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魔王様に買われて変われて飼われてる
魔王様に買われて変われて飼われてる
パルラコ
異世界恋愛人外ラブ
2025年06月13日
公開日
8,652字
連載中
借金返済で毎日仕事に忙殺されていた私は、 ある日何かに躓いたら牢屋の中に居ました。 あれよあれよオークションに賭けられてしまい、 諦めるしかないのかと思っていたら犬耳の生えた 男性が私をとんでもない額で買いました。 これは、私が買われて、変わって、飼われる話です。

買われました 1


高校卒業と共に、両親は手紙と娘の私を置いて

蒸発してしまいました。

手紙には…今まで世話した分、借金を

自分達に代わって返してくれ、とだけ。

戸惑ったと同時に、あぁ親子の縁とは、

絆とは、情とは?貴方達にとって、私は

そんなものなのかと思わず泣き出してしまい、

崩れ落ちました。

頼る人も何も宛もなく、とりあえずで

高卒でもいい会社に就職し、会社に黙って

アルバイトもしながら私は借金返済に

奔走しました。


けれど、三年経った今も途方のない借金は全く

減りませんでした。

会社は、今思えばブラック企業だったらしく

怒鳴られ、なじられ…身体も心もすり減る毎日に

私は、この世から居なくなりたい気持ちを

必死に抑えながら働き続けました。

多分、限界が来ていたのでしょう。

今日も、一週間前から続く吐き気をやり過ごしながら

割引された惣菜パンを胃に詰め込みながら

ボロボロの安アパートに帰ろうとしていました。

流石に病院へ行かないと…とか考えながら

足元を見ていなかったせいでしょうか。

何かに躓きました。

ぐにゃりと視界が揺れ、バランスを崩し

盛大に転びました。


「ぅ…あ、れ?」


ガシャン、と言う金属の音と同時に、

硬くて冷たい床の感触に首を傾げました。

それと、吐き気が無くなり…何だったら、

今までより身体が軽いくらいです。

ふと、何か凄まじい勢いで記憶が流れ込んできます。

私ではない、誰かの記憶です。

訳が分からず、頭が沸騰しそうでした。

あれ、でも何だか耳と尻に違和感がするし…

えぇ…?何もかも分からず周りを見ると、

まるで昔絵本か何かで見た牢屋の様でした。

また、思考が一瞬止まりかけました。

もしかして、逮捕されましたか?私…?


