彼女の心が冷えた。
理は彼女を信じていなかった。
そうだ、何年も夫婦だったが、彼が一度でも彼女を信じたことがあっただろうか。
彼がもたらしたものは深い傷だけ。彼を愛するこの心は、もう温まることはない。
「私じゃない」
古川佳夢が首を振った。
「理、あなたはその場にいたじゃない。私は全く動いていなかった。彼女が自分で転んだのよ。どうして私のせいにできるの!」
雲音がすすり泣きながら言う。
「理~、彼女よ。私の顔を潰したがってるの。お姉さんを恨んでるから、特に私のこの顔が憎いの。きっと顔を切り裂いて、あなたに私を好きにならせないようにしようとしてるの…」
江藤雨澄は理の心の奥深くに刻まれた存在だった。
案の定、彼女の名が出ると、理の気配がさらに何倍も冷たく鋭くなった。
「佳夢、お前のどちらの足だ」彼の声は地獄の底から響いてくるようだった。「答えろ!」
「違うって言ってるでしょ!古川理、どうして江藤雲音の言うことだけ信じるの?レストランには防犯カメラがあるんだから、確認してから私を裁けばいいじゃない…」
だが彼は雲音の言葉だけを信じていた。
雲音が涙を見せるだけで、彼は胸を痛めた。一方、佳夢の額に流れる血など、まるで存在しないかのように扱われた。
江藤雨澄の代わりに過ぎない女が…たったそれだけで、四年も苦楽を共にしてきた妻よりも寵愛されているのだ。
視界がかすんでくる。
佳夢は唇の内側の柔らかい肉を強く噛みしめ、自分を奮い立たせた。
「もういい、理。お前がそう思うなら、どちらの足でも好きにすれば」
理は雲音を椅子に座らせると、彼女に向かって歩いてきた。
その目は刃のようだった。「二度と雲音を傷つけさせはしない」
「そう?」佳夢は彼を呆然と見つめ、呪うように言った。
「でも私は彼女が死ねばいいと思う。だって啓人を脅かす、最低な女だから…」
「パン!」
彼女が言い終わる前に、理の平手打ちが飛んできた。
これで二度目だ。
一度目は、江藤雨澄が死んだ夜。
二度目は今、江藤雲音の顔が傷ついた時。
この一撃はあまりにも強く、佳夢の耳の中で金属音が響き、音が聞こえなくなった。
雲音の口がパクパク動いているのが見えるだけ。耳元は静寂に包まれている。
しばらくして、ようやくかすかに言葉が聞こえた。「…刀で、斬れ」
刀?何を斬るの?
すぐに、佳夢は刀一つ、江藤雲音の手に渡すのを見た。
彼の口調には骨の髄まで凍りつくような残酷さがにじんでいた。
「雲音、お前がやれ。因果応報だ」
江藤雲音の目に一瞬、得意げな光が走り、刀の柄を握りしめて彼女に近づいてきた。
「あ、あなた…何をするつもり…?」佳夢は後ずさりし、目には計り知れない恐怖が浮かんでいた。
「やめて!やめてくれ!」
「私をわざと転ばせて顔を傷つけたんだから、理がお前の足を斬れと言っている。当然の報いよ!」
佳夢は振り返って逃げ出した。
理の声が跳ね上がった。「止めろ!」
すぐに、数人のSPが入り口に現れた。
「奥様、お戻りください」
佳夢は命知らずの勢いで外に飛び出そうとしたが、一人の力では警護員には敵わない。
彼女は投げ戻された。
「押さえつけろ」理が指令を下した。
「動けないようにしろ。雲音がやりやすくしてやれ!」
「はい、社長!」
SPたちは容赦なく佳夢の両手両足を押さえつけた。
彼女は身動き一つできず、まな板の上の鯉のように、雲音のなすがままにされた!
「古川理、私はあなたの妻よ…」彼女は叫んだ。
「神父の前で誓ったじゃない…一生を共にするって…」