離婚しないって?!
佳夢は彼の深い瞳を見つめながら、思わずシーツを握りしめた。
また新しい方法で私を苦しめるつもりなのか……。
彼女は疲れ果て、傷つききって、ただ早く彼のもとを離れて解放されたかった。
顎に鋭い痛みが走った。理が掴んだのだ。
「佳夢、お前が望めば望むほど、俺はそれを許さない。わかったか?」
「離婚を言い出したのは――」
「撤回だ」理は表情ひとつ変えずに言った。
「お前を古川家の奥様の座に据えながら、その権利の一片も与えないままにしておく」
急所を突くのが一番効く。心を砕くのが何より苦しい。
佳夢の麻痺していた心が、再び激しく痙攣した。
「俺のことを愛してるんだろ?」彼は嘲笑を浮かべた口元を歪ませた。
「ならば叶わぬ愛に苦しみながら、俺が雨澄をどれほど大切にするか見せてやる」
「雲音は雨澄じゃない!彼女はただの代わりに過ぎない!」
理は全く意に介さなかった。
「代わりだろうが構わん。彼女をそばに置き続けて……お前を苛立ちさせ、俺が彼女をどれほど優遇するかをこの目で見せてやる」
佳夢は彼の瞳の奥に潜む残酷さを捉えた。
「私を放っておく気はないのね……」彼女の声は渇いていた。
「こんな方法で私を辱めたいだけなの」
「当然の報いだ。俺と離婚して、立川の元へ行くつもりか?」
彼の指が力を増し、爪が彼女の頬に赤い痕を刻んだ。
「君のような下賤な女、奴が受け入れると思うのか?」
佳夢の目尻が真っ赤になった。彼の言葉はまたしても彼女を深く傷つけた。
下賤……。
かつては彼が、優しく「お姫様」と呼んでいたのに。
心の苦しみは、肉体の苦痛よりもはるかに深く刻まれる。
唇を噛みしめ、佳夢は言い返した。
「雲音代わりだろう?なら彼女も下賤な女じゃないの」
理の目に怒りの色が走り、手が高く掲げられた――ビンタが今にも落ちようとしている!
佳夢は目を閉じた。
しかし、その一撃はいつまで経っても落ちてこなかった。
「おばあちゃま!」
古川老夫人が着物を着て、白髪交じりの頭を輪椅に乗せ、執事に押されて病室へ入ってくるのが見えた。
呼びかけを聞いて、古川老夫人は嬉しさのあまりたまらなかった。
「いい子だね、今おばあちゃんって呼んでくれた?」
「おばあちゃま、おばあちゃま」啓人は彼女のもとへ歩み寄り、手を握った。
「あらまあ、理、佳夢、聞いた?啓人が呼んでくれたのよ!」
古川老夫人は目尻をぬぐった。
「この日をどれほど待ったか……」
足が不自由でなければ、啓人をぎゅっと抱きしめたかったに違いない。
老夫人は古川啓人の頭を慈しむように撫でながら尋ねた。
「啓人の病気の具合はどうなの?」
佳夢が答えようとした時、理が先に口を開いた。
「最高の医師が治療にあたっています」
「そう」古川老夫人は満足げにうなずき、続けて尋ねた。
「さっき入ってきた時、手を上げて何かしようとしてたけど?」
理の手が佳夢の腰に滑り込み、ぐいと自分の懐へ引き寄せた。
佳夢は完全に呆然とした。
いつ以来だろうか……理が自ら彼女を抱きしめるなんて。
彼の腕は相変わらず温かく、広くて、心地よい微かな香りが漂っていた。
「佳夢がさっき目を覚まして、痛いって泣いてたんだ」理は瞬きもせずに嘘をついた。
「だからなだめてたところだよ」
「そうね、彼女も啓人を産んでから体調が以前ほどじゃなくなったわ。女が出産するのは死の淵をさまようようなもの、もっと大切にしてあげなきゃね」
世事にあまり関わらない古川老夫人でさえ、佳夢が出産後に体を壊したことを知っていた。
しかし理は一度も気にかけたことがなかった。
誰も知らない。彼女があと数年、二十六歳まで生きられないことを。