その夜、両親の夢を久しぶりに見ました。
とは言っても、本当に久しぶりに見た両親の姿は
あまりにも変わっていまして。
何故だか、両親は一面砂だらけの場所にいて
何かを必死に探している様でした。
頬は痩せこけ、指先は魚の様に干からびていて、
ところどころには血も滲んでいます。
けれどそれを気にもせず、ただただ何を無心で
掘っていました。
この夢の意味が、全く分かりませんでした。
恐らく異世界に渡った私はもう、あちらの私では
無い筈で、きっと両親とも会えません。
いや、会いたくもありませんが…それでも、
こうして夢を見るとは、私は深層心理内で
両親を求めているのでしょうか。
それにしても、何故こんな場所で?
両親は、一体何を探しているのでしょうか?
考えていると、意識がハッキリとしてきます。
…あの魔王城の部屋で、柔らかくて暖かい
上質なベッドの上です。
「おはようございます、ナタ様」
「おっ…おはよう、ござい、ます」
昨夜のメイドさん二人…確か、アニスさんと
メレスさんが、いつの間にか居ました。
本当に気配がなくて、びっくりしちゃいます。
「サトラス様がお呼びです、着替えを」
「分かりました…」
サトラスって、あの長い水色髪の男性ですよね。
…そう言えばヴェナント…様?と
お呼びした方がいいのでしょうか、ヴェナント様は
あの後大丈夫だったんでしょうか?
なんて考えながら、とりあえずメイドさん達に
起き上がらせてもらって…。
…な、なんと言うか、質のいい…可愛らしい
ドレス、としか言えない…。
とにかく、前の私じゃ着れないような
素晴らしい黒を基調としたドレスを
着させられました。
「ぁ…のっ、これ、大丈夫…なんです、かね?」
「サトラス様より許可は頂いております」
「は…はぁ…」
確か、魔王様…なんでしたっけ。
これくらい、どうって事はないと言うのでしょうか。
…と言うか、本当に私はどうなるのでしょうか…。
思えば失礼なことばかりしていた気がしますし、
何かしら罰は…あるのでしょうか?
未だによく分からないまま、案内に従いました。
その道中、あの水色髪の男性を見つけ
挨拶を試みてみます。
「あ、おはようございます…サトラス、さん?」
「おはようございます、どうぞ私のことは
サトラスとお呼びください、ナタ様」
少し柔らかな表情をしてらっしゃり、
一先ずほっとしてしまいます。
「あの…えっと…」
「まだ混乱なされていらっしゃる最中に
申し訳ありませんが、貴女には早急に
この世界のことを学んで頂く必要があります」
「それは私も知りたいので大丈夫です、けど…
あの、私、どうしたら」
「先ずは話だけでも聞いていただければ…
さぁどうぞ此方に」
そう促されて、私は部屋の中に入り
ふかふかのソファに座ります。
サトラスさんの説明を私なりに噛み砕いて
要約してみると、こうだ。
この世界は獣人や人間が共存してはいる…
ものの、一部では弱い獣人を見下す人間により
ごく稀に裏社会で売られてしまう。
その裏社会の人身売買などを秘密裏に取り締まったり
人間達を時に守り時に監視する、そんな役割を
持っているのが魔王…だと言う。
魔王は獣人の中でしか産まれないが、
番と言う特別な存在は人間でも産まれるらしく…。
とは言え寿命はかなり長いし、当代の魔王である
ヴェナント…様はあまり番を気にする性格では
なかったそうなのでサトラスさん率いる
部下の方々は相当に苦労していたそうだ。
だから、最初私を連れてきたことに本当に
驚いたんだそう。
「…私がその番である、証とかって
あるんですか?」
「それは番同士にしか分からないもので…
申し訳ありません」
「あ、いえ…ただその、私には、相応しくない、
と申しますか」
「歴代の番の方々は皆口を揃えて
そう言われましたらしいですが…
貴女の場合はもう諦めるしかないでしょう」
「え、ど、どうして…?」
「それは…」
と、サトラスさんが何かを言おうとした瞬間
扉が勢いよく、壊れた。
勢いよく開かれたのではなく、木製の高級そうな
扉が粉々に砕かれたのだ。
「…ヴェナント様、何の御用です」
不機嫌そうに眉をひそめたサトラスさん。
目線を向けると、仁王立ちしたヴェナント様が。
「何の、とは…番に会いに来ただけだが」
「話をしてる最中なので、お引き取りを」
「俺はまだ彼女の名前すら聞けていない!」
「あ、ナタです」
「聞きましたね?では、お引き取りを」
「おいサトラス、お前前々からおかしいとは
思っていたが辛辣さが増していないか」
コントかな?と思わず吹き出しそうになるのを
押さえるのが苦しいです。