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第27話 新田心悠


古川 佳梦は水色のロングドレスをまとっていた。細い腰に白い肌、歩くたびに裾が優雅子に揺れる。

彼女はダンスを学んだことがあり、姿勢は端正で優雅子、首筋が長く伸びている。

ただ残念なことに、彼女はもう二度と踊れない。


普通の人と同じように歩くことさえも、叶わないのだ。

理の視線が彼女の足元に落ちた。

手すりを掴み、一歩一歩慎重に階段を降りる不器用な姿を見て、奇妙な考えが脳裏をよぎった。

駆け寄って、彼女を抱きかかえて階段を降ろしてやりたい――


「理、私の話聞いてる?」

かとう 雲音るが言った。「今日、この服でどう?」

彼は視線を戻し、淡々と「うん」と応えた。


「ちゃんと見てないじゃない、適当すぎるよ」

「全部俺が付き合って買った服だ。どれも似合ってる」


雲音は笑いながら彼の首に腕を回した。

「じゃあ、着替えに付き合って」


もちろん彼女は佳梦が来ていることを知っていた。

だからこそ、理の注意の全てを自分に引きつけておく必要があったのだ。

佳梦は指の切断面からくる痛みをこらえ、玄関向かった。二人を完全に無視している。


「どこへ行く?」理の声が背後から響いた。

「食事に」

「食事に、そんなに気合を入れて着飾る必要があるのか?」彼は冷たく問い詰めた。

「まさか、立川に会いに行くつもりじゃないだろうな?」


古川 佳梦は振り返りもせず答えた。「仕事よ。職を探すの」


理は嘲笑した。「健気だな」


彼女は唇を噛み、血の味が広がったが、背筋をぴんと伸ばしたまま歩き続けた。

「やっていいことと悪いことの区別はついているはずだ」

理は警告した。「俺に隙を見せるな」


佳梦の足が止まった。

彼女は彼を振り返り言い放った。「理、どうせ殺すなら今すぐ殺せよ。死んでしまえばそれで終わり。それ以上私に何ができるの?墓を暴いて鞭打つ?それとも犬に食わせる?」

もしも、啓人が健康を取り戻すその日を見届けたいという思いがなければ、とっくに佳梦は耐えきれなかっただろう。

この生き地獄のような日々を。

今、啓人は古川家老夫人の側にいる。彼女は一応安心していた。


雲音がどんな手を使おうと、老夫人の領域にまで手を伸ばすことはできない。そして理も老夫人への不敬は許されない。


彼女の親友、新田心悠は老夫人の手元で育った。古川京赫がどれほど狂おしく彼女を探し回ろうとも、強硬な手段を取ることもできなければ、脅しの一言すら口にできないのだ。


それに…佳梦は理への未練も断ち切っていた。

この広い世界に、彼女が未練を感じるものなど何一つなかった。


ある建築デザイン会社。

佳梦がドアを押してオフィスに入った。


ここ数年、彼女は自分のキャリアを決して疎かにしなかった。

建築学科を卒業後、潮見市で最大手の建築会社に就職し、確かな専門技術で一歩一歩デザインディレクターの地位まで上り詰めたのだ。

潮見市大劇場は彼女の設計によるもので、全国の金賞を受賞している。


「チッチッ、チッチッ――」突然、佳梦はその音を聞いた。

まるでネズミが鳴いているような。

彼女は驚いた。


「チッチッ!」


いや、これはネズミじゃない。彼女と新田心悠の合図だ!


心悠が潮見市に戻ってきた?よくそんな勇気が!古川京赫きに見つかるのが怖くないのか!

佳梦は素早く立ち上がり、その音を追いかけながら進んだ。前へ、前へ…

女性用トイレにたどり着いた時、音は消えていた。


そして清掃員の制服を着た女性が、ひょいと振り返り、ウインクして言った。


「佳梦!」

「どうして…」佳梦は彼女を見つめ、咄嗟に自分の口を押さえた。

「心悠、どうしてここにいるの!」



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