものを、再び問い直すためにここに来たのです」
今度は、セカンドアースの軌道図。均整のとれた都市構造、循環するエネルギー、静謐な空。
「人間とは何か。存在とは何か。私は誰か。この問いを抱き続ける限り、人は死なない。だが、問いを忘れたとき、我々は機械と変わらなくなる」
リフリアは手を広げた。彼女の声が、より鮮烈に響く。
「ここにいる皆さん一人ひとりが、問いを持つ存在です。与えられた役割をただこなすのではなく、疑い、葛藤し、決断する――それこそが、人間である証なのです」
そして、視線を真っ直ぐに客席へと戻す。
「ようこそ、セカンドアースへ。ここは、あなたの存在を試される場所。生まれ直すのは、肉体ではなく
存在せよ。迷いのなかで、なお在り続けよ」
その最後の言葉は、沈黙を裂くように響いた。そして一拍の静寂ののち――大きな拍手と歓声が、波のようにホールを揺らした。