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第21話 二十六歳まで生きられない


離婚しないって?!


佳夢は彼の深い瞳を見つめながら、思わずシーツを握りしめた。


また新しい方法で私を苦しめるつもりなのか……。


彼女は疲れ果て、傷つききって、ただ早く彼のもとを離れて解放されたかった。


顎に鋭い痛みが走った。理が掴んだのだ。

「佳夢、お前が望めば望むほど、俺はそれを許さない。わかったか?」


「離婚を言い出したのは――」


「撤回だ」理は表情ひとつ変えずに言った。

「お前を古川家の奥様の座に据えながら、その権利の一片も与えないままにしておく」


急所を突くのが一番効く。心を砕くのが何より苦しい。


佳夢の麻痺していた心が、再び激しく痙攣した。


「俺のことを愛してるんだろ?」彼は嘲笑を浮かべた口元を歪ませた。

「ならば叶わぬ愛に苦しみながら、俺が雨澄をどれほど大切にするか見せてやる」


「雲音は雨澄じゃない!彼女はただの代わりに過ぎない!」


理は全く意に介さなかった。

「代わりだろうが構わん。彼女をそばに置き続けて……お前を苛立ちさせ、俺が彼女をどれほど優遇するかをこの目で見せてやる」


佳夢は彼の瞳の奥に潜む残酷さを捉えた。


「私を放っておく気はないのね……」彼女の声は渇いていた。

「こんな方法で私を辱めたいだけなの」


「当然の報いだ。俺と離婚して、立川の元へ行くつもりか?」

彼の指が力を増し、爪が彼女の頬に赤い痕を刻んだ。

「君のような下賤な女、奴が受け入れると思うのか?」


佳夢の目尻が真っ赤になった。彼の言葉はまたしても彼女を深く傷つけた。


下賤……。


かつては彼が、優しく「お姫様」と呼んでいたのに。


心の苦しみは、肉体の苦痛よりもはるかに深く刻まれる。


唇を噛みしめ、佳夢は言い返した。

「雲音代わりだろう?なら彼女も下賤な女じゃないの」


理の目に怒りの色が走り、手が高く掲げられた――ビンタが今にも落ちようとしている!


佳夢は目を閉じた。


しかし、その一撃はいつまで経っても落ちてこなかった。


「おばあちゃま!」


古川老夫人が着物を着て、白髪交じりの頭を輪椅に乗せ、執事に押されて病室へ入ってくるのが見えた。


呼びかけを聞いて、古川老夫人は嬉しさのあまりたまらなかった。

「いい子だね、今おばあちゃんって呼んでくれた?」


「おばあちゃま、おばあちゃま」啓人は彼女のもとへ歩み寄り、手を握った。


「あらまあ、理、佳夢、聞いた?啓人が呼んでくれたのよ!」

古川老夫人は目尻をぬぐった。

「この日をどれほど待ったか……」


足が不自由でなければ、啓人をぎゅっと抱きしめたかったに違いない。


老夫人は古川啓人の頭を慈しむように撫でながら尋ねた。

「啓人の病気の具合はどうなの?」


佳夢が答えようとした時、理が先に口を開いた。

「最高の医師が治療にあたっています」


「そう」古川老夫人は満足げにうなずき、続けて尋ねた。

「さっき入ってきた時、手を上げて何かしようとしてたけど?」


理の手が佳夢の腰に滑り込み、ぐいと自分の懐へ引き寄せた。


佳夢は完全に呆然とした。


いつ以来だろうか……理が自ら彼女を抱きしめるなんて。


彼の腕は相変わらず温かく、広くて、心地よい微かな香りが漂っていた。


「佳夢がさっき目を覚まして、痛いって泣いてたんだ」理は瞬きもせずに嘘をついた。

「だからなだめてたところだよ」


「そうね、彼女も啓人を産んでから体調が以前ほどじゃなくなったわ。女が出産するのは死の淵をさまようようなもの、もっと大切にしてあげなきゃね」


世事にあまり関わらない古川老夫人でさえ、佳夢が出産後に体を壊したことを知っていた。


しかし理は一度も気にかけたことがなかった。


誰も知らない。彼女があと数年、二十六歳まで生きられないことを。




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