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第4話 スキルの種類も、強さだって、みんな違ってみんないい



「スレイも、メェ君は『やくたたず』だって言う?」

「え?」


 「違う」とか「何で分かったの?」とか、そういう反応が返ってくるかと思ったら、エレンは何故かブスッとした顔になる。


 何故そんなふうに聞くのだろう?

 その疑問の答えはすぐに分かった。


「にいさまに言われたの。よわい子しか召喚できないエレンも、よわいメェ君も『やくたたず』って。エレンはいやなの。だってメェ君はいい子だもん……」


 そんな事を言ってシュンとしたエレンは、小さな両手でスカートをギュッと強く握る。


 前髪から垣間見える表情からは、悔しさが窺い知れる。


 そりゃあ自分の大好きで自慢の子がそんなふうに言われたら、誰だって悲しくて悔しくなる。

 当たり前の感情だ。



 否定をしなかったところを見ると、エレンのスキルは『召喚師』で合っているのだろう。


 召喚師のスキル持ちは、結構多い。

 能力の強さには個人差があるが、言われようからするとそれほど強くはないのだろう。


 スキルは、強さや希少性によって一般的に『階層』という五段階で評価される事が多い。

 もしかしたら彼女のスキルは、下から数えた方が早いのかもしれない。


 しかし、たとえそうだったとしても、役立たずと呼ばれる筋合いはないと俺は思う。


「あのな、エレン。スキルっていうのは、その人が持つ個性だ。スキルの種類や強さがどうであれ、『みんな違ってみんないい』んだよ。階層や周りからの言われようで、その価値は変わらない」


 それが、十五歳で異例の王城お抱えに抜擢され、それから十年もの間、研究と称して様々なスキルに出会ってきた俺が出したスキルに対する一つの答えだ。


 みんな違って、みんないい。

 どんなスキルだろうが、強さだろうが、使い手のやりたい事ができればいい。

 強いスキルが重用される風潮にあるが、弱いなら弱いなりの使い方をすればいい。

 弱いからこそできる使い方、思いつける使い方もある。


 だから。


「どんなスキルだって、強さだって、役立たずなんていう事は


 俺の言葉に、エレンがコテンと首を傾げた。


 彼女の頭上に、クエスチョンマークが浮かんでいる。

 しまった。

 ちょっと難しく言い過ぎたか。


「つまり、エレンもメェ君も、今のままで十分すごいっていう事だよ。何ならたくさんいい子いい子したいくらい!」


 少し大げさに言葉を選んだ。

 両手まで広げて、「そのくらいすごい!」と豪語する。


 まだ人通りのある場所だから、少々周りからの目が痛いが、どうとでもなれ。

 それより今はエレンの方が、スキルのせいで悲しみ悔しいと思っている子の方が大事だ。


 伝われ、この気持ち。

 そんな願いは、どうやら無事天に届いたらしい。


 エレンの表情が、今度こそパァーッと華やぐ。


「メェ君はね、すごいんだよ! メェ君はね、メェ君はね!!」


 ピョンピョンと跳ね矢継ぎ早にそう話し出したエレンに感化されたのか、メェ君も何やら「めぇめぇめぇめぇ」と、嬉しそうに訴えかけてくる。


 どうやらエレンは俺の事を「メェ君の事を、気兼ねなく自慢してもいい相手」だと認識したようだ。

 エレンと同じ顔でめぇめぇ言っているメェ君も、もしかしたらエレンを自慢しているのかもしれない。

 ……まぁこちらは何が言っているのか、まったく分からないのだが。


「それでねっ、それでねっ、メェ君は!」

「めぇめぇめぇめぇめぇ!!!」


 似た者同士の一人と一匹を見て、俺は小さく苦笑する。


 本来『召喚士』というスキルは、召喚した生き物と心の道を繋ぐだけのものだ。

 確固たる忠誠心や仲間意識を、否応なしに植え付けられるようなスキルではない。


 しかし。


「これだけ息がぴったりなら、間違っても、強制的に従えるための魔道具は必要ないだろうな」


 騒がしい彼女たちの仲のよさに、ちょっとほっこりしたのだった。





「着いたぞ、ここがうちの家だ」

「おぉーっ!」


 両手を上げて感嘆の声を上げるエレンに、俺は小さく苦笑する。


 彼女は目を輝かせてすぐさま隣のメェ君に「すごいねぇ!」と言っているが、別にそんな事はない。

 先に話していた通り、ただ少し広いだけの、年季の入った木造りの平屋だ。


 それも広いのは、建物ではなく土地。

 木で作られた柵の半分は空き地だ。


 そんな家に住むに至ったのは、家探しをしている時に、ひょんな事から牛を拾うに至ったから。

 牛が窮屈な思いをせずに、一緒に暮らせる家を探したところ、この家に行き当たったのである。


 珍しく敷地内に井戸がある物件で、外から水を運んでこなくていい便利さと、元々売値が高すぎて買い手が付かずに値下がりしていた事もあり、ここに決めた。


 うちの牛はおっとりしていて歩いてばかりだが、たとえ走っても十分な広さで、窮屈さなど感じる余地はないだろう。

 最初はそう思ったのだが、一か月後には「やっぱりこの広さでよかった」と改めて思うに至った。

 その理由とは。


「とりあえずエレンもメェ君も、先に体を洗っとかないとな。と、その前に」


 ガラッと家の引き戸を開ける。


「ただいまー」


 そう言った瞬間、薄茶色とこげ茶色の影が一つずつ、扉の中から転がり出てきた。




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