目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第33話 佳夢、足の指はどこ?


「やめて、古川理!私を責めて!父に手を出すな!お願いだから!」

佳夢の心が張り裂けるような声は、理の耳に届くと、奇妙な快感を呼び起こした。

彼はいつでも彼女の弱点を握って、苦しめ、死ぬことも許さない。

振り返って去ろうとする理のズボンの裾を、佳夢が必死に掴む。


「離せ!」

「父を許して…理、怒りがあるなら私にぶつけて…」

容赦なく胸元を蹴られた。「失せろ!」


吹き飛ばされた佳夢は痛みも忘れ、跪きながら彼の足元へ這い寄る。

「理、もう母はいないんだ…父まで奪わないで…孤児になりたくない…」


ようやく気づいた。父の愛は、言葉にできない事情に縛られていただけだと。

苦しみの果てにようやく知った父の愛を、永遠に失おうとしている。

佳夢がどうして諦められようか。


「お前が雨澄を奪ったように、お前の宗田宏明を奪ってやる!」

「江藤雨澄は私が殺したんじゃない!違う!」佳夢は叫んだ。

「駆けつけた時には…もう息がなかったんだ!」

理の目が血走り、鬼の形相だ。

「現場にいたのはお前だけだ。雨澄が自殺したとでも言うのか?」

「わからない…私は罠にはめられたの…立川が調べてる、私の潔白を証明してくれる…」

その言葉が、かえって理の逆鱗に触れた。


「よくも立川輝の名を出せるな!お前が一生あの男と結ばれると思うな!」

理は佳夢の肩を掴み、監獄から引きずり出し、車内へ放り込んだ。

彼女は絶望で窓を叩く。「父さん…父さん…」

これが宗田宏明との最後の別れになるかもしれない恐怖で、佳夢は声が枯れるまで泣いた。目は乾いて痛み、助手席で丸くなった。


車は庭園に停まった。

「着いた」理が冷たく言う。「佳夢、死んだふりはやめろ」


彼女が顔を上げる。「私の命と引き換えに…父を助けてくれないか?」


顎を掴まれ、ぐいと引き寄せられる。

「忘れたか?お前の命はお前のものじゃない。俺のものだ!」

佳夢の瞳は灰色に濁っていた。


「理…私の人生を台無しにしてまだ足りないの?最後に残った家族の絆まで奪うつもり?」突然、不気味な笑い声を上げた。

「ああ、私はなんて罪深いんだ…命がけで助けた男が、こんなにも心が氷のように冷たいなんて!」


耳を貫くような不気味な笑い声。

次の瞬間、佳夢が猛然と飛びかかり、理の肩に食らいついた。

鋭い歯が皮膚を貫き、血の塩気が舌に広がる。


「古川佳夢!離せ!」

彼は彼女を殴り蹴ったが、佳夢は骨まで食い込むように離そうとしない。

警護が駆けつけ、無理やり引き離すまで。

血だらけの口を開け、冷たい床に崩れ落ちる佳夢。


「…大嫌いだ…永遠に憎む!」

理の腕には、骨まで達する深い歯形が刻まれていた。

彼は険しい表情で言った。「その歯、全部折ってほしいのか?」

佳夢が答えようとした時、一台の車が到着した。

新田心悠が飛び降りて駆け寄る。「佳夢!」


心悠が彼女を抱き起こし、慌てて尋ねた。「怪我は!?」

「大丈夫…」

「あっ!」俯いた心悠が悲鳴を上げた。「佳夢!足の指はどこにいったの!?」

足指の付け根が血まみれで、小指と薬指が消えていた。

「どうして指がないの!?誰がやったの!?」心悠は怒りに震えた。

「仕返ししてやる!!」



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?