古川佳梦は飛び起きた。
古川理が玄関へ走る。「慌てるな、どうした!」
「宗田家で大変なことが起きまして…」
佳梦はベッドから飛び降り、靴も履かずに廊下へ駆け出した。
「長谷川さん、何ですって?うちの父がどうかしたんですか?」
執事の長谷川忠雄が答える。「宗田宏明様が警察に連行され、刑務所へ送られました!宗田真理様の行方は分からず、国外逃亡したという噂です!」
「何ですって?一体何が?」
「奥様、詳細は私にも…」
佳梦は呆然と立ち尽くした。数秒後、狂ったように外へ飛び出そうとした。「車を!父に会いに行くの!」
今日こそ密かに小遣いをくれた父が。今日こそ過ちを認め、本音を語ってくれた父が…なぜ突然こんな災難に!
ようやく掴んだ幸せは、いつもこうして瞬く間に奪われていくのか!
刑務所の面会室。
手錠をかけられた宗田宏明がガラス越しに受話器を取る。
外側で、佳梦が真っ赤な目をしていた。
「父さん…一体何があったの?」震える声で彼女は問う。「今日までは平気だったじゃない…」
「お前に金を渡したことが真理にバレた。激怒して取り戻せと迫ってきたが、俺は拒んだ。大喧嘩になった」
「喧嘩だけで逮捕されるわけないでしょう?」
「真理は逆上して会社の全資金を持ち逃げし、借金の山を押し付けた」宗田宏明は呟く。「私有ジェットで夜逃げし、二度と戻らない。このザマは全て俺の責任だ」
一夜にして十歳も老け込んだ父の姿に、佳梦はやりきれない思いで胸が締め付けられた。
佳梦はずっと、真理が父を支えているだけだと思っていた…気づけば父は完全に傀儡になっていた。
「お前を巻き込まない」
宗田宏明は言った。
「佳梦、今までお前を苦しめてしまった。今さらお前に頼る顔もない…全ては真理の仕業だ。彼女が責任を取るべきだ」
「でも父さん、国外に逃げられたら本人が自ら戻らない限り…」
「何とかする。心配するな」
そう言い終えると、宗田宏明は受話器を置き、手を振って笑った。護送される父の背中を見送りながら、佳梦は魂が抜けたように座り込んだ。
その時、背後に古川理の影が落ちた。
佳梦は跳ね起き、彼の袖を掴んだ。
「お願い、父さんを助けて…!」
冷ややかな視線が佳梦を貫く。
「なぜ俺がお前の父親を助けねばならん?」
「何でもします!」
「古川佳梦、身の程を知れ」理の口元が残酷に歪む。
「宗田社は脱税と巨額債務で破産寸前だ…立て直すには十億円が必要だ」
彼は薬を含んだ声で問う。「お前にその価値があると?」
そんな大金、佳梦に出せるわけがない。
だが理にはある!
「諦めろ。お前を助ける義理はない」
嘲笑とともに、彼の瞳には残忍な輝きが宿った。
「雨澄を死に追いやった罪は、今こそ清算すべき時だ」
佳梦は恐怖に震えた。「何…するつもり?」
「俺が雨澄の最期を見届けたように、お前も父親が死ぬ瞬間を目撃するがいい。因果応報だ」
「やめて…!」
理は一語一語を刃のように研ぎ澄ませた。
「刑務所でな、宗田宏明を『丁重にもてなしてやる』と伝えておけ」