「…何をきょろきょろしてんの」

「えっ、あ…」

ふと誰かに話しかけられ、後ろを見ると

ボロボロの猫耳が生えた少女が座っていました。

「言っとくけど、此処からは逃げられないよ。

 競りが始まるまで飯は数日に一回。

 逃げようとしたらいたぶられて、

 殺されるだけ…」

悲壮感を漂わせながら私に言う彼女に、

私は間の抜けた表情で返事をする。

「…そうなんですか」

…何となく、分かりました。

ここは…恐らく異世界で、私は生まれ変わり…

しかもかなりアングラな場所。

恐らく奴隷制度とやらでしょうか。

「何その反応…アンタおかしいんじゃない」

「そうかも知れません」

「…と言うか、その黒色凄いね」

「そう…なんでしょうか?」

「アンタ、なんか危なかっしい…」

呆れながらも、彼女は笑っていました。

「よく言われます…ちょっと聞きたいことも

 あるので、話しませんか?小声で」

「まぁ…いいよ」


彼女はリリと言いました。

幼い頃から奴隷だったが、"異常な思考"を

持っていたせいで前の家に捨てられて、

再び売られてしまったらしいです。

この世界では国によるが奴隷制度があり、

中でも獣人と呼ばれる、リリの様な外見をした

人間に似たもの達を刺すのが多いらしいです。

奴隷となった人間は反抗心がなくなる様に

よく"躾"をされている、らしいです。

けれど、リリはそんな躾に屈さなかったのです。

だからこんな場所に来てしまったけど、と

自嘲的に笑っていましたが…

私は笑いませんでした、笑えませんでした。

思わず、彼女の手を取ってしまった。

「えっ、な、なに…っ?」

「貴女の強さを、貴女が笑ってはいけません」

「…べ、つに、こんなの、強さなんて…」

「異常ではありません、私もおかしいと

 思っていますから」

「…で、でもさ、その、それでも一握りで」

「一握りだろうとなんだろうと価値観は

 価値観ですから…けれどそれをなじられようと

 何と言われようと、貴女は曲げなかった。

 それは、誇るべきだと思います」

「…やっぱり、アンタはおかしい」

呆れと照れが入り交じった、複雑そうな表情で

私を見るリリに、私は苦笑しました。

「そうですね、言葉だけなら何とでも言えますし

 それでこの現状がどうなるかは分かりません。

 けれど、だからこそ支えがいるのです」

私も、そうだった。

借金返済をしたら、美味しいものを食べて、

大学に行ってみたり、未知の体験をしたくて

海外へ旅行に行ってみたり…なんて、

考えてはいたもののこれでは無駄も同然。

すぐに切り替えろとは言えないが、それでも

人間は前を向いていかなくてはいけない。

生きていかなくてはいけない。

…そんな世界は、おかしいとも思うけれど。

「…なんかババァ臭いねアンタ、

 そういや名前は?」

「私?私は………」

「オイッ!何喋ってやがんだ下等種族共ッ!」


名乗ろうとしたところで、邪魔が入った。

鍵が開き、小太りの…ハゲのオジサンが現れました。

その手には酒瓶が握られており、少し身体が

恐怖で震えてしまいました。

「テメェ…何だァその目は!何見てやがんだ!」

そう言われ、その手に持っていた酒瓶を

間髪入れずに振り下ろされました。

ガシャン!と割れる音と衝撃、痛…っく、

は、ない…?とワインを浴びながら首を傾げます。

「っは、壊れてんのかァ〜?クソガキがっ…

 う〜、ひっく…お前を売り飛ばしてやるッ!」

「っ…!」

首輪の鎖を捕まれ、リリは青ざめていましたが

私は少し、諦めながら笑いかけます。

「短い間でしたが…色々と、

 教えて下さりありがとうございました」

「待って、まだ…っ!」

「うるせぇっ!黙ってろ!」

また、 今度は割れた瓶で殴られそうになった

彼女を庇う様に前に出て、代わりに殴られました。

…うーん、やっぱり痛くない…これって、

何が起きているのでしょうか。

あまり本は読んでいなかったので、

この場合どうすればいいん…でしょうか。 

「っ…行くぞ!もたもたすんな、ゴミクズが!」

何やら焦りながらも、小太りオジサンに

引きずられながらそのまま、

私は競りの会場へと連れていかれました。


競りの会場はかなり広く、

まるでコンサート会場の様な場所。

連れて行かれ、真ん中に立たされる私は

商品として扱われました。

かんかん、と鳴り響くと同時に、

芝居がかった男の声が響き渡ります。

「さて今回の商品は黒曜石の如く輝き放つ

 毛皮を持った16歳の、しかも名無しの処女!

 価格は100万トュベルから開始です!」

「250万!」

「安すぎる!私ならば600万だそう!」

「話にならんなぁ…3000万だ!」

「何ッ!?くっ…あんなジジィに渡されるなど…」

あぁ、いやだなぁ。

生まれ変わっても、こんな事になるなんて。

リリにはあんな偉そうなことを言いましたけど

本当は、私だって嫌です。

夢も希望もない、こんな世界なんかで。

黒々とした絶望が私の心にまとわりついてきた、

と同時でした。


「100億」


まるで、風が吹いたかの様な感覚に陥りました。

その場が一瞬で静寂に包まれ、上で何かが

動いた気がして目を向けます。

凄く、綺麗な…白銀の長い髪に、透き通った

緑色の細い瞳。同じく白銀の、ただただ美しいと

感じさせる犬耳と尻尾。

質のいいスーツに身を纏った、女性…?

いや、でも声からして、男性のような。

なんて考えていると、男性は何故かもう

既に私の目の前にいました。


「まっ…魔王…ッッ…」

腰は抜けていましたが、辛うじて口に出したと

言った様子で私と、男性を見る。

「…貴女を、貰い受けよう」

まるで王子様が、お姫様の手にキスをする様に

跪き、私と目線を合わせてくる。

ぽかんとしてしまって、私は…

何も言えませんでした。

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