「レオン・アルクリア、貴殿をこのヴァーン州の|太守(たいしゅ)に任命する」
そう前太守の男がつぶやくように言う。
そして、俺の頭に小さな冠を載せる。
「これで、今からはヴァーン州の太守は私からレオン・アルクリア、お前になった。このヴァーン州に永い平和をもたらしてくれ。年のいった私より20と少しですでに英雄と呼ばれているお前のほうがずっと太守にふさわしい」
俺は恭しくうなずく。
「一族が滅ぼされて数年、冒険者としてさまよったことも、他家に仕えて領主としての復権を目指していたこともあった。ただ、苦難の日々を越えて、どうにか宿敵を打倒して、どうにか州を安定させることができた、これもついてきてくださったみんなのおかげだ。本当にありがとう」
俺は丁重に周囲の重臣や列席している聖職者たちに礼を言った。聖職者の中には俺が幼い頃に面倒を見てくれた修道院長もいる。
少し視線を横に向ける。
「とくに、俺を支えてくれた妻」
妻が顔を赤くする。立派な弓兵としてもずっと活躍してくれた。
今度は視線を重臣の最上位の位置へと向ける。
ポニーテールの女剣士は今日も凛々しく、その何倍も美しい。
「それと、旗揚げの時からずっと付き従ってくれたラコ・エレヴァントゥスに最大級の謝辞を送りたい。二人がいなければ太守になるなど夢物語のままだった」
「過分な言葉、ありがとうございます。ただ、私はあなたが一つの州の太守でとどまる器ではないと思っていますよ」
ラコが俺のほうに言葉を返す。
王国すべてを支配するぐらいの気持ちでいてくれていいとラコは何度も言っていた。領主に復帰することすらできてない時にすら近いことを語っていたと思う。
ほかの家臣からも「やりましょう!」「どこまでもお供いたします」といった声が聞こえてきた。
「まあ、そこはこれから考えていこう。長く太守を続けられないと前太守にも申し訳が立たないからな」
謀反の疑いをでっちあげられて一日で滅亡させられたアルクリア竜騎士家の生き残り、この俺レオン・アルクリアはこの日、竜騎士家の故地で州のトップに立った。