そのまますたすたと廊下と階段を行き来して
いると、ふと立ち止まりました。
「…俺は今忙しいんだが、サトラス」
また殺気のような凄まじい気配を感じながら
思わず私は身を縮こませていました。
「ヴェナント様、本日いきなり公務を放棄し
無断で外出された事について説明してください」
「番を見つけた」
「………ご冗談を」
「俺は冗談が使えたのか?」
「貴方の様な女性に一欠片も気を使えず
あまつさえ威圧する様な…女嫌いを拗らせた
2000歳児に?本当に番が現れるとでも?」
散々な言われ様ですね、まぁ何となくは
分かってしまいますが。
後2000歳って、かなりお年を召して…うわぁ。
密かに引いてしまいましたが、
男性ははぁと軽くため息を吐いて話を続けます。
「お前じゃなかったら土に埋めていたぞ。
それにアレは俺に経緯を払わないアバズレ…」
「ヴェナント様…」
まるで、その場が凍った様な冷たい空気に
晒されてまた身体が震え出します。
と、漸く私の存在に気付いたのか、サトラスと
呼ばれた細身の、長い水色髪を束ねた男性が
此方に近付く。
その整った顔は目だけは大きく見開かれていて、
それもすぐに無表情になりました。
「申し訳ございませんでした。今回の件には
何も言わない事にしまして…まずは湯浴みを」
「俺が入れる」
「ドむっつり変態魔王陛下、彼女は
怯えておいでです、まずはメイド達に
任せては如何ですか」
「俺が、入れる」
「………」
あぁ何だかこれはまずい気がすると
私は勇気を振り絞って声をかけました。
「………あの…一人で、入れます」
「…と、彼女も言っておられます」
「そうだな、だから俺が」
その瞬間、スパァァンッッ!と言う乾いた音と
共に身体が一瞬浮き、気付けばサトラスさんに
抱きかかえられてました。
とどめとばかり、氷の…塊?が白銀の男性の頭に
振り落とされ…そのまま、倒れました。
「…やり過ぎでは?」
「貴女は優しい方ですね、この拗らせクソガキ
ドむっつり男には相応の制裁なので。
お気になさらず、気に病む必要もありません」
本当に散々な言われ様だなぁ、と思いながら
それ以上は特に私も言いませんでした。
移動中、流石に状況を把握しておきたいのか
サトラスさんに話しかけられました。
「それで…貴女は一体?」
「私は…えっと、オークションで売られてまして、
そこを一応、助けては頂いた?感じではあります」
「…因みにそのオークションは?」
「建物が崩れてましたけど…そう言えば、
大丈夫なんですかね…」
「………話を変えますが、貴女のお名前は?」
「私は…ナタと申します」
少し迷ったが、前世の名前を口にしました。
サトラスさんは少し、驚いた様子で目を見開いた後、
立ち止まって何かを呟き始めました。
「ナタ………神と………親和………??」
小さいので、上手く聞き取れません。
「あの、どうかしましたか?」
「…あぁ、いえ…申し訳ありません。
詳しい話は追々聞かせていただきますが
まずは湯浴みで身体を綺麗にして頂きます」
そう言われ、場所に着いたのかゆっくりと
降ろされました。
真っ白な扉をサトラスさんが開けると
高級感のある、脱衣室の様な部屋。
「アニス、メレス。彼女のお世話を」
「「畏まりました」」
どこから現れたのか…!いきなり両脇に
出現した、メイドさんらしき方。
では、とサトラスさんが出ていくと同時に
丁寧に私の服(と言うかくたびれたボロボロの布)を
脱がし、手を引いて浴場へと連れていかれます。
メイドさん達は脱がないのかと慌てて聞くと、
このメイドさん達の服は特殊らしく大丈夫、
らしいので一旦は納得しました。
浴場は、前世で言うところの銭湯みたいな感じな
内装みたいで親近感が湧きました。
椅子に座らされ、これまた丁寧に、
一応断りましたが仕事なのでと言われて…
まぁ仕方なく身体を洗っていただき、
手を引かれとても広い浴槽へ入らせてもらいました。
いい匂いとちょうどいい湯加減に、
身体の芯まで温まっていく感覚を久しぶりに感じて、
ほぅ…と息が出ます。
暫く堪能した後、脱衣室でまたも丁寧…いや
丁重に髪を乾かされ、上質な…可愛らしい
ピンク色のワンピースに着替えさせてもらいました。
そして部屋から出ると、一先ず客人専用の寝室へ
案内されました。
そこで漸く1人になれて、ベッドに横になります。
「…何だか、疲れた…」
色々と起こったものの、何とか奴隷回避?は
した様で、安心しました。
リリも無事でしたし。
まぁ別の問題は山積みではありますが…
一応何とかなる、のでしょうか?
…リリにまた会いたいと言う気持ちと、
少しの不安を抱えながらも微睡む意識に
そのまま身を委ねて沈んでいきました。