スープが雲音の全身にかかり、肌も赤く腫れあがった。
佳夢はこの光景を溜飲を下げるように見つめた。
調子に乗ってエスカレートするいじめ。
彼女がそんなにいじめやすい標的だと思っているのか?
雲音はまるで濡れ鼠のようで、惨めな姿だった。
「理…」と泣きじゃくる彼女。
理もこの光景を目にしており、食器を掴むと佳夢に向かって投げつけた。
碗は彼女の額に直撃し、皮膚を切り裂いて血が流れ落ちた。
「何をするつもりだ?」理は怒りに震えながら立ち上がった。「反逆か?」
佳夢は彼を見据えた。
「親子鑑定を覚えてる?絶対に江藤雲音が裏で細工した!」
「でたらめを言うな!」
雲音が即座に反論した。
「理さん、彼女はいじめるだけでなく、私を誹謗中傷しようとしているんです。私がそんなことするわけないじゃない…」
「誓えますか?」佳夢が問い詰めた。「すり替えてないって?もし嘘なら、天罰が下って地獄の底へ落ち、無残な死を遂げると誓える?」
雲音にそんな誓いが立てられるはずもない。
だが彼女は甘える術を知っていた。
この顔を武器に、理にすり寄る。
「理、彼女はきっと私をあなたから遠ざけたいんです。お姉さんを許せなかったように、私のことも許せない。一度は刺して殺そうとし、今度は誹謗中傷で追い詰めようとしている…」
そう言いながら、涙を無理やり絞り出した。
理は眉をひそめた。「調査中だ。結果は出る」
「やっぱり私、ここを離れた方が…」
雲音はより一層哀れっぽく演じ、わざとらしく歩き出した。
「理、ごめんなさい。お姉さんの代わりにそばにいてあげられなくて…」
「雲音!」理が彼女の腕を掴もうとした。
雲音は顔を覆い、泣きじゃくりながら佳夢の前を通り過ぎた。
そしてわざと肩で佳夢を押しのけようとした。
しかし佳夢はその手を読んでいて、ぶつかってくる前にさっと身をかわした。
雲音は勢い余ってバランスを崩し、必死に踏ん張ろうとした足が佳夢の足に引っかかり、そのままドスンと地べたを喰らった。
さらに不運なことに、床には割れた陶器の破片が散らばっていた。
理が佳夢の額に碗を投げつけた時に砕け散ったものだ。
「きゃあっ!」雲音は破片の上に倒れ込んだ。
耳元から顎にかけて、5センチ以上もある長い傷が彼女の顔に走った。
女にとって顔は命。
ましてや彼女の顔は江藤雨澄に酷似しているのだ!
「顔、私の顔が!」江藤雲音は絶叫した。
それを見た理が駆け寄る。「雲音!」
「理、私の顔…助けて」彼女は懐にすがり泣き叫んだ。
「私の完璧な顔が…」
佳夢は笑った。
因果応報だ。
天は見ている。
額の傷など、どうでも良くなった。
「よくも笑う!」雲音が彼女を指さした。「あなたが私を転ばせたのよ!」
佳夢は肩をすくめた。
「私のせい?ずっと動いてすらいないわ」
「わざと足を出してつまずかせたんだ!」
まったくの濡れ衣。
佳夢が反論しようとした時、理の冷たい視線が刺さった。
「佳夢」彼が低い声で問い詰めた。「どちらの足で雲音をつまずかせた?答えろ」