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第25話 病院へ送るな


かすむ意識の中、彼女の目の前に結婚式の光景が浮かんだ。

純白のウェディングドレスに身を包み、神父の前で厳かにこう答える自分がいた。


「はい、誓います」


貧しさにも富にも、健康にも病にも、二人で立ち向かうと。

永遠の愛を誓ったあの瞬間。


「ふん」理の冷笑が現実へと引き戻した。

「よくも結婚の話などできるな?それはお前の骨髄を手に入れるためだけの、俺の唯一の嘘だ!お前を愛したことなど一度もない!」


その言葉は、刃で刺されるよりも痛かった。

雲音が獰笑しながら近づいてくる。

絶好の機会だ。思う存分に復讐してやる。


できれば佳夢の下半身を不自由にし、車椅子生活にしてやる!


「佳夢、理が許可したのよ?恨まないでね」

雲音はわざとらしく言い足した。

「私を狙うなんて、お門違いもいいところよ」


佳夢は激しくもがいた。「なぜ…なぜ私の足を斬るの!?」

「理が私を選んだからよ。お前なんて何物でもないってこと!」


雲音は刀の柄を握りしめ、護衛に強く押さえつけるよう合図すると、手を高々と振りかざし、佳夢の足へと力いっぱい振り下ろした!

なんて痛快なんだ!


自分の顔は治療で傷跡も消せるが、佳夢の足がもげれば一生の障害者だ!

佳夢は無力に落下する刃を見つめた。

足首に触れんとしたその瞬間、理が言った。


「待て」


雲音の動作が止まり、彼を振り返る。

「理?どうしたの?」


「俺がやる」彼は雲音から刀を奪う。

「お前の手を汚させはしない」


雲音は驚きと喜びでいっぱいだった。

実は自分でやりたかった。そうでなければ快感が得られない。

でも…理がそう言うなら任せよう。どうせ佳夢は逃げられない!


理がわずかに目を上げた。

「怖いか?」

「…怖い」佳夢は答えた。

「古川理、根も葉もない罪で私の足を奪うつもり?」


彼は節くれだった指で刀を弄びながら言う。

「お前を廃人にすればな、後々啓人に不具の母親がいる』と噂されるのも好ましくない。だから…」


手が舞い、刃が落ちる。

鮮やかな一閃。

血しぶきが理の全身を染めた。


佳夢は一瞬で全身に汗を噴き出したほどの痛みに襲われたが、歯を食いしばって一声も漏らさなかった。

気を失いそうなほどの痛み。

だが意識はかえって鮮明になり、床に転がった二本の切断された足指をはっきりと見つめる。


理はここまで残酷なのか。

一瞬、佳夢は思った――自分が愛したのは、あの年、山頂で一緒に遊んだ少年の古川理なのか?それとも今目の前にいる、非情な古川社長なのか?


愛したその人は、とっくに死んでいたのでは?

彼女の心の中で。


「病院へ送るな」理の声は冷たかった。

「止血薬だけ与えておけ。死ななければそれでよし」

佳夢はどさりと床に倒れ込み、絶え間なく流れ出る血と、二本の切断された指を茫然と見つめた。


理が近づき、革靴が彼女の眼前で止まる。

「これが罰だ。雲音の顔に傷跡が残ったら、必ずお前の顔に十文字の傷を刻んでやる」


彼は雲音を連れて顔の治療に向かった。

佳夢のことはまったく顧みない。


彼女はゆっくりと笑った。笑い続けるうちに胸が激しく疼き、佳夢はおぞましい悲鳴をあげた。


彼女は床に伏し、必死にもがきながら、切断された指を拾おうと手を伸ばした…

だが指に触れる前に、視界が暗転し、気を失った。

どれほどの時が流れただろうか。朦朧とした意識の中、佳夢は誰かに呼ばれる声を聞いた…



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