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第23話 顔

スープが雲音の全身にかかり、肌も赤く腫れあがった。

佳夢はこの光景を溜飲を下げるように見つめた。

調子に乗ってエスカレートするいじめ。

彼女がそんなにいじめやすい標的だと思っているのか?


雲音はまるで濡れ鼠のようで、惨めな姿だった。

「理…」と泣きじゃくる彼女。


理もこの光景を目にしており、食器を掴むと佳夢に向かって投げつけた。

碗は彼女の額に直撃し、皮膚を切り裂いて血が流れ落ちた。


「何をするつもりだ?」理は怒りに震えながら立ち上がった。「反逆か?」


佳夢は彼を見据えた。

「親子鑑定を覚えてる?絶対に江藤雲音が裏で細工した!」


「でたらめを言うな!」

雲音が即座に反論した。

「理さん、彼女はいじめるだけでなく、私を誹謗中傷しようとしているんです。私がそんなことするわけないじゃない…」


「誓えますか?」佳夢が問い詰めた。「すり替えてないって?もし嘘なら、天罰が下って地獄の底へ落ち、無残な死を遂げると誓える?」


雲音にそんな誓いが立てられるはずもない。

だが彼女は甘える術を知っていた。

この顔を武器に、理にすり寄る。

「理、彼女はきっと私をあなたから遠ざけたいんです。お姉さんを許せなかったように、私のことも許せない。一度は刺して殺そうとし、今度は誹謗中傷で追い詰めようとしている…」

そう言いながら、涙を無理やり絞り出した。

理は眉をひそめた。「調査中だ。結果は出る」


「やっぱり私、ここを離れた方が…」

雲音はより一層哀れっぽく演じ、わざとらしく歩き出した。

「理、ごめんなさい。お姉さんの代わりにそばにいてあげられなくて…」


「雲音!」理が彼女の腕を掴もうとした。

雲音は顔を覆い、泣きじゃくりながら佳夢の前を通り過ぎた。

そしてわざと肩で佳夢を押しのけようとした。

しかし佳夢はその手を読んでいて、ぶつかってくる前にさっと身をかわした。

雲音は勢い余ってバランスを崩し、必死に踏ん張ろうとした足が佳夢の足に引っかかり、そのままドスンと地べたを喰らった。

さらに不運なことに、床には割れた陶器の破片が散らばっていた。

理が佳夢の額に碗を投げつけた時に砕け散ったものだ。


「きゃあっ!」雲音は破片の上に倒れ込んだ。

耳元から顎にかけて、5センチ以上もある長い傷が彼女の顔に走った。

女にとって顔は命。

ましてや彼女の顔は江藤雨澄に酷似しているのだ!


「顔、私の顔が!」江藤雲音は絶叫した。

それを見た理が駆け寄る。「雲音!」


「理、私の顔…助けて」彼女は懐にすがり泣き叫んだ。

「私の完璧な顔が…」


佳夢は笑った。

因果応報だ。

天は見ている。

額の傷など、どうでも良くなった。


「よくも笑う!」雲音が彼女を指さした。「あなたが私を転ばせたのよ!」

佳夢は肩をすくめた。

「私のせい?ずっと動いてすらいないわ」

「わざと足を出してつまずかせたんだ!」

まったくの濡れ衣。

佳夢が反論しようとした時、理の冷たい視線が刺さった。

「佳夢」彼が低い声で問い詰めた。「どちらの足で雲音をつまずかせた?答えろ」



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